てんと藤吉の夫妻は、大阪・天満で寄席「風鳥亭」を経営しております。
席主の藤吉は、売れっ子落語家・月の井団吾と専属契約を結ぶのに必死。
そんな中、てんは団吾の兄弟子である団真の妻・お夕をお茶子として雇いました。
お夕のためにも、団真を高座にあげたいと考えるてんですが……。
もくじ
「しっかりして、うちがついているさかい」
芸人四人組はストライキの真っ最中。
他の寄席に行けばよいところですが、お呼びもかからない様子です。
万丈目は先週(第9週)、京都からの寄席の仕事をしていましたが、もう来なくなったのでしょうか。
ここで四人組、藤吉が団吾に二万円のギャラを支払うらしいと聞いて、ますます怒りを燃やします。
一方「風鳥亭」は、ちょっとしたピンチに。
予定していた落語家が、電車遅延の影響で来られないことになりました。寺ギンに頼ろうにも、団吾の件でヘソを曲げてしまい、代役を回せないとのこと。
困り果てたてんは、団真にピンチヒッターを頼みます。
驚くお夕ですが、張り切って夫を呼びに行きます。
「一世一代の勝負や。しっかりして、うちがついているさかい」
お夕は、身なりを整えた団真を励まします。
いや、もう、お夕さん、艷やかですし優しいですし、それでいて芯もピシッと通っていて。これは『お夕さんに励まされ隊』でも結成されるんじゃないでしょうか。団真は幸せもんやで!
「あれは偽団吾や」観客の一言で調子急落の団真
亀井も団真のことを思い出していました。
若いのに人情味のある落語を聞かせる噺家だったと思い出しています。
団真も気合いを入れて、高座にあがります。
この『崇徳院』、うまいですね。
残り時間を気にしつつも、『このまま、ずーっと流してもらえないかな』とすら思ってしまいます。
北村有起哉さんの芸達者ぶりを感じます。
しかし、調子が良かったのも途中まで。
団真の耳に「あれは偽団吾や」という観客の声が入ってしまうと、途端に調子が狂ってきます。
北村さんのすごいところは、名人のフルパワーの芸ではなく、エンジンがかからないとか、調子が悪くなってくるとか、そういう演じ分けができるわけで。
だんだんと焦って崩れてしまう様が、痛々しくも見事です。
「あんた、がんばって!」
そう舞台袖で励ますお夕も健気で……。
結局、偽物呼ばわりされて、いたたまれなくなった団真は、ついに高座を降りてしまうのでした。
それだけは言ったらダメなやつを言っちゃったよ、禁句だよ
てんはここでもポカーンとした顔のままなんですよね。
お夕ほど、しっとりした哀感を出せとは言いませんけれども、もっと反応のしようがあると思います……。
お夕は高座を降りた団真を、それでもよかったと励まします。
「元気出して!」
「元気なんか出せへん。俺はとっくにあかんのや。それをお前が凄いだの、頑張れだの……俺は」
団真は悔しそうに言います。
お夕がいなければとっくに落語はやめているのでしょう。
お夕が優しく健気だからこそ、それがかえって重荷となって苦しめているわけです。
「待って!」
立ち去ろうとする団真の袖を引くお夕。こういう仕草が見たかったんだよなあ。
ここで団真、ついにお夕に手を上げます。
「団吾のところに、行ったらええ!」
ああ~、それだけは言ったらダメなやつを言っちゃったよ、禁句だよ!
本当にお夕が団吾の所に行ってしまったら絶望するパターンですよ!
団真は、昨日の回で「絶対にあいつにだけはお夕を渡さへん」と言っています。
お夕がいなくなれば、もう駄目だとわかっている。
それなのに、絶望のあまり思っていることとは反対のことを言ってしまうわけです。
嗚呼、哀れな駄目男よ……。
互いの信頼感が決定的に欠如している
この一部始終をてんは見ています。
主役のはずが野次馬ポジションに。てんはお夕に冷やした手ぬぐいを渡します。
「初めて手を……」
ショックを受けつつ、そう嘆くお夕です。
そこへ藤吉が慌てて戻って来ました。
「俺の許しなく勝手なことを! よりにもよって団真を高座にあげるなんて。おてん、お前に芸や番組のことはわからん。二度と高座のことを口にするな!」
あーあーあーあーあー……こっちもイキナリ言っちゃった!
てんはふくれ面で「わかりました」と言うばかり。いや、ここはきちんと反論しましょう。
留守にするなら引き継ぎをやれ、非常時に呼べる芸人を確保しておけ、席主抜きでも寄席を回るようにしてから出歩け、と。
そもそも藤吉が芸人四人組とまともに交渉せず、寺ギンを怒らせたままにして、引き継ぎも何もせずにブン投げて出かけるのが悪いわけです。
事前に、てんが「団真を高座に上げたい」と言うのも聞いていたわけで、対処のしようはありました。
団吾とのいきさつを説明し、出せないと言っておけばよかったのです。
それなのに、そのあたりの事情説明をきちんとしていないわけです。
てんもてんで、なぜ団真を高座に上がらせることになったのか、そもそも何が問題か語らずに、ぶすっとした顔で「わかりました」と言うだけです。
第9週であれほど大騒ぎして、ため込むなという結論に達したにもかかわらず、言いたいことを伝えずに、ぶすっとしてまたストレスをため込んでいます。
それで爆発する時といえば、団体交渉の真っ最中だったりするものだから、わけがわかりません。
藤吉はてんをビジネスパートナーとして見ていないし、仕事のことにおいて信じていない。
てんも藤吉を心から信頼していない。
団真とお夕とこの二人を比べると、成熟度や過ごした歳月の違い以上に、互いに対する信頼感が欠けていると思わざるを得ません。
こんなカップルを応援しろと言われましても。
藤吉とてん。
団真とお夕。
二組の男女は、割れてしまいました。
崇徳院の歌のように、割れても末に逢えるのでしょうか。
今週のマトメ「愛すべき駄目男と愛されない駄目男」
今週は、なんだかんだで面白かった、と思います。
月の井一門の兄弟弟子は、揃ってかなりの駄目男です。
団吾は借金まみれの遊び人ですし、団真もよいところがありません。
いきなり食い逃げ。
ふてくされる。
やる気のなさそうな態度。
途中で緊張して高座で失敗したものの、励ますお夕に八つ当たりした挙げ句、手を上げる。
あらためて確認してみますと『クズ男度CHECK!』では藤吉と競るレベルの問題児ですね。
しかし、全然、憎たらしくない。むしろ愛おしい。なんだか応援したくなる。
『なぜ、そう感じるのだろう?』
と自問したところ、彼はダメになっていった背景が透けて見えるから、という気がします。
以前、てんが藤吉に惚れているのは、彼女が「駄目男好きだからではないか?」と考えたことがあるのですが、今週、月の井兄弟弟子を見て痛感したことは……。
「やっぱり、駄目男でも、愛すべき駄目男と、そうではない駄目男がいる!」
ということです。
藤吉の場合、ゴリゴリに後者なんですよね。
ここ二週間は、月の井兄弟弟子のことをやるようですから、次週は下の句「われても末に遭わんとぞ思う」なのでしょう。
団真とお夕はともかく、藤吉とてんの場合は
「再会せんでいいし、なんなら藤吉は史実通りに退場してもらった方が……」
ということになりそうで。う~む、どうしたものでしょうか。
藤吉のよいところを見せてくれ!と願いながら、もう次で11週目になってしまうんですね。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
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