柴田の血と牛乳で背が伸びる
「どう、優ちゃん、うまいか?」
優相手にデレデレしているおじいちゃんは、剛男です。
これもおじいちゃんの悲しい戦術が見え見え。妻であるおばあちゃんが手をかけた乳製品で釣って、膝に乗せているんですよ。
でも、こういうの、子供には結構バレるものですよ。
「ありがとう、おばあちゃん!」
ほれ、優はおばあちゃんの方に関心があるように思えるし。富士子は、そんな優に感心しています。礼儀作法が行き届いているって。
それも光子のおかげだと、なつはしみじみと言います。
やっぱりあの方は、お姫様なんだわ。
昭和のお姫様の厳しさも、本作は避けていないように思えます。
『花子とアン』で駆け落ちを描かれた柳原白蓮。
自由恋愛の女のようで、晩年は皇族に平民が嫁ぐことに大反対しておりまして。
上皇后美智子様バッシングの先頭に立っていましたからねえ……。
朝ドラを見たあとだと「えー、あなたにそんなこと言われてもさぁ〜」となりそうですが。
◆『花子とアン』モデル白蓮 美智子妃ご婚約に猛反対していた|NEWSポストセブン
めんこいうえに礼儀正しい、そんな優に柴田家はメロメロ。菊介は、じいちゃんと剛男の対決だと笑っております。
それはあまりに剛男に勝ち目がなさすぎるべや。
「そのうち食われちまうかもな」
出た。ヒグマと戦う道産子ジョークかよ。
食べちゃいたいくらいめんこいんでしょう。
「優はみんなにかわいがられることに慣れている」
なつはしみじみとそう言います。昔の自分と重ねているのでした。
そこへ、照男と砂良長男の地平が、中学から帰ってきました。ちょっと照れている感があります。
うーん、昭和の中学生。
学ラン、カバン、昭和だ。顔が赤らんでいるように見えるのも昭和です。
もちろん坊主頭です。
なつが抱っこしている二男・拓男も昭和っぽい。
いや、逆に昭和っぽくないかな。昭和の子役はここまで実はうまくないことも多かったと思えてきました。演技が向上している。
はい、ここで思い出しましょう。
あいつですよ。夕見子です。
帰宅早々、荷物も置かずに煽っていた。あいつはやっぱり変わっています。
その変わり者は今、どこにいるのかな? 情報量を抑制するために、敢えて出てこないのでしょう。
地平はぐんぐんと背が伸びています。
「しょうがないしょや」
砂良は諦めた口調。衣服の買い替えに苦労していそう。柴田家の家系(泰樹と富士子はじめ、高い!)、そして毎日飲む濃い牛乳。中学生だとリットル単位で飲めっぺな。
これも本作のおもしろいところかもしれません。
役者さんは長身の美男美女が多いため、劇中設定がちょっと違うことはよくあります。
「私はごく普通の女の子……」
とウジウジしている主人公が、どう見ても美少女とか。
『半分、青い。』もそういう傾向がありましたが、役者の容貌と劇中設定が、結構一致していると思いますよ。
で、鈴愛、なつ。律、イッキュウさん。美しい容姿を上回る性格的な個性があると。
おかあさんは普通の人だから
なつはその夜、優を寝かしつけてから、富士子に本音を語ります。
「かあさん、今の仕事、辞めるかもしれない……」
「えっ、なして?」
「お金のこと考えるけど。優といる時間を一番大切にしたい」
「それがなつが出した答えなら、そうすればいいしょ」
「少し疲れてしまった……」
なつはそうしみじみと言います。
トランクには、『大草原の小さな家』が入っています。ここで大事なことはイッキュウさんとの比較かもしれない。
なつぞら133話 感想あらすじ視聴率(9/2)魔王が男女で降臨だ彼は配慮しない。平然とマコプロに誘う。疲れている妻に気づかない。優への気持ちにも気づかない。
で、これだ。
「そんなにやる気を失っているのか……本、置いとくから。暇あれば読んで」
情緒ケアができない、それがイッキュウさん。
これと比較すると、富士子は普通の人なんだと思います。
イッキュウさんは中川大志さんでカッコいいし、家事育児にも協力的で、才能に溢れています。
けれども!
