明治43年(1910年)京都。
日本一の「ゲラ(笑い上戸)」娘ことヒロインの藤岡てん。
すっかりお年頃のお嬢様に成長していました。
もくじ
まずは兄の新一に結婚をさせたい儀兵衛だが……
ふざけて笑い失敗もするけれど、料理の腕前もなかなかのもの。
これなら今すぐお嫁に出せると、祖母ハツはてんに太鼓判を推します。
しかし、てん本人はまだ女学生だから、とやんわり断ります。
父・儀兵衛としては、順番があるからにはまず兄の新一を結婚させたいと考えているようです。
ただし新一も、研究をきわめたいとこれも断ります。研究よりも彼の場合は病気が問題となりそうですが。
新一は、帝国大学は休学中、知人の研究所で研究をしているそうです。
もっとちゃんと療養した方がよい気がしますなあ。
手代にまで出世した風太は、てん宛ての北村藤吉の手紙をまだ取り次いでいました。
てんが年頃になったためでしょう。てん付きの女中・トキがここで登場。手紙のことで文句を言う風太から封筒を取り戻し、主人のてんに渡します。
「日本一の芸人になったら会いに行くから」
藤吉への憧れは、積み重なっておりました。
てんはトキと妹のりんから、手紙の相手に恋をしているんですねえ、とからかわれてしまいます。
そんなことはないと弁解するものの、それは恋心でしょ、とますます突っ込まれます。トキとりんは、今後もてんの恋を応援してくれる存在になるのでしょうか。
藤吉は苦節八年、今では大阪の「南北亭」でトリを任されるほどに出世したとか。
身なりも随分とよくなって、ファンが黄色い歓声をあげています。
本当かな?
「日本一の芸人になったら会いに行くから」
てんはうっとりしながら、女学校の庭で手紙を読みます。
しかし、このあと映る藤吉は八年前と大差ないユーズド感溢れる……要するにボロい衣装を着ています。
あの立派な身なりの藤吉はてんの妄想でしょうか。
その頃の芸人は賤業と見なされていた
藤吉の芸人仲間のリリコは、藤吉から手紙を取り上げます。
リリコはどうやら字が読めないようです。
手紙を書けるからには、藤吉は最低限の教育は受けているわけです。達筆ですし、わりと育ちがよいのかも。
手紙を夢中になって読むてんは、同級生たちが近づいていることに気づきませんでした。
「まさかぁ~恋文?」
はしゃぐ同級生たちですが、芸人の手紙と聞いた途端にシラけます。
「人に笑われてお金貰う人?」
「ああ、その日暮らしの旅鴉や、ってお父ちゃんが。落ちこぼれや半端もんがなるもんやて」
エー、マジー、信じらんないよねえ、というような雰囲気に。
てんは「違う! この人は立派なお人なんえ!」と否定します。
しかし当時の人としては同級生たちの感覚がむしろ一般的でしょう。放送できないような、もっと差別的な形容もありました。
芸人は賤業と見なされていたのです。
手紙は八年前の「くすり祭り」から
てんはさらに厳しそうな教師に見つかってしまいます。
母・しずまで女学校に呼び出され、叱られてしまいます。
こうしててんの秘密は、母に知られてしまったのでした。
しずは藤吉の手紙は八年前の「くすり祭り」からと聞いて驚きます。
変な虫がつくまえに縁づかせたかったのに、そんな早くから、と言いたいところでしょうか。
ハツは毅然とした笑顔で、どこかよい家に嫁ぐことが生まれもったさだめと諭します。しずも、ハツも、そのさだめで幸せになってきました。それ以外に道があるとは想像すらできないのでしょう。
儀兵衛には絶対に言わないから黙っておくように、と母から念押しされるてんでした。しずって迫力あるなあ。
儀兵衛は伊能製薬と見合い話を進め
そのころ、儀兵衛は大阪の伊能製薬という、先進的な製薬会社とある話をしてきました。
和漢だけでは時代遅れ、西洋の医薬品を藤岡屋でも作らねば乗り遅れると。
伊能邸は立派な和風建築に西洋渡来のランプ、椅子、テーブルが置かれ、まさに和洋折衷を象徴しています。八年間で日本の製薬業も変わって、ドイツ人相手ではなく日本人相手でも西洋薬品を扱えるようになったのでしょう。
京大阪の製薬会社が組むとなると相手にとってもよい話です。
それには家同士の結びつきが大事です。儀兵衛は新一にご令嬢をめあわせるのかと思ったようですが、違うようです。
これを指摘するのは辛いのですが、新一はあまりに病弱で、いついつまでの命という予感がしますからね。そのへんの話を相手も聞いているのかもしれません。
てんが恋文事件をりんとタキ相手に嘆き、忘れようにもできないとこぼしていると、風太、そして儀兵衛が飛び込んで来ました。てんの名を叫びながら儀兵衛は部屋に駆け込み、「お前の婿さんや」と写真をつきつけます。
「よかったなあ……」
この写真に映っているのは高橋一生さんですからね。そりゃ「よかったなあ」ですよ。
今回のマトメ
てんの道筋が堅実に示された二週回。運命の出会いである藤吉と歩む道はかなり険しそうだと見えて来ました。
家族の反対だけではありません。同級生たちが芸人は賤業だと突きつけてきました。
これは彼女らだけではなく、当時の世間での見方です。芸人を誇りある職業に変えていく。それがてんの目標になるはずです。
藤吉へのロマンチックな恋心は甘ったるく思えますが、なかなか苦い現実にもこれから直面することでしょう。
てん本人も気づいていないかもしれませんが、これは恋心だけではなく、もっといろいろな願いが入り混じったあこがれのはずです。
京都のお嬢様としての生活は、安定しているけれども「籠の中の鳥」のようなものであったはず。全国各地を回る藤吉からの手紙は、外の空気を運んでくれるものでした。
てんの恋心には、笑いをもっと極めて皆に広めたいという思い、外の世界への憧れも混ざっているはずです。
外の世界に憧れた鳥は、籠の中には留まれません。ヒロインが籠から出て飛び立つ前の準備が、着実に始まっています。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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