バブル真っ盛りの平成が始まった1989年。
岐阜県東美濃市の「ふくろう商店街」は、その恩恵に与れずジリジリ……としていたハズでした。
あるとき、何だか怪しげな『ぎふサンバランド』というテーマパークの企画が持ち上がります。
ハンサムな青年が「つくし食堂」にやって来て、萩尾家の写真館には官能的な女性がやってきて。
一方「つくし食堂」の娘・楡野鈴愛は、左耳失聴というハンデはあるものの、いつも元気いっぱいの高校3年生。
今日も幼なじみの律、ナオ、ブッチャーと遊び回っています。
あるとき律は、弓道の試合で見かけた他校の美少女に胸のトキメキを覚えるのでした……。
もくじ
木の枝に引っかかったシャトルを……
「ラーメン!」
「サイダー!
「五平餅!
「お好み焼き!」
そう言い合いながらバドミントンで遊び、シャトルを打ち合う律とブッチャー。
そのとき、シャトルがあらぬ方向に向かって、木の枝にひっかかってしまいます。
新しいシャトルなのに~と、なんとかジャンプを繰り返すブッチャーですが、失敗の連続。
そこへ弓道部のあの美少女が通りがかります。
赤いリボンのセーラー服にポニーテール。青春っすわ~。
弓を使い、木の枝に引っかかっていたシャトルを手の中に落とす彼女。
律は、思わず声をかけます。
「一瞬、小さな雛鳥が手のひらの中にいるように見えた」
「ずっと私のこと見てたよね」
「あの、名前を聞いてもいいかな」
「名前を教えてくれたらね」
「萩尾律。旋律の律」
「私は伊藤清(さや)」
ブッチャーはそんな二人の様子を見守ってニヤニヤしています。
「名古屋の栄でスカウトされたって!」
仲良し四人組は、喫茶「ともしび」に移動します。
話題はもちろん、あの美少女の清のこと。
インターハイ常連・柏木高校の生徒で、美少女として有名なんだとか。
追加のねぎ焼きを食べながら、話し合う四人です。
「名古屋の栄でスカウトされたって!」
「東京から名古屋までスカウト来るのかよ」
「『中学生日記』の事務所だよっ!」
ブッチャーとナオちゃんが盛り上がっていると、律はやめてくれよ、と言い出します。
喫茶店のオーナーさんも聞いていますしね。
ナオも私の試合を見たかと聞きますが、もうこうなったら止めるほうが無理。
四人は萩尾家に移動して恋バナ続行中です。
フランソワの背中にメモ。
「プリンが冷蔵庫にあります」という和子からの言伝で、鈴愛はプリンの個数を気にしています。色気より食い気ですね。
この会話で、律が「朝露高校のトム・クルーズ」と呼ばれていることが判明。
しっかし、ええとこついてきますね~。
現在も変わらぬハンサムガイのトムですが、当時は『トップガン』のヒットもあり、美男子の代名詞でした。
ここでブッチャーがフランソワについてコメント。
木製から金属製にパワーアップしたマーブルマシンが水槽横にあるわけですが、これだと家の近くに高速道路があるみたいでかわいそう、とのことです。確かに心が細やかだのぅ。
とはいえ、話題の中心は律の恋心で。
ユーミンの『守ってあげたい』を歌いながらからかい始めます。
脚線美に見とれて大根とジャガイモを間違える
一方、夜の喫茶「ともしび」では、商店街の店主たちが【ぎふサンバランド】を協議中。
理髪店の友永さんまでナゼか参加しています。
なんでも結婚式場が併設される予定で、萩尾写真館も協力を頼まれたとか。
ふくろう町駅からもシャトルバスが出るそうです。
ここでおでんが出てきます。
喫茶店なのにねぎ焼きだの、おでんだの。昔はこういうことありましたね。
最近のチェーンコーヒーショップではありえないご当地メニューが出てきたり、アルコールも出したり。
「サンバ来ているらしいよ」
と、店主。
しかし、店内で流れているBGMはランバダだそうで。これまた実にいい時代感。本当にハッとさせられるドラマですわ。
そこへ、黄昏気味のボディコン美女・小倉瞳さんの登場です。
カウンターで酒を飲んでおり、その脚線美に、おじさま方の目は釘付け。
「このジャガイモうまいな」
「大根やろ」
思わず、おでんの大根とじゃがいもを間違えてしまう弥一。
弥一さんだけは脚線美に釣られないかと思ったら意外ですね。
律は運命の人に出会った――って、それでいいの?
