軍師「かぶき者こそ、使えるものでしてな……」
さて、その亜矢美ですが。
ハイテンションな踊りをしながら、雪月の前で客引きをしています。
そのド派手なかぶき者もといフーテンルック。
馴れ馴れしい客引き。
「けっこう毛だらけっ!」
これですもんね。フーテンの客引きですよ。
けっこう毛だらけ猫灰だらけ、お尻のまわりはクソだらけってね。
タコはイボイボにわとりゃハタチ、イモむしゃ十九で嫁に行く、ときた、黒い黒いは、なに見てわかる、色が黒くてもらいてなけりゃ、山のカラスは後家ばかり、ね。
色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たないよときやがった、どう、まかった数字がこれだけ、どう、ひとこえ千円といきたいが、ダメか、八百、六百、よし、腹切ったつもりで五百両、もってけ、オイ!
こういうことを早口でバーっと言う。おもしろくて、ついつい聞いてしまう。で、なんだか安いから買っちゃう。
家に戻って開けてみて、使ってみて、なんだか思っていたのと違うなあ、騙されたか。ま、いっか。
こうなると。
それをみて、とよと夕見子はこうだ。
亜矢美(前田慶次)を見ながら……。
とよ(徳川家康)「まことに雇うのか、あのような者を……」
夕見子(直江兼続)「あのような者がいてこそ、ますますこの家は栄えるのでござりまするよ……」
ここで、ナレーションが締めます。
亜矢美さんのおかげかどうかわからないけれども、雪月は帯広を代表するお菓子メーカーになりました。
『花の亜矢美 〜帯広の彼方に〜』
〜完〜
いや、終わらないよね?
まだ続くよね?
全員、ダメ出し
一方、なつは『大草原の少女ソラ』主人公ソラのキャラクターデザインに邁進します。
なかなか決まらないものの、これがなければ始まらない。
責任重大です。
一心不乱に描くなつ。
できた!
早速、イッキュウさんに見せます。
「どう?」
「ダメですね。これはソラではありません」
ドヤァ……容赦ないダメ出しだぞ。こいつらは夫妻なんだぞ!
残り一ヶ月切っているのに、盛り上げてきて、これだぞ。
半端ない。本作、やっぱり半端ないわ!
間違っても、
教祖「さすがなつだ!」
教祖夫人「イッキュウぅぅすぅぁああ〜ん!」
ナレーション「こうして、『大草原の少女ソラ』は大ヒットを遂げたのです」
以下、イチャイチャタイム
こうならないのよ、それが本作なのよ。
はい、それはさておき。
なつの「どこが?」への情け容赦ない回答タイムでも。
イッキュウさんは、チーム全員を呼び出してダメ出しを開始します。
なつの案:たくましさを感じる、緑色の服を着た少女
下山:強そうだな……
→イメージをやんわりとダメ出し
イッキュウさん:人間らしい可愛らしさを感じない。可愛らしければよいというものでもないが
→キャラクター造形のダメ出し、おまけにファジーでつかみどころがないダメ出し
神っち:野生動物を率いて戦いそうだな。『百獣の王子サム』じゃないんだからさ
→キャラクター造形を具体的に、きつくダメ出し
モモッチ:服が葉っぱみたい
→デザインを容赦なくダメ出し
陽平:背景を考慮して欲しい。緑豊かな背景だと、緑色のメインカラーでは埋没してしまう
→色彩をダメ出し
マコ:これでは今までのテレビ漫画と変わらないッ!
→存在意義、作品の根底問題をダメ出し
ほぼ袋叩きと言いますか、全方位から叩かれる。
もう、なつにとっては『ジョン・ウィック』シリーズにおけるキアヌ・リーブス並の厳しさがあります。
※全員、敵……
性格的に温厚な、下山と陽平はかなり言葉を選んではおりますが……。
あとは容赦がないッ!
しかも、ダメ出し発言者を集めたのが夫ですからね。
でも、そこがいいんじゃないかな。
僕の妻だからやさしくしてね♩では、むしろ猜疑心が育つってもの。
イッキュウさんは、投げっぱなしでもなく、さらにこうきました。
「もっと日常的な。大げさではない、過剰ではない目線で、細かい日常の心の動きを感じさせるキャラにしたい……。アニメで、開拓者の心の機微を表現したい」
「言いたいことは、わかるけど」
「ソラが、新世界についた時。目の前に広がる景色への戸惑い、期待、ワクワクするような心……」
それを表現してこそ!とイッキュウさんは言い切るのです。
またかよ!
