雪月は潤い、天陽の絵は広がる
さて、ここから雪月へ。
夕見子は送迎係ですね。
優と千夏にとっては夢のような一日。こんなにおいしいものを食べちゃって。
はー、やっぱり北海道旅行はこうでないと!
私も食べたいですよ。このドーナッツはじめ、美味しそうなお菓子。あの店の通販をチェックするか〜。
『大草原の少女ソラ』以来、旅行者が増えてこの店もますます大繁盛だそうで。
「儲かって儲かって、足向けて寝らんない!」
とよが嬉しそうなホクホク顔を見せています。
「やらしい! 儲かるって、どうでもいいしょや!」
すかさず姑を軽く叩きつつたしなめる妙子。
いい味出してますなぁ。
本作の世界観で唯一、この総大将を抑え込めるのが妙子だと思います。
妙子は強いというよりも、ともかく知略が高い。
妙子は儲け以前に、アニメが面白くて毎週楽しみにしていたと言います。
「何より面白い! 家族で見てた!」
雪次郎がそう言います。
劇団仲間の蘭子とレミちゃんが声優として活躍することも、彼にとっては懐かしいのです。あの日々は、無駄になっていませんね。
雪之助は、あの作品のおかげで雪月の包装紙が全国にまで広まると嬉しそうに言います。
なつは、あの絵がソラの原点だと言います。
「天陽くんもうれしいべな!」
そう思い出されます。
天陽も作品の中で、包装紙の中で生き続ける。そして広がってゆくのです。
「天陽くんにも足向けて寝らんないねえ〜」
「そればっかり〜」
とよがある意味感動をぶち壊しにきます。

「たくさん食べてね〜」
そう促されるわけですが、なつは天気が崩れそうだから、早めに帰ると告げます。
雪見もチラッと出てきて、味見をしようと促す夕見子の母親ぶりともども微笑ましい。
が、しかし!
驚きました。
語彙は標準語なのに、イントネーションが道産子だったから。これは本人も訛りに気づかない、道産子あるあるだ。
とよばあちゃん、ありがとう
とよは、なつにじいちゃんが何か言っていなかったかと聞いてきます。
「漫画だよ。感動してたべさ」
「アニメのことですか?」
「そうだよ。しゃべってないのかい? 朝日を見たって」
夜明けの中、開拓をしながら、朝日を見る泰樹。その帽子を風が飛ばしてゆきます。
開拓に励んでいた日――何度もああいう朝日を見た。
励まされた。
この土地を捨てようと思っても、朝日を見ると勇気が湧いて来た。
ここであきらめてなるものか!
それをなつが、見してくれた――。

なつを愛するあまり、照男の嫁にしたがった泰樹。
あのとき手放したからこそ、あの朝日が見られたのです。

女性や子供を縛ることばかりをよしとする方、そこをお考えください。
そのことをとよから聞かされて、イッキュウさんともども感無量の思いを噛みしめています。
それが千遥にも伝わってゆきます。
「なっちゃん、ゆっくりしていきなさい。じいちゃんのそばに、少しでも長くいてやって」
「とよばあちゃん、ありがとう」
なつは、噛み締めるようにそう言います。
なつだけでなくて、泰樹ととよの関係を示すような場面だと思いました。
不器用で、訥弁で、なかなか心を開かなくて、唐突な言動が多い泰樹。
それでもとよ相手には、素直に話せる。とよは彼を理解して、受容できるから。
そんな泰樹の理解者であるとよ。
開拓を始めた明治の頃から、周囲に渦巻く彼の誤解を解いてきたのでしょう。
あの柴田の頑固者は、なまら腹は立つけど、悪い奴でないから。わかってやれば、役に立つんでないかい――。
口は悪いし、恋愛感情は絶対にない。
けれども、彼らだってソラとレイなのです。
「ばばあにはわしの気持ちはわからんのじゃ」
「じじいが悲しいことだけはわかるさ〜」

