なつぞら2話 感想あらすじ視聴率(4/2)大人が守り、育ててゆくもの

焼け跡では罪悪感すらない

ここで、なつは眠れない中で空襲のあとのことを思い出します。

誰もが、飢えていました。

『火垂るの墓』でショッキングなラストシーンが私の中にも浮かんできました。

ナゼ、子供が駅で飢えて死にかけていても、誰も助けないのか。
それは、誰一人として余裕がなかったからなのです。

なつたちも、そうでした。
あんな幼い少女がぐったりした妹を背負っていても、誰も助けません。

やっと老婆にすがり、彼女が死んだ孫のためにとっておいた食料をもらい、夢中で食べたなつたち。
その老婆にも、死んでしまった孫にも、同情する気持ちすら湧いてきません。

生きるために必死だった。
自身の行為が狡いとか、そういう感情さえありません。

『はだしのゲン』を初めて読んだ時、ショッキングだったのは原爆関連だけではありませんでした。

ゲンにせよ、その仲間にせよ。
大人を騙し、肥溜めに落とすことまでやってのける。
窃盗、暴力、そういうものと隣り合って生きていました。

あんなクソガキが出てくる作品は、それまで読んだことがなかったのです。

はだしのゲン全巻セット

罪悪感だの、恥ずかしいだの、そんなことを考えていたら死んでしまう。
そこまで追い詰められていたのでした。

そのことが、戦災孤児を苦しめることになるのです。
浮浪児なんか、どうせろくでもない生き方をしてきたんだ。犯罪者にでもなるんだ。

就職、結婚……そんな偏見と差別が、彼らの一生につきまといます。

このあたり、実はこのあとの剛男と富士子のセリフにもあります。

「浮浪児の割には素直」
「子供らしくない」

彼らは優しい。
それでも、のびのびと北海道で育った我が子とは違うと、感じているのです。

こうした子供のことは、もう終わった過去のことでしょうか。

そうではないでしょう。
難民や移民の子供たちも、こうした偏見にさらされているはずなのです。

 

剛男と富士子、再会した夫妻の距離感

さて、剛男と富士子です。
この距離感が、なんとも言えませんね。

剛男は、自分の隣を開けてごろっと肘をついて寝ている。
しかし富士子は、ちょっと距離を置いて縫い物をしている。

ん〜〜、この2年間の心理を示すような、絶妙な距離感!

富士子はできた性格です。
婿をとって、家を継ぐ――そんな女子しかいない家の、長女。総領娘です。

立花ギン千代が有名な例ですが、こういう女性はしっかりとしていて、夫だからとむやみに譲らない。
芯の強い育ち方をするもの。富士子はそういう典型例でしょう。

立花誾千代の「女大名にワタシはなる!」(戦国最強 立花宗茂の妻)

だからこそ、夫婦で愛を確かめる前にやることがあります。

なつのことも気になるけれど、我が子も見てあげて欲しい。あの子たちだって、寂しかったんだから。
そう夫に釘をさすのです。
そこには、家を守ってきた女性の誇りがあります。

でも、2年ぶりの夫婦の再会でもあるんだなぁ。そこが夫の、甘えでもあるのです。

「富士子ちゃん、俺も寂しいよ」

寝室。
肘をついてごろ寝。
そしてちゃんづけ。
寂しいアピール。

NHK東京が、本気でこう殴りに行きました。

「これが昭和夫妻の距離感、いい寝室なんだよ。エロとベタベタで萌え〜じゃないだろ!」

 

朝日が綺麗、水は冷たくて美味しい!

翌朝。
なつが全身全霊で十勝の自然を味わいます。

朝日が綺麗→視覚

水が冷たい→触覚

水が美味しい→味覚

なつは、常に五感を精一杯使って、周囲の出来事を感じています。
そのことが時折辛いこともあることでしょう。繊細すぎて鬱陶しい子と思われるかもしれません。

でも、その道を生きていってくれ!

「おい、何してる。顔を洗ってこい」

そんななつに、泰樹がそう言います。
そして牛舎に向かうと、大きな牛がおりました。

「かわいい!」
「めんこいか!」

ここで、牧場で働く戸村父子が登場します。

「挨拶すれ」
「どっから来たのさ」
「どっか垢抜けてるもな」

北海道弁での会話です。

これ、昨日も書いたんですけれども、話している方は「標準語」と認識しているところに特徴があるものです。

◆カーリング女子「#そだねー」は本当に北海道方言なの? 日本語学者に聞いてみた

 

セクハラ対処はこうするもんだ

この戸村父子も、ジェネレーションギャップがうまい。

父・悠吉はなつを息子の嫁になれと言い出す。
それを菊介は共倒れで嫌われるからとたしなめる。そして怯えるなつを気にしなくていいからとフォローする。

あー、昭和です!

父がセクハラぽいことを言い、子がたしなめる。
昭和です、これぞよい昭和です!

悠吉は、あの笑顔といい、悪い人じゃないんだ。
ただ、世代的に若い女=嫁候補という意識が抜けません。

こういうセクハラを、絶対に朝ドラで描いてはいけないというわけではありません。

そうじゃない。ダメだと止める人がいればグッとよくなるもの。
被害者の態度の問題じゃない。受け流すかどうか、そういうことじゃない。

なつは怯え、意味がわからず戸惑う様子がはっきりと出ています。これが、リアルなセクハラ被害者の心境でしょう。

誰もがニコニコ愛想笑いをできるかというと、そうではないもの。内心はどうかとなれば、これまた複雑なものなのです。

周囲が止められるか――これが大事なんです!

このあとも、剛男と富士子と昨晩はムフフ♪
と言いたげな父を、子が子供の前ではやめろと嗜める。

そんな良識の塊のような場面があります。

NHK東京は、現代にふさわしい朝ドラ作りに、全力で取り組んでいますね!