倉田先生以来の大雑把な指示が来ました。
でも、そういう世界なんです。そこは、挑むしかない。
倉田先生の指示で本作を嫌になった人は、進んでも進んでもこればっかりで、朝から疲弊するとは思います。
でも、仕方ない。それが本作、難易度が高いのよ。
突っ込まれようが、改善する気がないしょ。
あなたの心を描いて
なつも、もう突っぷすしかない。
ここで、マコが背後に寄ってきます。
「昔から、人の内面を描くことは得意だったじゃない」
そう、白娘の泣く場面で、マコはなつの才能に圧倒されたものでした。
なつぞら64話 感想あらすじ視聴率(6/13)己のスタンド見極めろ、ゴゴゴゴゴゴ……マコさんはいいなぁ。
褒め方に、具体性があるんですよ。
「すごぉぉ〜い、がんばってぇえぇ〜、きゃああああ〜!」
みたいな、雑な褒め方があるんですけれどね。おにぎりマネージャー的な。
これも、相手によっては逆効果です。
「具体的にどこがいいのか全くわからん! おだてて、利用するつもりか、おのれ……騙される前に騙すのじゃああ!」
※そして、気がつけば黙れ小童ルートへ……
と、猜疑心ワールドに突っ込むタイプもいるからさ。
そういう武将対策に、マコは参考になる。
得意分野を理論を持って褒め、励まし、伸ばすのです。
なつは、マコの言葉を受け止めて自己分析します。
「戦いばかりで、ギスギスしていたから……」
「そんなに重く考えないで」
うーん、なるほど。
なつは乱暴な場面は苦手だと、そう自覚しておりました。
それが、フィルモグラフィーがこうなってしまった。
『キックジャガー』:孤児院出身主人公を表現できると佐藤に言われて、承諾
『魔界の番長』:自分に合わないと自覚しつつも、承諾
なつは責任感があって、優しいのです。
だからこそ、心が閉ざされ、才能も伸びなくなってしまったのかも。本作って、人間の心に優しくよりそうんだな。
イッキュウさんのような、スタイリッシュ【表裏比興】退社。
神っちのような、【魔王】ムーブ。
彼らとは違います。
この二人は、自分のカラーに合わないとありのままに謀反をしたようなモンです。
それは、謀反される側からすれば許せません。
しかし、本人たちの精神衛生上は、元気ハツラツではあると。
※すこ〜しも寒くないわ♫
繰り返しますが、やられる側からしたらトンデモナイ行為であり、理解し難く、怒りに繋がる。
「あやつは表裏比興!」
「あやつは高転びに転ぶもんね!」
なつというまっとうな人との対比で、ありのままの謀反がおかしいことを描く。
本作はすごいなぁ。戦国時代だ。
そこへ常識人、慈愛の将・下山が十勝のスケッチブックを差し出します。
十勝ロケハンのスケッチです。
「なっちゃんが、一番よく知っているだろうけど……」
ページをめくると、様々な優の表情が描かれておりました。
マコはこう付け足します。
「結局、あなたの絵に出るのよ。あなたがワクワクしないと、ダメなんじゃない?」
そういう気持ちを、テレビにぶつけていいのか。描いていいのか。
なつは力強く答えます。
「はい! はい、やってみます!」
なつよ、どんなソラが生まれるのか。ワクワクしてきたぞ。
私もワクワクが止まらない。
そんな水曜日です。
かぶき者の輝く、それが花の舞う世界よ……
待っていたぞ、亜矢美殿、待っておりましたぞ!
かっこよかった。
もう、ほんとうに凄かった。惚れました。100点満点で120点くらいのカッコよさだわ。
亜矢美は、戻ってきたらパワー全開なんです。
ズケズケしている。気持ちいいくらい。
で、ここも重要なんですが。
下山っちをよくわかっていないとか。
雪見はハンサムだから役者になれるジョークとか。
さらには、とよのしぶといから生きているジョークとか。厳しいんですよ。
本作はジョークのセンスが結構きつくて、辛辣です。
そこが嫌いな人もいるとは思います。
ただ、それらがマウンティングはなく、胸襟を開いてじゃれあっている良さがあるんですよね。
上下はゆるいと言えばそう。
失礼なことは言っているし、顔色や空気を過剰に読むわけでもない。
それがいいんじゃないかな。
闊達で、意見も、考え方も、価値観も、活気も、ずーっと流れているのです。
いじめるターゲットを見つけて、ずーっと笑い者にしているとか。
ボスに逆らう相手を「もぉお〜」と牽制するとか。
カースト上位に逆らうカースト下位は、この場所から追い出せとか。口を塞げとか。
そうじゃない、ブレーンストリーミングがそこにある。
知能も、流れも、そこにはあります。
まるで鮭の遡上のような、圧巻の再登場シーンでした。
とよじゃないけど、こっちまで飛び跳ねたくなったわー!
心と、向き合え
それにしても、すごいことになってきました。
見ていて疲れる。
ラスト一ヶ月を切って、15分でどこまで情報量を詰め込めるかチャレンジになっている。
それにしてもまたNHK東京、ドラカーリスしてませんかね。
マコプロのセリフが圧巻でした。
大げさな感情表現。
今までと同じ作品としての表現。
その変革を求めなければダメ。本作品が100作目だと考えますと、思い切りダメ出しをして、前に踏み込んできた。
スタッフ自身の心境まであらわれていると思ってしまう。
だってさ。
前作****教団員の基本ムーブって、シャウトと顔芸とダンスばっかりだったじゃないですか。
『彼岸島』システムってやつ。
※「あったよ!」「でかした!」だけでいい
ありきたりで、大げさで、ベタ。手垢がべったりついている。
でも、15分だし、ボケーっと萌え重視で見ている層には、安心できる。
そこへ切り込んで、そうじゃないと否定する――そんな心意気を感じました。
本作は、作り手自身の心を感じる。
彼らは彼ら自身の心とまず、最初に向き合っていると。それから、朝ドラそのものの可能性や未来へ向かってゆく。
視聴率、視聴者はその次だ。
ん? ネットニュース? どこぞのレビュー?
