1992年(平成4年)、夏。
楡野鈴愛と、同門のユーコは、ついに漫画家としての連載をスタートさせます。
鈴愛は、少女漫画雑誌『ガーベラ』で『一瞬に咲け』を掲載。
ユーコは、青年誌『ビッグイブニング』で『5分待って』を始めることになったのです。
漫画を描き続けること――それはとても辛いけど、同時に楽しく、豊かな時間でした。
鈴愛とユーコは、強い友情で結ばれていました。
【69話の視聴率は21.2%でした】
時は流れて1995
友情を育みながら夜明けにネームをあげた二人。
そして時は流れ、三年後の1995年です。
ここで、デビューから五年後まで漫画家を続けられている可能性は一割という衝撃的な数字が発表されました。
秋風ハウスはリニューアルされ、羽織は仕事場を提供するかわりに、売り上げの何割かをもらうという取り決めです。
実はお金に几帳面な秋風は、その辺ぬかりがありません。
24才になった鈴愛の『一瞬に咲け』は、連載三年目を迎え、コミックスは四巻が発売されました。
「つくし食堂」では、宇太郎が嬉しそうにびっしり棚に並べています。
鈴愛はもう、アシスタントさんを雇い、パースにダメ出し、トーンを指定する、等々いっぱしの漫画家なのでした。
ただ、その生活はハードです。
寝る。
起きる。
描く。
食べる。
時間は数珠つながり。
突然仮眠をとり、アシスタントに「眠り姫だから王子が来るまで目が覚めません」なんていってしまうお茶目な鈴愛。
それは冗談で、3時半には起こしてね、と。えぇと、夜中の3時半ですね、きつい。
こんな睡眠不足でも名作を発表し続けていた羽織先生はえらかったんだ、鈴愛はしみじみ思います。
一方のユーコですが……。
連載の打ち切りが決まる
こちらは厳しい現実に直面していました。
目の前に差し出された『ビッグイブニング』に掲載されている順位は後ろから2番目です。
漫画雑誌は人気順に掲載されていますから、これは黄信号。
編集者の藤は、あと3回で『5分待って』を完結させて欲しいと言ってきます。
一度はブレークしたのに、単行本の売り上げも落ち、ついにはこの日が。
連載の打ち切りです。
クリエイター業の厳しさですね。
羽織はビリヤードをしながら「入るときは入る」と呟きます。
しかしユーコは次が何も浮かばなくなりました。
自堕落的に飲み歩くユーコ
1995年というのは、バブルも弾け飛び、お気楽な時代は終わり、長い長い停滞期に入ったころです。
山一證券の倒産劇っぽい映像も出てましたね(1997年に倒産)。
派手な化粧と服装で着飾ったユーコはどこかへ出かけ、彼氏っぽい男(東京03の角田さんですね)と話しています。
浮かない顔で口ずさむのは、「ユー・メイ・ドリーム」。
こんな曲一曲でも作れたらいいんだけどな、とつぶやくユーコ。心に残る作品を作りたい、と言葉を紡ぎます。
彼氏っぽい男は、ユーコの名前が出ているだけでうれしい、『ビッグイブニング』発売日は、栄養ドリンクと一緒に買うと言います。
でもそれって、漫画が面白いということじゃない。
自分の知り合いの名前が雑誌に掲載されているのがうれしいだけだよね、とユーコはこぼします。
クリエイターにとって喜ぶことを、相手が言ってくれるとは限らないし、おそらく彼も作品自体には大して興味がないのでしょう。
男はユーコにエルメスっぽいバッグを贈ります。
ボーナスをはたいたそうです。その頬にチュッとしているところをみると、やっぱり付き合っているのかな。
秋風ハウスに戻ってきたユーコは、今しがた相手の頬にキスした唇を洗います。
毎日飲み歩く彼女を心配した鈴愛が声をかけます。が、ユーコは不機嫌にぶっきらぼうな対応。
しかもあのバッグは偽物のようです。鏡を見ると、憔悴した顔が映っておりました。
離れていても見守っている
場面は京都。律は京都にいました!