おっさんたちのエロ目線とランバダという暑苦しさから、さわやかな青春恋バナをしている萩尾家へ。
律は、運命の相手なら再会できるからと連絡先を交換していません。
本当は断られるのが怖かった、という本音も。
「きっとまた会えるよ」
「俺もそんな気がする」
そう励ますナオとブッチャー。
しかし、鈴愛は。
「なんだかついていけんわ」
と、ちょっと引いているようで。
「でも、律は運命の人に出会ったんや」
そう微笑みます。
それでいいの?
本当にそれでいいの?
サンバランドは彼女の夢で初企画!?
また大人のドロドロが渦巻く喫茶「ともしび」へ。
瞳は酔っ払い、カウンターで愚痴っています。
彼女が泊まる宿はドミトリーみたいな「ふくろうの宿」なんだそうで。
イモリだかヤモリが出ると文句タラタラです。
「年下の男性正社員は温泉付きのホテル【東美濃】なのに〜! ボディコンなんていや、楽なカッコしたい〜〜! こう見えても私はもう30」
そう見えるよ、と思わず小声で口にして、たしなめられる宇太郎、相変わらずでオモシロすぎ。
「でもっ! 【ぎふサンバランド】は私の夢なんですっ! 初めての企画なんですっ!」
そう語る瞳。初めての企画と聞いて、男たちは動揺し始めます。
大丈夫か?と……。
鈴愛は、清の似顔絵を描いています。
いつも感じますが、鈴愛はかなり画力がありますよね。記憶だけでここまで描けるのですから、すごいです。
草太が姉のためにコーヒーを持ってきます。
優しい弟ぶり。
このくらいの年頃ですと、突っ張ってしまう弟も多いですけど、そういうタイプじゃないんですね。
「姉ちゃん何描いているの?」
「律の運命の人。律にプレゼントするんだ」
「姉ちゃん……何でもない」
草太、やっぱり優しいなあ。
周囲の敏感な人は気づくけど、鈴愛は胸のチクッとする思いの正体がわからないのです。
人の心は流れ行く雲、とは廉子さんのナレーション。
くうっ、鈴愛ちゃん><;
その心の痛みの正体にいつ気づくんだ!!!
今日のマトメ「半年間じらされてイライラしても本望かも」
【ツンデレのない世界へ行きたい】
ということを、前作『わろてんか』の感想で書いた記憶があります。
その願いが叶ったような気がするのです。
鈴愛も律も素直になれない、自分の気持ちすらわかっていない。
しかしだからといって、相手を試すようにツンケンした態度を取ったり、悪態をついたり、しないのです。
それどころか鈴愛は、律のために似顔絵を描いてしまう。
律は大事な相手だから、律の喜ぶことがしたい、そういうことです。
鈴愛ちゃん、なんていい子なんだ。
相手が本当は好きなんだけどぉ〜、試すために悪態ついたりしちゃうしぃ〜みたいな、そういう根性のねじ曲がった女どもがわちゃわちゃしていた前作とは大違いだ!
お互い好きなのに、気付かないで恋の応援すらしてしまう、そういう手垢がついたような王道感ある少女漫画展開なのに、出てくる青春四人組のキャラクターがまともなおかげで、むしろ待ってました感がある。
これはよいことです。
朝から本気で鈴愛を応援したくなってきました。いつ気付くんだろう。
半年間じらされて、イライラしても本望かも。
そして今日も【ぎふサンバランド】の愚かしさがすごい。
瞳は酔っ払って愚痴をこぼすくらい脇の甘い人物で、そういう瞳の計画という時点で黄信号が灯っています。
セクシー社員・瞳の扱いが、ギャグとして扱っているようで、冷静に考えるとかなり酷いのです。
男性社員と露骨に待遇面で差をつけて、その一方で露骨なお色気担当として利用する。
女性社員をとことん舐め腐ってバカにしていた時代の悪弊ですね。
東京制作の『あまちゃん』におけるアイドルの待遇。
『ひよっこ』での、賢いのに進学すら制限され、工場労働者として搾取される若い女性。
その業界や時代では当然だけど、冷静に考えるとこれは酷いよね、ということをさらりと入れてくるあたり、気骨みたいなものを感じるんですよね。
今後、鈴愛もそういう問題にぶつかるのでしょうか。
瞳をみつめる商店街のおじさんたちの目線も、ちょっとビックリしてしまいました。
『あまちゃん』で、ユイの母親が失踪した時に、人のいいおじさんおばさんだと思っていた人々が、露骨にちょっと毒を含んだ噂話を始めるのを見て、田舎の、あたたかみだけではない、嫌な部分を見せられた気がしました。
瞳のナイスバディをじろじろ見る彼らからは、あのとき感じた苦いものを思い出してしまいました。
色仕掛けでコロッと騙されるような展開になったら、たださわやかなだけではなく、苦い作品にもなるはずです。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
セクシーなフトモモを映しながら
TMNのDIVE INTO YOUR BODYが流れてきたのには笑えました