「言いたいことはわかった。それは勘違いだ」
亜矢美は「バカでしょ」と面白がっています。
「まさか嫉くとか?」
「この人は母ちゃん、母ちゃんみたいなもん」
そう二人は否定するのです。
「あっ……」
ここでなつは、藤正親分の言葉を思い出します。
浮浪児であった兄を拾ったダンサーが、彼女なのだと。
私をバカにするな!
ただ、それでも納得できません。
煙カスミは知っていて、ナゼ隠したのでしょうか。
そう尋ねるなつに、ばつが悪そうな顔になる亜矢美です。
「気遣いじゃないの?」
「どうしてですか!」
そう突っ込むなつをかわし、会えてよかった、一緒に暮らそうと提案します。
上には二部屋あるんだとか。
本作ってセットもよくて、昭和新宿のボロい家という風情が出ています。
これが大きく変貌するのは東京オリンピックから。『いだてん』でやりますかねぇ。
咲太郎は生活の面倒を見ると啖呵を切ります。俺に任せろって。
しかし、亜矢美からすればそれは甘いってことになる。丁々発止、早口できっちりと応戦します。
本作のすごいところって、結構セリフを詰め込んでいるのに、そうは感じさせないところです。
無駄がないし、おもしろい。
この頂点は十勝においては、総大将・とよババアでしたが、新宿では誰でしょうね。
咲太郎は、なつのために働くと強がる。
亜矢美は、なつに働いてもらってもいいと言う。
しかも「かわいい子」だなんて言ったもんだから、咲太郎が反発。客寄せパンダに使うな、ってことですね。
これが正しい家族の反応じゃないでしょうか。
身内の娘だろうが何だろうが、美貌を利用しろとけしかけていたかのような前作****は酷かった。
しつこく****を出しすぎだとは思いますが、あんな反面教師はそうそうないからね。
しかし、なつは納得できません。
「嫌です、やめてください!」
そしてこう言い切ります。
「二人ともバカにすんな、一人で生きられる! 帰ります!」
なつはそう飛び出すのです。
追いすがる咲太郎に、なつは断言します。
「兄ちゃんは私と千遥を捨てた!」
それで楽しかったんだと。死ぬほど心配していたのに、関係なかったのだと。
なつはそう詰め寄るのです。
なつに宿った魂がある
今日は圧巻でした。
なつの咲太郎への反応には、泰樹の魂を見た気がします。
咲太郎が感じ取った北海道。
それはなつの強さでしょう。
話を聞いてくれない。そういうことへの苛立ちがハッキリと感じられます。
そこへきっぱりと「違う!」とつきつける、彼女のそういう芯の強さが生まれてきましたね。
これも北海道での日々あってのこと。
なつは変わりました。
怒ることすらできなかった幼い頃。泰樹はそんななつに「怒れ」と言いました。
泰樹にはどうしても遠慮してしまったものの、とよババアの修行で本音を言う素晴らしさに目覚めます。
こうした過程を経ていると、なつが東京で馴染めない理由も、周囲との違いも見えてきます。
鉄面皮の下に寂しさを隠しているマダム。
照れて本音を小出しにする佐知子。
亜矢美は開けっぴろげのようで、カスミとの知り合いだと隠していた。
なしてそうなるの?
北海道では、とよババアを頂点に、富士子、夕見子、明美、妙子、よっちゃん、砂良……ズケズケと本音を言い合いました。
そんなのおかしい!
かつて東京で、本音を隠して米兵に笑顔を見せていた。
そんな靴磨きの女の子。
それがここまで変わったのです。
私は一人で生きられる!
なつはそう言い切りました。
これには突っ込みもあることでしょう。
「川村屋の世話になっておいてどういうことだ?」と。
それは彼女だけの問題でしょうか?
女は一人で生きていけないように、社会がそうしてきたとは言えませんか?