宇佐川教授が西北大学から京都大に移籍したため、一緒についてきて京都大学大学院に進んだのです。
センター試験で「サンバランドのクリアファイル取り替え事件」という悲劇で断念した京都大学。
紆余曲折を経て、進学したことになりますね。
ちょっと変人ぽい宇佐川にとって優秀な助手となった律。そんな律の机には、『ガーベラ』がありました。
少女漫画雑誌なの?と聞かれると結構面白いですよ、と答えます。
律は鈴愛のことをずっと気にかけてはいたんですね。
ここが結構残酷な対比です。
ユーコの彼氏だかなんだかよくわからん男と違って、律はきっと鈴愛の作品そのものにも興味関心を抱いて、見守っているのでしょう。
遠く離れていても、作品まで理解している人がいる鈴愛。このへんも、ユーコとの違いですよね。
彼女の親が、娘の漫画を買いあさって並べているとは到底思えません。
なにせ「看護婦になりたい夢も、どうせ医者になれと言われる」と諦念していた親子の間柄です。そう考えれば、漫画に理解など示すはずがありません。
ボクテは時代の寵児になっていた
連載打ち切りが決まり自暴自棄のユーコ。
羽織に漫画を突き出され、ダメ出しをされました。
どうやらメインキャラまでアシスタントに描かせていた模様です。
「どうせ私の漫画なんて誰も読んでいない」
毒づくユーコに、化粧までスゴイぞとたじろく羽織。
これはまずいな、スランプだ。
いや、スランプの一言で片付けられるだろうか……。
鈴愛は、喫茶店「おもかげ」でボクテと会っておりました。
そこに居合わせた女子校生っぽい女の子たちがサインをねだります。
ボクテは講談館(これは大手かつ散英社のライバルですな)からデビュー。
『女光源氏によろしく』がロングランヒット中だったのです。
時代の寵児でした。
三人のうちでもっとも早く芽が出たユーコが停滞、焦って失敗して破門されたボクテがヒットメーカーという図式。
鈴愛も実はマンネリ化しているのが悩みです。
高校生の半年間のはずが、もう三年目だとか。長期連載あるあるですね。
そこへ、なんと羽織が登場するのでした。
今日のマトメ「才能は気まぐれに逃げてゆく」
クリエイターの光と闇、栄枯盛衰、その急展開が激しい!
ボクテの裏切りという闇、デビューの喜びと、ものづくりの楽しさという光、そして今日は創造性が枯渇したクリエイターがたどり着く暗黒世界だああっ!
創造性って温泉みたいなものでして。
いつまで続くかわからないし、枯渇することもあります。
世の中には一発屋と呼ばれる人もいますように、才能は気まぐれに逃げてゆきます。
私も昔、単行本を全部集めていたのに、いつのまにか見かけなくなった個性的な漫画家さんのことを思い出し、辛い気持ちになっています。
どの漫画家さんも個性も才能もあるのに、活躍できるのはほんの一握り。
本当に辛い世界です。
でも、こういう暗黒面も描くからこそ、リアルで心に沁みるのですね。
前作『わろてんか』では、厳しいはずの芸人世界なのに、主人公周辺は容易く全員が成功しておりました。
本作は真摯です。
話の構成もまた抜群で、ユーコの男が全く彼女の創造性に興味がない、偽物をつかまさられる(あるいはわざと偽物を買う)、そういう人物である。
いわば、偽物の安らぎであるのに対して、京都の律は、ちゃんと鈴愛の創造性込みで応援している。
やっと出てきたわりには出番が少ない律。
しかも京都まで来てはいるものの、鈴愛との糸は途切れていません。
それどころか、ちょと守護天使みたいだな、ロマンチックだな、とすら思えてしまいました。
んで、そういう役を演じるならば、これはもう佐藤健さんしかいないんだな、と再確認しました。
冷たいようであたたかい。
突き放すようで縁がつながっている。
そういう人に見えます。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
>校正委員様
助かります!
ただいま修正させていただきましたー^^
今後もよろしくお願いしますm(_ _)m
匿名、改め校正委員です。
X アシスタントに描かせいた
○ アシスタントに描かせ”て”いた
「虚構に違和感を抱かせないのが芸術家だ」
という言葉を思い出しています。