歯牙にもかけぬよ、はっはっは!
だがそれがいい。
彼らの挑む【表裏比興】
ちょっと大河に話が飛んでしまうんですけど。これだけでも書いておきたくて。
来年の『麒麟がくる』の染谷将太さんのことです。
どうしたって若い。
『信長 KING OF ZIPANGU』の二番煎じかと、最初は疑念しかありませんでした。
しかも、来年は強敵がいる。
『MAGI』です。
『天地人』の不満をぶつけるように、信長を熱演する吉川晃司さん。
かつて秀吉を演じでブレイクした緒形拳さん。そんな彼を思わせる秀吉を、緒形直人さんが熱演。
しかも、息子の緒形敦さんまで出演している。
ちなみに敦さんのお母様は、妙子役の仙道敦子さんです。
大河から始まり、王妃は朝ドラ。
そんなNHK王朝の末裔たる王子が、VODに挑む構図に私はショックを受けております。
『MAGI』での家康はまだわかりません。
満を辞して大河キラーをぶつけてくるのでは?
となれば、これはもう勝てない――そう思っておりましたが、いやはや、どうなることやら。
『MAGI』が正統派三英傑(信長・秀吉・家康)の頂点ならば、別のやり方しかないのです。
それは、まったく新しい、誰も見たことがない三英傑。
大河ドラマはじめ、三英傑はその知名度からか、高年齢化が深刻ではありました。
そこをあえて若返らせて、フレッシュで、新要素、2020年代ならではの進歩を加えれば、対等以上の勝負に持ち込めるのではないか?
圧倒的大軍を前に真田昌幸が挑んだ【第一次上田合戦】のような戦い方です。
顔ぶれを見ていきますと。
信長:染谷将太さん
秀吉:佐々木蔵之介さん
家康:風間俊介さん
これは、満を辞している。
例えば風間さんですが、彼は『純と愛』の副主人公でした。
朝ドラ変革が中途半端になって問題作扱いとはいえ、挑戦的ではあったのです。
※まぁ、いろいろ、言いたいことはあるけど……嫌いではない
何か新しいことをする。
「なんてひどい作品なんだ、何かの冗談なのか?」
そう思わせつつ、のし歩く巨人のようなことをやらかす。おもしろい作品はある。萌える作品もある。心地よい作品はある。
でも、エキサイティングな作品は、なかなかない。
それをめざしている。
「こんな厄介なものを作られても……」
呆れ半分にそう言いつつ、結局追いかけてしまう。そんな真田昌幸めいた、何かへの挑戦をしたい人がいる。
参考 真田昌幸65年の生涯をスッキリ解説!真田丸で草刈正雄さん演じる表裏比興の者武将ジャパンその存在を、どうしたって最近は感じてしまうのです。
そうそう、三英傑だけじゃないや。
主人公は長谷川博己さんですよ!
フーテンの語源云々しましたが、彼の主演NHKドラマはそれどころではない放送禁止用語を連発して度肝を抜きました。
※無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!
その言葉は、どうして問題があるのか?
当時、その言葉が発せられた意図は何か?
抗議があれば返すだけの信念と、理論武装があればこそ、使うことはできる――紋切り型の反発に負けない、そんな信念がありました。
ハセヒロさんは、その期待に応えた。
そして彼はまた、来年の主人公に指名されたのです。
「貴様ッ……あれだけ****教祖だのなんだのハセヒロさんをいじめおって、この表裏比興(※言うこと変わりすぎぃ!)ぉぉぉ!」
いやいや、何も変わっておりませんぞ。
彼自身を悪いとは申しておらん。
ここで、『真田丸』から真田昌幸のセリフを引用させてもらいましょう。
朝令暮改の何が悪い!
より良い案が浮かんだのに、
己の体面のために前の案に固執するとは
愚か者のすることじゃ!
さぁ、来年が楽しみだ。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
ウッチャンじゃなく、ココリコ田中さん演じる
「ゲスニックマガジンの西条記者」ですね。
あのコントはウッチャンは出ていないです。
最後に夏のソラ、なつぞら が完成するわけですね。今頃気づきました。
昨日のロケハン隊の台詞にはシビれたものですが、開拓者がいたからこそ、見られる風景があり、開墾地しかりアニメーションしかり。
さらにこのドラマ全体の大大円の一つの承知として、なつがソラを走り出させる訳ですね。そしてそのソラの目を通して、また新しい風景が見られるという。
様々なレベルの現実と虚構がお互いを溶かしながら少しずつリンクする、ソフトなメタ構造が心地いいですね