とよばあちゃん、ありがとう!
雷鳴の響く夜
天気が崩れる中、夕見子が柴田家へなつたちを送ってゆきます。
そんな中、照男はパイプラインの説明。
これで牛が50頭まで増やせると乗り気で、剛男も感心しています。
思い出のある古い牛舎が壊されるとなつは聞き、ちょっと時代の流れを感じています。
でも、壊さなければ進めないべな。社会も、朝ドラもそうです。
牛を増やそうと思えばできる。ミルカーをパイプラインにするのだと。
すぐにではないけれど、進めてもいいか? と声を掛ける照男。

この場面ですが、ちょっと気になりませんか。
イッキュウさんは断片的な説明だけで、搾った牛乳を一本化するシステムだと理解して、まとめてしまう。
彼の酪農知識は不明。
アニメで取材してはおります。それに、断片的なことを聞いてここまで把握してしまうと。
イッキュウさんは【アブダクションによる推理】ができます。
泰樹、夕見子、神っちもできる可能性が高い。
しかも生まれつきであり、ちょっと後天性ではなさそうです。
「イッキュウさんは東大卒だし、哲学を学んでいるからね!」
というのは、誤解ですのでご注意を。
賢い、頭がいい、偏差値が高い。そういう人だからできるわけじゃありません。
じゃあそれは何なのよ?
ということですが、シャーロック・ホームズの推理だとご理解ください。
※断片的な情報から、ジョン・ワトソンはアフガニスタンかイラク帰還兵だと推理する
これも今後の伏線かな。
もうすぐ終わりなのに……。
ここで激しい雷鳴が鳴り響きます。
怯える優がしっかりとなつに抱きつきます。千夏も怖がっています。こういう反応で異常事態を見せます。
なつよ、嵐になりそうな気配だ――。
父がそう語る中、泰樹の目つきが鋭くなっています。
作品の地域貢献
最終週まで、凄まじい回が続きます。
本作はドローン撮影がお上手です。
鳥のような目線でふわっと浮き上がる――技術と特性を理解した上での撮影です。
ただ上から撮るのではなくて、ふっとやわらかく、軌道を描く。
上から追いかけるのではなくて、この鳥の動きがあってこそ、ドローンでしょう。操作もなかなか大変だと思います。
さて、今日ですが。
やっぱりアニメの原点回帰とあったはずの理想を感じました。
暴力や性的な描写をどうするのか。
本編だけではなくてグッズ販売、交流でも問題視されます。
「表現の自由だー!」
とはよく言われる話です。
でも、それは全年齢向けの良質な作品あってではないかと、しみじみと今日は思えました。
◆碧志摩メグ、志摩市が公認撤回 「あまりにも海女のイメージとかけ離れていた」
定期的に、この手の問題が浮上しますよね。
このPRで家族連れが呼べるか? ということです。
ついでに残酷なことを言いますが、成人のみの聖地巡礼と、家族連れの利益は、どちらが上かという話でして。
オタグッズの購入。コラボグッズの購入。ソーシャルゲーム課金。
そういうことで貢献を主張する方もおられます。それそのものはそうであり、主張は自由です。
ただ……それだって一家がアニメの舞台地をめぐり、落とす経済効果と比較したら、どちらが上かという話でもある。
一家四人で旅行するならば、10万円なんてそこまで高くはない。
ガチャで10万円は異常ですが、家族旅行ならそうはなりません。
◆富野由悠季が語るアニメ“聖地巡礼”ブームへの思い「僕が反面教師。若い時に外に出ておかないとダメ」
『大草原の少女ソラ』がメインストリームのアニメ界ならば、カウンターとして下山も大喜びのアクション大作があってもよいでしょう。大人向けということで棲み分けができる。
しかし、2019年現在の優や千夏は『アナと雪の女王』あたりのグッズに夢中です。
全年齢アニメは弱くなっているということを、しみじみ感じます。
これはもう、先が暗いということではありませんか?
『アナと雪の女王』ファンがお金を落とすのが、外資系のディズニーというのも辛い話です。行きたい場所はディズニーランドであって、日本のどこかではない。
