両者相討ち……
なつも、ノーダメージのわけがありません。
風車にたどりつき、上機嫌で接客中の亜矢美も気がつくほど、暗い顔を見せたのでした。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
なつは呆然とした顔のまま、自室へ向かいます。
翌日、坂場はあの噴水でどんよりとしていました。
「イッキュウさん!」
下山と仲が心配して声を掛けてきます。
辞めるなら一緒に、とまで語りかける下山が善人です。
二人は、なつの欠席も告げるのでした。
なつはそこまでショックを受けているわけです。
下山と仲は励まします。下山は、やりたくてついて行ったと言います。
仲も、日本であんなアニメーションが作れるとは、と賞賛を惜しみません。世界にも類を見ない作品だと言い切るのです。
「そんなことどうだっていいんです!」
突如、坂場が声を震わせます。
あー、もう、また順番を間違っている。自分一人で生きてきた感が醸し出されている。そこは注意しようよ……。
「それよりも、もっと大事なものを、僕は失ってしまった……」
「えっ、坂場くん?」
二人は動揺しています。
そのころ、とあるビルの一室、403号室ではーー。
風車プロダクションで、電話が鳴りました。
咲太郎が入り浸っている声優プロダクションです。
電話をかけてきたのは、亜矢美でした。彼女の口から、なつの異変が語られます。
帰ってきてから食事もしない。
出社もしない。
具合でも悪いのか。
見られるわけでもないから、部屋の中を見たわけではないけれど、ずっと泣いているのかもしれない。そんな感じがする……。
「絶対何かあったな」
「何かな?」
「それはやっぱり……あれじゃないのかな?」
なつよーー。
父も、言葉に詰まって名前しか言えません。
蝉の声の中、討ち果たされたように倒れっぱなしのなつでした。
明日は咲太郎無双!
はい、明日ですが。期待と予想をこめておきましょうか。
咲太郎無双の炸裂!
【抹殺パンチ】レベルの武力討伐が、坂場に向かいます。
咲太郎は、仲を誤解から噴水に突き落とした前科もあります。
なつぞら51話 感想あらすじ視聴率(5/29)コネなど不要、実力で勝負だここまで意味ありげに出してくると、絶対にろくでもない過程を経て、何か着地を迎える結果が待っている気がするのです。
雨降って地固まるレベルじゃない。
そんな乱世レベルのヒロイン婚礼にしなくてもいいじゃないか……とは思いますが、もう宿命なんです。
ただ、そこで止まるのであればよいのです。物理的抹殺でなければ、所詮はかすり傷よ!!
【あのドラマのネタバレ注意!】
繰り返しますが、ジョン・スノウになってからは遅いのです。
ジョンはなつと同じで、相手への愛を語っていたのに。相手となる彼女は、「玉座、玉座、玉座ァ!」連呼していて、嫌な予感はあった……。
※愛だけでは生きられなかった……
才能を愛しているのか?
どうしたって、比較してしまうのは前作****なんだな。
意図的に逆を狙っていないか? と思うほど、NHK東京とNHK大阪の作風に差がありすぎて、どういうことなのかと不思議になってくるほどです。
才能や肩書きを愛した者。
そうではない者。
その別離パターンは、『半分、青い。』における萩尾律とより子もそうでした。
より子はステータスを求めて、律を選んだのではないかーーと周囲から言われておりましたが。
その真偽はさておき、より子は律の顔と地位は愛していても、性格はできなかったのです。律にも歩み寄りが欠けていたと思われます。
前作****の場合、夫婦が互いの性格まで含めて愛しているとは、全く思えませんでした。
・収監中の夫に「発明できないお前はもう死んでいる」と北斗神拳伝承者発言をしたヒロイン*ちゃん
・実家仕送り、画家というステータスシンボルを愛していて、仕事内容をろくに理解していないネトゲ廃人画伯の妻
・見た目は他の女より劣るけど落としやすいし、取り入れば会社社長一族に接近できる感満々だった宦官**
・結婚相手はステータスを見ろとしつこい武士の娘
別にいいとは思いますよ。
ステータスシンボルをお互いに求めて、それで愛し合って。
セレブ妻の地位なり、トロフィーワイフを得て満足できているなら、それでいいとは思うんです。
それで満足して、それ以外のカップルを攻撃してこない限りはね。
お互いの境界を決めて、はみ出さなければそれでいいんですよ。
本作にだって、そういうカップルがいないわけでもない。
夕見子と高山です。
夕見子は、社会実験の一環でつきあったのかと突っ込みたくなったほど。
高山のプッシュに押されて、自分もそうだと思い込もうとしたのか。
「人というのは、二十歳近くなれば性の目覚めや恋をするという。このあたりで経験しておくのも悪くない。ほほう……これがドライブデートとな!」
そんな、理想的な恋する乙女とは真逆の、極めてめんこくない策謀の元でああなったかもしれない。
実家に高山の車で帰省した時だって、恋するワクワク感はありませんでした。
なつぞら84話 感想あらすじ視聴率(7/6)男子厨房に入るべき【抹殺パンチ】のあと、思い出すわけでもないし、洗脳から解き放たれた感ばかり出ていました。
【表裏比興】枠は、最近のフィクションでは増えておりますが、それでも女性枠はかなりレアでして。
なんつったって、めんこさが出しにくいからのぅ……。彼女がメインヒロインなら、鈴愛以上にボコボコにされるかもしれない。
やっぱり雪次郎クラスでないと、扱えないっしょ!
