明治43年(1910年)京都。
日本一の「ゲラ(笑い上戸)」娘ことヒロインの藤岡てん。
てんは家を捨て、船場の米屋・北村屋の長男藤吉と駆け落ちします。
しかし、藤吉の母・啄子(つえこ)は既に許嫁の楓を用意しており、てんは女中として働くことに。
啄子は「楓とてんと商い勝負をして勝った方が嫁だ!」と言い出します。
女中から嫁候補まで格上げしているのに気づかない、うっかり啄子さん……。
文化祭で見かける学生さんのような接客では……
勝負とは、藤吉が間違って仕入れた古米と外米を、てんと楓のどちらがうまく売りさばくか? というもの。
本気で商売を考えるのでしたら、「ミスをした藤吉にてんをくっつけて、芸人に戻して出て行ってもらい、楓に婿を取らせるのが一番よい」んでは?と思ってしまいました……。
しかしそれではドラマが進まないので、勝負開始です。
店先で古米を売り始めるてんと楓。
そつなく上品に接客をこなす楓に対して、てんは乱れた髪のまま、大声でやたらと怒鳴って売ろうとします。
学園祭で焼きそばを売るテニス部員のような接客です。
そんなことでは売れるわけもなく、楓にリードを許します。
なぜかここで啄子は、てんに服装が乱れているとアドバイスをします。
てんは無言で(この無言なのが感じ悪いなぁと……そして売り場を離れる時は許可を取って欲しいなぁと)バックヤードに引っ込み、メイクをし直して出直します。
インドカレーをどうやって作ったのだろう
慣れないてんは、接客がやはり文化祭の学生レベル。困り果て、トキにどうやったら売れるのか聞きます。
てんは古米を団子にして、醤油でタレを作って実演販売することになります。
これでアッという間に売れると言う流れですが、やっぱり文化祭感が抜けません。これで楓より売れるってのは……。
「現在で言うところのレシピ販売なのです!」
とナレーションでフォローするのですが、この程度のレシピなら、日頃料理する人ならば思いつきそうだなぁというのも……。
次は外米です。
今度は通りすがりのインド人を捕まえて、インドカレーをかけて売るというもの。
そんなに都合よくインド人が通りがかるか! とツッコミどころ満載です。
当時、日本で食べられていたのは、インドカレーではなく、イギリス経由のタイプでは?
大阪でもカレーがブーム、と言われてもそんなホイホイと、本場のカレーを作れたんかいな、と思います。
今だって、デパートの地下やインターネット通販を駆使しないと、家庭での本格的インドカレーは難しいくらいですし。
そんなこんなで売り切ったてんに、啄子も感心したのか、ついつい商売の極意も教えてしまうことになります。
その極意とは……。
もしも楓が実家に返されたらバツイチと同義ゆえに
啄子は試食販売の材料費はどうなのだ、と言ったあとで「生きる金だからよい」と言い直しました。
生きる金というのは、「先行投資しておいて、後に回収するためならばよい」ということで、史実の吉本せいが実際に持っていた思想を元にした台詞です。
それにしても気の毒なのは楓です。
いきなり割り込んできたワケのわからない相手に、嫁の座を追い出されようとしているのですから。
嫁入り前提で住み込んだということは、もうはっきりいってこの時代は嫁いだ扱いと変わらないと思います。
家に戻ったらバツ一扱いで、それこそうんと年上の相手の後妻くらいにしか嫁ぎ先がなくなってしまうかもしれない。
さっさと楓を追い出して終わりではなく、北村屋はちゃんと楓のアフターケアをしないと絶対に駄目だと思います。
なんでこんな可哀相な立場の人を悪役にするんでしょうか。
そしてラストには、お待ちかねの風太登場!
藤吉の最低最悪の態度を、ガツンと一発、叱り飛ばして欲しいところです。
今回のマトメ
北村屋は、藤吉のことは叩き出してリリコに養わせ、啄子が経理、てんが広報と営業、楓が接客するのが一番儲かると思います。
藤吉の商売センスのなさが明らかになるにつれ「こいつは芸人として駄目だけど、プライドちゅうもんがないし、ヒモにするならええわ」というリリコが一番正しいのではないか、と思えてなりません。
藤吉……明日は風太に鉄拳制裁されてしまえ!
そして今日もやっぱり楓が気になって仕方ありません。
てんの才覚が凄いということにしたいのでしょうが、「偶然通りがかったインド人のおかげで逆転ホームラン」って完全に主人公補正ではないですか。
楓は地道に頑張っているのに、チートキャラがバグを利用して勝利するような展開に、笑ってスカッとするどころか、ついつい楓に感情移入してしまい、朝からどんよりとした気分に……。
何度も申し上げましたように、楓の方が吉本せいに近い。
一方でてんは、あまりうまくない二次創作のメアリー・スー的キャラクターみたい。
原作のキャラクターが、二次創作のチートキャラにボコボコにされているような、なんとも言えない不条理感を味わっております……。
本作は、主人公のてんを船場の商人娘から、京都のお嬢様に変えたことが否定的にとらえられているようです。
私もそう思います。
ヒロインは本来、楓のような船場の商人娘としての、きめ細やかな如才のなさが長所であったはず。
確かにてんのような機転も吉本せいにはありました。
ただしそれも、船場商人娘の経験の上にあるものであって、てんのような「悩んでいるところに偶然インド人が通りかかる」ようなチートスキルではありません。
主人公補正による無双プレイだけはやめて欲しいところです。
ついでにもう一つ言わせていただければ……。
本作は、過去の朝ドラで受けた要素をツギハギにしているような、そんな貪欲さがあります。
ただし、ひとつ足りないものがあります。
それは『ひよっこ』の、仲間同士が仲良く助け合うこと。
イビリ&イジメ抜きでも楽しめる展開にすることでした。
直近の作品だから取り込めなかったのでしょうが、これが大きなマイナスになりそうです。
半年間『ひよっこ』を観てきて、いびりいじめがなくともドラマは面白いのだとわかった視聴者にとって、本作のとってつけたような「いけず&いびり&いじめ」は受け付けにくいものでしょう。
放送時間的に“視聴率が下がりにくい朝ドラ”であるにも関わらず、数字にそうした反応があらわれてきている気もします。
どこかで方向転換を期待したいところどす。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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