彼と一緒にいると、ものすごく疲れるとは思いますよ。そこの認識は必要かもしれません。
穢れなき、天の太陽よ
なつは山田家に向かい、位牌に手を合わせます。
遺骨、位牌、遺影。
こうしてあると、本当にもう会えないのだな――そんな気分になります。
あんまり戒名は見ないし、詳しくもない。ただ。
【釋浄陽】
というものは、彼にあまりにあっていて、辛くなってしまった。
穢れのない太陽みたいな人だった。
なつは遺族に断って、アトリエに足を運びます。
そこには、馬の絵が一面にありました。
すべてが気合の入った力作で、画集が欲しくなるほど。モデルのものを求めればいい話ではありますが。
ここで優がこう言います。
「あっ、ママ、本物だ! 本物のお馬さんがいるよ」
なつは、その絵をじっとみつめます。
なつよ、それが天陽君の遺作だ――。
父がそう告げるのでした。
さようなら、森の妖精
天陽は、モデルのこともありますけれども。人間ではないような、不思議な存在感がありましたよね。
森の妖精さんみたい。そう書いていたっけ。あとブラン・スタークか。
なつぞら38話 感想あらすじ視聴率(5/14)嘘と鎖透明感がいつもあって、他の人とはどこか違う。
これまた水鏡先生枠になりつつある倉田が、魂の美しさを見抜いてもいた。
悲しい死ではあるし、夭折を美化することもできませんが。
思い出すのは、かぐや姫のこと。
人ではないなにかが、何かをきっかけに人の世界に来てしまい、短い時間を経てまた人外の世界に戻ってゆく。
そういう物語を思い出してしまいます。
こんな天陽を演じた吉沢亮さんは、どれだけ大変だったのか。
森の中、自転車で走る場面は怖いほどでした。
今日も顔色がずっと悪くて……。
地方のお葬式
天陽の死に関しては、誰も涙ひとつこぼしていません。
ただ、ショッキングな顔をしてはいる。
それに、帰省したあとは優にメロメロになっていて、そこまで悲しそうに見えないかもしれない。
けれども、これが地方のリアルだとは思いましたよ。
・遠隔地であり、冠婚葬祭は家族親族が集まる貴重な機会
・そのため、まずは孫かわいさを確認してもそれはそれである
・葬式の盛大さがバロメーターになっている。これもありえる話
むしろ、ワンワンとタイマーでスイッチを入れたように泣き叫ぶとか。
病室に押しかけて大騒ぎするとか。
その方がリアリティがない。
日本人は、国民性として感情抑制の傾向があるとも指摘されます。
※伊丹十三監督の『お葬式』という映画もありまして
じゃあドラマだと、どうしてわんわんと泣き叫ぶかって?
それが受けるからでしょう。
本作における死の描き方は、軽くもなければ、お涙頂戴でもなければ、美化でもない。
等身大のものがあると思いました。
死者への敬意がない描写?
最近の朝ドラでたくさんありましたっけ。
精神衛生のためにも読まんでいい
思い出すだけでもうんざりしてきましたが、読まんでいい具体例でもまとめますね。
・夭折した故人の存在を抹消、死を消す
→『わろてんか』ヒロインの子供は、あまりに夭折が多いとはいえ、あんまりでは?
生まれたことすらなかったことにされるなんて。唯一成人した息子も、若くして亡くなっております。
前作****では、劇中では故人であったヒロイン父。
本来はもっと後に亡くなっているため、不自然でした。
かわりに劇開始時間軸以前に亡くなっていた長姉の死をずらし、お涙ちょうだいの場面に仕立て上げる。ついでに病室で騒ぎまくる。
・配偶者が死の床にあるヒロインが、自室に一人でいるところに、狙いすましたようにやってくる男
→『わろてんか』の栞さーん、どういうつもりなんだ?
・空襲被害者侮辱
→大阪空襲にあわなかった俺らは勝ち組やでぇ〜〜! という****教団論調。
被災者母子を見て、なんちゃらホンでぼろ儲けを思いつく。
・死者は時間稼ぎ
→仏壇前セーブポイントでアイテムを使うと、亡くなった夫が出てくる『わろてんか』。
何かと夢枕に女神*様がしつこく出てくる****教団。作り手まで、あれは綺麗な女優を出したかったからと、驚きの発言をしておりましたっけ。
・高齢母の生前葬で盛り上げるんですぅ〜〜〜〜!
→****教団は、命の侮辱が止まらない!
『月刊ムー』とコラボ企画でもすればよかったのに。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
悠吉さんが耳に挟んでいるのはタバコですね。
うちの死んだじいちゃんもよくやってたっけ。
(剛男さん世代だけど)
懐かしいなあ。