 

牛にもただいま

ここへ、ちょっと遅れて剛男がやって来ます。

この場面があたたかいのです。

「よくぞご無事で」
「おかえんなさい。いかったなー、おやっさんもこれで一安心だべ」

そう北海道弁で言いながら、頭を下げる戸村父子。
雇用主へのいたわり、敬愛、優しさ、戦争から戻ってきたことへの安堵。そうしたものが詰まっています。

このあとちょっとセクハラ混じりで、富士子さんとムフフ♪ でもいいのに、というのは前述の通り昭和オヤジジョーク混じりの気遣いですね。

牛を愛おしそうに撫でる、そんな剛男のちょっとした仕草からも、安堵と愛を感じました。

牛はめんこい。それだけではありません。

金を稼ぐための宝でもある。家族を養う資産でもある。
そういう酪農家の、牛への愛着があります。

そしてここからが、搾乳です。コツがあって、かなり大変であったことでしょう。
よくぞここまで、やりきりました!

『動物のお医者さん』を思い出した方もおられたのでは?

ここで、ボサッとしていないで仕事をしろと言われていたなつがウロウロします。
と、血相を変えて周囲が怒鳴って止めるのです。

「牛に蹴られて死んでしまうぞ!」

これは意味のない怒鳴り声ではありません。

牛に蹴られたら、死ぬ――。

◆畜産現場 減らぬ事故 牛にぶつかられ? 北海道の酪農法人で男性(61)死亡

牛はおとなしい。
その反面、神経質。
近寄っただけで乳が出なくなるならばまだしも、パニックになって蹴りを入れたら?

その体重は、800キロから1トンにまでなることも。

死にます。確かに死にます。
ここで怒鳴った大人たちも、そういう凄惨な事故を見るなり、聞くなりしてきたのでしょう。

そんなわけで、手伝う前にまず牛と仲良くなるんだと告げられるなつ。

牛はめんこい。
牛は宝。
そして牛は、殺人獣にもなり得る……!

しかも、泰樹はこうです。
「甘やかすな」

いや待って。
蹴られたら死ぬ動物と仲良くするって、ちょっと待ってぇえぇ!

怖いな、この朝ドラは……。
怖いぞ、北海道ぉ……。

ラストの牛さんのアップも、なんだか怖い!!

 

子供は大人が守り、育ててゆくもの

今朝は、実に清々しい回でした。
牛は怖いんですけれどもね、まぁ、それはね。

勉強になりました。

「牛さんかわいい、牛乳おいしい〜!」
じゃないんだよ、命がかかっているんだよ。そんな北海道の叫びが聞こえたような気がしました。

そしてもうひとつ。
大人たちに「子供を守る」というごく当たり前の認識があって、とてもよいと思えました。

剛男がなつを連れてきたことが、まず前提にあります。
富士子がそんななつを受け入れつつ複雑であるのは、我が子と同時に守りたい気持ちのためでしょう。

そんな夫妻には、夫婦愛よりも子供のことを先に考える。そういう優先順位があります。

戸村菊介は、父の冗談を受け流さず、子供のなつの前ではやめろとたしなめます。

そして、牛に蹴られたら危ないと怒鳴る大人たち。

年代的に泰樹や悠吉は、ちょっと無神経に見えるかもしれません。守ってもらえなかった子供の、育った姿なのかもしれません。

こうした年代差を見ていると、世の中がよくなっていったこと。
子供にもそうであったことがわかってきます。

開拓者第一世代が、第二世代を優しく育てたからこそ、彼らには親の世代にはない細やかな心情がある。

そんな第一世代の見えにくい優しさ。

第二世代のわかりやすい優しさ。

これを受け止めて、なつたちはどう生きてゆくのか?

大人とは、若い世代に威張りちらし貶すだけではなく、支え導くものだ――そんなメッセージが、本作からは伝わって来ます。

血縁関係だけではありません。誰もがそういう関係を築けるのです。

「それでこそ赤の他人だ」
と泰樹は言いながら、なつと祖父と孫のような関係を、これから築いてゆくのでしょう。

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文:武者震之助
絵:小久ヒロ

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5 Comments

904型

夕見子らに募る不満。悪くするとなつの身の置き処がなくなりかねない。
固唾をのんでいたところへ、泰樹の究極とも言える受け入れ宣言が!
この状況で、こうまで言い切られれば、誰も「居るな。置くな」とは言えない。
正に、究極の、本当の優しさだと思いました。このシーンを見たらもう胸が一杯です。

真剣勝負二日目。もう圧倒されまくっています。

匿名

食糧事情が酷くなくても、余所者故の悲哀を描いていますね。これが、大阪が失ってしまったものですね。

むぎすけどん

奥山玲子さんは実際は仙台出身ということですが、北海道に疎開してたこともあるんでしょうかね。

小学校の頃、釧路にいたのですが、酪農家の友人の牛舎に行ったとき、はじめに注意されたことは「牛の後ろに行くな」でした。
朝ドラを見てて、この辺リアルだなぁと思いました。

草刈正雄がもはや真田昌幸にしか見えないし、片桐さんも登場して歓喜した。

むんむん

地方出身の小娘という批判!
これには猛烈な呆れと失笑を感じましたね。
コイツらはジャパンクールの担い手かつ、海外評価の高い漫画家やアニメーターの多くが地方出身だということを知らんらしい。
特に北海道なんてゴールデンカムイの野田サトル先生や銀魂の空知英明先生、少女漫画のレジェンド・山岸凉子先生始め大勢の漫画家さんを輩出している聖地ですよ、聖地!!
これ以上ない舞台はありません。
あっ、漫画に興味がなければわからないか。

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