社会の中の迷子たち
なつはずっと、恋する気持ちを探してきました。
坂場もモヤモヤと、それとなくはあったはず。
ただ、恋愛が苦手なんだなぁ……。
坂場の謀反盟友・神地はそこまで苦手じゃない。
「俺は茜ちゃんが好きだ!」
「こういうことをすれば、きっと茜ちゃんは喜ぶはずだ!」
というところまでは、一応わかって理解して、その上で動いてはいる。
しかし、坂場は自分の恋心すら掴みきれていないし、ましてやこうすればいいという規範すらわかっちゃいない。
坂場と比べると明白ですが、前作****の**さぁんは、偽りの【表裏比興】なんですよ。
【エキセントリックで人の気持ちがわからない天才枠】のつもりで、嘘っぱちでした。
彼はすぐに*ちゃんをロックオンしたし、パンチラするし、デートらしきものにも誘ったし、そこはコントロールができている。
天才を演じて、周囲をコントロールすることまで習得している。
賢いといえばそうですね。まぁ、騙すことだけは天才的。
坂場はその点、迷子になってしまった。
何もわからない。
退職届を出す時は、申し訳なさそうにした方がいいとか。
辞めるだけではダメで、周囲を巻き込んで迷惑をかけたと反省しなくてはならないとか。
負けたからとさっさと撤退することの持つ、攻撃性。
自分の理論と勝利条件が達成できなかったから諦めて、その結果なつを傷つけること。
そこが全くわからん! わかっていない……絶望的なまでにわかっちゃいないのです。
坂場の絶望を理解するとともに、お仲間についても納得できて来ました。
【泰樹】
言うまでもなく、本作一カッコいい男です。
それなのに、北海道に渡って独立した時期から結婚まで、それなりの年数があると推察できます。一人娘だけしかいないのに、再婚すらしていない。
牧場も、カリスマ性がある割には小規模。信頼できる戸村親子しか働いていない。農協という組織に断固反対していた。
あっ……これもあれですね。
妻への愛を疑うわけではありませんが、そもそもが絶望的に信頼できる人間関係範囲が、狭いんだわ。
大人数を相手すると、ストレスがたまってしまう。逆に一人耐性は高いとみた。限界になると、信頼できるとよの元に向かいます。
【夕見子】
今まで、なつと共通する範囲外で、彼女の友人が出てきたことがありません。高校は別だったのに。
例外は高山ですが、それも【抹殺パンチ】だわ。
高山と心が通い合っていないことも、その過程でわかるわ。
ガールズトークをする夕見子の姿って、想像できます? なんか哲学論を始めそうでしょ。
なつと明美とすら、普通の雑談をあまりしていないぞ、いつでも理屈っぽいぞ!