外資の企業に利益が最も出る。雪月のような、国内の中小企業には利益が回らないのです。
アニメのもたらす経済効果には、ちょっと疑念を抱いた方がよさそうです。
もう躊躇している時間はありません。
コラボグッズ展開にせよ……。
◆ジョジョ5部×セイコーのコラボ腕時計、全8種類を1000本ずつ限定販売 – コミックナタリー
作品そのものに罪はないし、嫌いじゃない。むしろ大好きですが。
私はこの腕時計だけでなく、このアニメグッズには絶対に金を落としません。
少なくとも、作画監督に対して未払い賃金と詫び料が支払われたと、確認できるまでは。
人間への敬意と開拓
本作って、人間への敬意があふれていて素敵ですね。
ここから先、ちょっときつくなります。嫌ならばそこまでです。
なつと千遥の会話。こういう姉妹の会話が見たかった。
ボリボリこれみよがしに煎餅をかじりながら、誰かの悪口や下半身観察とマウンティング、母親の悪口を言いまくる。そういう心の交流も何もない姉妹は嫌だった……。
そこを見守るイッキュウさんもよかった!
結婚後、相手の婚前の財産を奪うことが生きがいと化す配偶者っているものです。
フィギュアコレクションを捨てる鬼嫁?
まぁそれもあるでしょうが。そういうことだけでもなく、古典的な話です。
婚前の人間関係排除。
実家の人間との接触すら阻む悲劇です。
イッキュウさんがそういう暴虐の男ならば、こんな美しい会話は成立しません。
同じく、なつがイッキュウさん信者ならば。
夫の気配を察知した瞬間に奇声を脳天から放ち、踊りながら接近しかねない――そういうドラマはもういらないのです。
ちょっとまたきついことを書きましたが。
それもこれも、検索エンジン経由で、NHK朝ドラ脚本家叩きニュースを見かけたからかもしれない。
そんなに嫌いなら、彼女の発言なんか見なけりゃいいしょ。
あのドラマ、叩き投稿と雑なニュースで、でこいつはサンドバッグにしていいと刷り込まれたのでしょうか?
それはさておき……今日圧巻だったのは泰樹の加齢描写でした。
草刈正雄さんはこんなにお上手なのか。そう感服してしまいます。
あの涙。感極まって何も言えない様子。もう役を生きているのだと感じました。
周囲の戸惑いや、受け止め方も理解できます。
そこには、高齢者をからかい虐待する目線はありません。
そんな当たり前のことが、こんなにも染み入るなんて世の中がおかしくなっているのかな? そう怖くなってしまったほどです。
「働いている俺よりも、じじいばばあどもの方が金をもらっている。だから弱者じゃない、席なんてゆずれない」
そういうSNS投稿とか。
こういうニュースとか。
◆1人に54契約 「ゆるキャラ」高齢者に群がる郵便局員:朝日新聞デジタル
高齢者の生前葬を、ギャグだと言い張って笑いものにするドラマ、視聴者、そして取り上げるネットニュースのコンボとか。
◆生前葬、なぜ描かれたのか。番組制作者は「笑いと感動がエンターテインメントの王道」と話す。
考えるだけで、憂鬱になった。
高齢者をバカにすることがエンタメの王道なんて、そんなことを言っていて恥ずかしくないのでしょうか? どう弁明しようと、あの生前葬描写の根底には高齢者嘲笑がありました。
そうイライラしていたら……NHK東京にも怒りを抱いている人がいた。そんな思いを見いだせて、青空が広がってゆくような気持ちです。
そしてわかること。
それは、同じ誰かが、今日飛び交うニュースと、それへの反応に強い怒りを抱いていること。
その勇気ある誰かは、静かに熟考して、作品を通して開拓することでしょう。
その人は、インタビューで弁解するほど暇じゃない。
開拓あるのみ――。
そういう人の存在を、強く感じています。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
>通りすがり様
ご指摘ありがとうございます!
修正させていただきました。
今後もご愛顧よろしくお願いしますm(_ _)m
管理人様 日付がズレております。