日本では、長らく専業主婦モデルというものがありました。
この前、子供向けのアニメを比較していて痛感しました。
『サザエさん』、『ドラえもん』、『ちびまる子ちゃん』はまさにこれです。
前作****もまさにこのど真ん中で、主人公姉妹は年頃になれば結婚することに何の疑問も抱いておりませんでした。
週のサブタイトルに「結婚はまだまだ先!」と入っている時点で、げんなりさせられたものです。
それが当時の常識とは言わないでくださいよ。
『カーネーション』は違いますからね。
なぜ専業主婦モデルがあるのか?
それが社会システムとして組み込まれていたからです。
そこからはみ出して保育園に預けようとすると、叩かれる。
『半分、青い。』の楡野鈴愛は、シングルマザーとして育児に挑んでいたものの、
「ろくに育児をしない!」
「こんなの母親じゃない!」
と叩かれました。
専業主婦以外は母として、人として、クズだと言い切る。
そんな声にゾッとしたものです。
今週の咲太郎と亜矢美。なつとの対立にも、そんな社会常識への挑戦を感じたのです。
咲太郎も亜矢美も、なつのような若い女は、保護されなければいけないと思っている。
そのかわいらしさが役立つと考えている。
なつは違う。
保護を求めていると思われることは、侮辱だとすら反発する。
彼らを責めることはできません。
特に亜矢美は、そうして生き抜いてきたのだから。
夕見子と富士子が、進学をめぐり対立したように。
泰樹が、結婚こそ幸せだと思っていたように。
照男が、想いを寄せるなつを手放す天陽を理解できなかったように。
時代が違えば、性格が違えば、すれ違うのは仕方のないことなのです。
むしろなつこそ、心の狭い人からすれば、生意気で可愛げのない女の子かもしれない。
似たところのある鈴愛も、さんざん叩かれました。
前作****の*ちゃんのように、夫から感情をもらい、横でニコニコしている方が、かわいいのかもしれないけれども。
なつはそうじゃない!
反発します。そういう子。自分らしく生きるために、強く生きていくのです。
これぞ100作目の挑戦だと思います。
本作には、明確なフェミニズムの流れがあるのです。
「いやいや考えすぎちゃう?」
そういう突っ込みもあるでしょうが、こちらも、ただの思いつきで言っているわけでもありません。
実は朝ドラでは、女性の権利を矮小化する傾向がありまして。
『あさが来た』のモデル・広岡浅子。
『花子とアン』のモデル・村岡花子と柳原白蓮。
思想的な流れからいけば、アカデミックなフェミニズムの源流とも言えるものがあったはずですが、ドラマではかなり縮小されていました。
そういうアカデミックなフェミニズムは、今後、夕見子の担当となるかもしれませんね。
なつや本作の登場人物は、そうではない、学術的なものではない、生きていくうえで痛感する、私らしさを貫くことの大切さ。
そういう思想があるのです。
私らしく生きるために、何をすればいいの?
そう素朴に考えた結果、女だからああしろこうしろと言われたくない――そういう境地に辿り着く。
映画で言えば、これですね。
「女がダメかって聞いてんのさ!」
というなつのセリフからも、その片鱗を感じました。
女だから保護されて当然だとか、黙って従えだとか。
なしてそんなこと決めつけられんのさ!
失礼だ!
なつはそう怒ります。
2019年にふさわしい、怒りと行動力のあるヒロイン。
そんな姿を本作はしっかり見せてきます。
なつの中には、男である泰樹から受け継いだ魂があります。
男だとか、女だとか。
こういうことは女だけが考えるべきだとか。
そういうせせこましい価値観に「違う!」と言い切る。
あなたにもできることはあると言い切る。力強い作品です。
※追記
前作****の時に、鋭いご指摘をされていた近代食文化研究会さん『お好み焼きの物語』は必読の一冊です。
皆さま、ぜひともお手にとっていただければと思います!
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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咲太郎の人となり・アウトラインが、おぼろげながら、少~しずつ出てきつつある感じではありますね。今のところ、見ている当方は、なつ寄りの受け止め・感想を持ってしまうのですが。
いずれ、なつが、今回のラストで咲太郎にぶつけた言葉を悔やむ時も来るのか。
亜矢美が腹中に抱えていそうな秘密の方は、今回は未だ進展なしという感じです。