【坂場】
公式サイトでもトラブルが多いと明言されるわ。
今朝も悪口で盛り上がられるわ……。
【萩尾律】
律の親友であるマァくんは、顔では劣るけど自分の方がモテると自覚していました。
顔がいいのに気持ち悪いと言われることすらあるし、作中でも顔の割にモテていない。
離婚も一回。
梟会やマァくん以外の友人も多くはなさそうですし、両親や鈴愛も嫌われないかと心配するほど。
【秋風塾の面々】
鈴愛も「最低最悪の性格」とアンチから執拗にバッシングされました。
理解する気のない薄情な人にどう言われようと、それが鈴愛だもの。
劇中でも、友人がそんなに多くはありません。ユーコとも、生々しく激突してからの友情でした。
その師匠の秋風にせよ、犬しか友達になれないと自虐するほどでしたし。
ひしもっちゃんも、我が道をゆくロリータファッションで、言うことがきついし。
鈴愛にせよ、律にせよ、会社勤務できなくなって起業する理由はよくわかりましたとも。
【****教団員】
きみたちは、忖度と社会ステータスの確保がお得意だろ。
個性が強いクリエイター気取りは、無駄だから嫌いなんだ無駄無駄……。
ただ、見守れない、理解できない側である教団員を、責めても仕方ないとは思います。とてもしんどいのはそうです。
「天才性のあるダーリンをわかる私はいい女♪」
「誰にも打ち解けられない美少女を理解し救う俺♪」
そういう設定を萌え対象としたフィクションは、最近増えています。
ただ、そういうイージーな話じゃないんだってば。その手の軽い感覚では、実体験には対処できないでしょう。
そのあたりの難易度が高い本作は、誠意があります。
なつ、坂場、夕見子が嫌いな人、本作そのものが受け付けられない人は相当数がいるはず。
そこがリアリティであり、誠意です。
千里の馬は常にあれども
本作って、前半部はなつが周囲から理解を得るための話でした。
が、終盤に入ってからは、理解されて救われたなつが、理解する話になってきました。
理解されないと潰れる代表枠が、坂場なのでしょう。
本作に似合う故事成語があります。
【千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず】
千里を走るような名馬は、いつでもいる。
けれども、そのことを見抜くことのできる人は、いつもいるわけではない。
戦災孤児であったなつや咲太郎。
女であっても大学進学をめざした夕見子。
そして人間的に、めんどくさすぎる坂場や神地。
彼らの才能を見出して走らせるか。
それとも、馬刺しコースか……。
そこをどうするか。
厳しくぶつかりあってこそ、助け合ってこその社会じゃないか。
そういうメッセージ性を感じます。
『半分、青い。』にも通じるものがありました。
鈴愛も、片耳が聞こえないハンデはあるし、履歴書の職歴欄も埋まらないし、シングルマザー。それでも周囲の理解のおかげもあって生きていく。そういう話でした。
じゃあ、その正反対は?
これから先はおまけですが、前作****を表す言葉も、ついでに見つけました。
【凡庸な悪】
ハンナ・アーレントの言葉を使うことには、抵抗はありますが。
牛刀をもって鶏を割く、ってなもんよ。
前作****は、戦争の扱いが天変地異のような仕方のないことという位置付けでした。
**さぁんはじめ、主人公周辺は悪事をやらかしているものの、それをほっこりきゅんきゅんだのパンチラだので覆い、夫婦の物語として演出しています。
忖度。迎合。外戚と宦官による腐敗。親族経営。コネ頼り。
そういう腐敗を、ほのぼのとするところが、まさしく【凡庸な悪】の極みだと感じたものです。
なぜに朝ドラでこんなことまで考えさせられるのか?
NHK大阪は罪深いことをしている。
むろんNHK東京は応援しますとも。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
昨日の話ですが、じいちゃんの名誉のために書かせてもらいます。
>牧場も、カリスマ性がある割には小規模。信頼できる戸村親子しか働いていない。
ドラマをざっと見た感じ10頭以上はいたんじゃないでしょうか。あの時代に10頭以上いれば十分大規模です。(統計では昭和35頭の北海道での1戸あたりの頭数は3頭だそうです。)
それに「戸村親子しか」って書いてありますが、当時は(今もそうですが)農家は家族経営が圧倒的に多いのに、人を雇ってるだけで十分すごいです。
柴田牧場ではじいちゃん、父さん、母さん、長男、次女、なつと働き手がいるのに、さらに二人も雇わなきゃならない。どんだけ繁盛してるのよって感じですよ。
裸一貫で入植して、ここまで発展させたじいちゃん、やっぱり凄い! ということで。
空襲から始まった本作ですが、坂場さんの顛末をみると、火垂るの墓を作るまでを見たくなります。
今回の失敗は、制作する人間の恐怖ですが、それを恐れて自分や周囲に妥協すると、決して作れない作品があるんですよね。
凡人には超えられない、そこを超えられる坂場さんは天才の資格を持っていますよね。超えたからといっても、全く成功は保証されないわけですが。
凡庸な悪、は、おぞましさに鳥肌が立ちます。
穴やブツブツの集合に強い嫌悪感を感じる「トライポフォビア」という症状がありますが、それになったような感じ。
オートマティックに無自覚に疑問を抱かずに、淡々と増殖するものの恐ろしさですね。
なつぞら(半分、青いもですが)を見ていると、本当にADHDや自閉症スペクトラムを研究しているなぁと唸らされます。
どの場面も全て「あるある」ですもの。
坂場くんの退職シーンや別れを告げる所、なつの慰めではなく改善点を出すどころなんて、リアルすぎて驚きました。
「私(すみませんADHD者です)もおんなじことしてる!!」と。
いいぞ!もっとやってくれ!!