いつ子は理想の小姑
喜美子にも、挨拶をすべき方がおります。
両親代わりに八郎を育てたお姉さんが大阪からやって来ました。
「カフェサニー」に、スーツで風呂敷包みを抱えて、十代田いつ子さん、ついにご登場です。
ジョーが毒づいたように、このご両親は名付けにひねりがない。
五番目だからいつ子か。ええと思う。
席に座ると、いつ子はしみじみとこう言います。
「川原八郎になるんやなあ」
婿入りに、特に反発や毒づくことはないようです。まぁ、末っ子ですし。
むしろ、ここで気になるのは、結婚式のこと。
「式はどないすんの?」
八郎はあっさり答えます。
特別なことはせん、写真は記念で撮る。きちんとした格好で家族写真を撮る。
すると、いつ子はこう返します。
「あんたには聞いてない。ほんまにそれでええの?」
弟に厳しい、かつ単刀直入。
この作品は、関西の女性にあるスピード感まで出していてすごい。
粘りつくような口調、上目遣いで言動がすっとろい――そういうヒロインは、いくら関西弁であろうとNHK大阪らしくない。昨年の放送事故のことやね。
「こんなんでええの? 優しいようで頑固なところあるでぇ」
いつ子は切り出す。
それやな。八郎は絶賛しかされないような流れだけれども、無駄な頑固さがめんどくさい。
陶芸の道へ進みたい言うて、止めても聞かんかった。
嫁さんも家庭も持てんようになるかもしれん。そう思い、飯炊きから洗濯まで仕込んだ。卵焼きが上手。
そしてこれや。
「こんなんやけどうちにとっては自慢の弟や。大事な弟や。どうぞよろしゅうお願いします」
うーん、もう申し分のないお義姉さんですね。期待していただけのことはある。
寛大で、ハキハキしていて、家事まで教えてくれて。意地悪さがない。女の敵は女ということがない。
これは理想の小姑ですわ。
八郎は小姑までセットでええという、完全に理想的な夫です。
きみちゃん、ええの獲ったわ!
いつ子は川原家にも来ます。
丁寧に頭を下げるいつ子に、一家もご挨拶。
「こちらこそ、あのわざわざ足運んでいただきまして、ありがとうございました」
「よろしゅうお願いいたします」
マツも、百合子も、そしてジョーも丁寧で所作がしっかりしているんですよね。
ジョーは丁稚奉公の時代に身につけたのでしょう。こういう当時らしさがいいと思うんだなぁ。演技指導もしっかりしているんでしょうね。
喜美子はこう言います。
「このご縁、一生大事にします。お義姉さん、今までありがとうございました」
何気ないようで、こういうところが好き。
所作が綺麗で、丁寧で、育ててくれた相手には感謝する。
ヒロイン夫がいやらしい笑みを浮かべ、義理の母を小馬鹿にするような。
そんな昨年の放送事故はやはり何かの間違いやな。
【悲報】直子のパーマネント、強烈だった
そして春――父が作った増築新居に誰かが来ました。
本作はびっくりするようなことをする。
川原家の経済事情、増築だけで手一杯なところを考えますと、結婚はなるべくお金をかけられないとは思う。
それでも、ドラマの見せ場として結婚披露宴は欠かせないとも思える。
『なつぞら』のなつと夕見子の姉妹結婚式は素晴らしかった。
それを敢えてやらない。あのキスで代替? それはそれですごいけど。
はい、そんな新居にいるのは直子です。
「ええ〜! うわ〜うわ〜! すごいな〜気持ちええわ〜新しい畳や〜!」
「寝たらあかん! ほらこの頭、ぐちゃぐちゃにするで!」
新居ではしゃぐ直子と、それを抑えたい妹。
ここで、視聴者はこう言いたかったのでは?
「すごいのはむしろあんたのパーマネントや! 百合子が乱すまでもなくぐちゃぐちゃやろ……」
これはもう、マリリン・モンローではない何かや。
なんやろな。信作から去ったよし子さん程度かと思っとったのに。
公式サイトの人物紹介画像と落差がありすぎやろ!
喜美子はいつ子に日本髪を結ってもらっております。
着付けもできると聞いて、いつ子は感心して八郎にも教えて欲しいと言っています。美容師さんですから、気になりますわな。
こういうさりげない会話で、姉として弟の妻をチェックしているわけです。
大久保さん直伝ですから、いつ子としても「ええの獲ったわ!」となりましょう。
「これどないすんのもう」
と、ここで紋付けの着付けができずにジョーが出てくる。
「もう恥ずかしいわもう!」
マツが慌てる。
おう、いきなりいつ子にも下着見せかねん状態ですから。
「仲ええなぁ」
そういつ子は流します。
『なつぞら』の泰樹は、ピシッと孫娘の写真に紋付けでいるところだけだったのに。
NHK東京・柴田泰樹とNHK大阪・川原常治、どこで差がついたのか……て、わざとやろ、わざとやな!
北村一輝さんがピシッと紋付けを着こなすとなると、ある意味、仁侠ぽさに期待をしたくなりますが。
そして姉妹は、ついに義兄の八郎と顔を合わせます。
末っ子からいきなり二人妹ができるわけです。
「ほな、喜美子姉ちゃんのことよろしくお願いします」
そう言ってから、百合子にも言えと言いますが、妹はもう言ってあるそうです。
「こちらこそよろしくお願いします」」
なぁ、なんて呼ぶ?
直子はそう言い出します。
「そら兄貴ィや!」
「気持ち悪いわ!」
首を傾げつつそう言う姉が気持ち悪い。そう主張する百合子。
「お兄様や」
「気持ち悪いわ! 兄貴ィで決まりや。姉ちゃんの言うこときけっ!」
うーん、直子は東京でそういうかっこ付け仲間とつるんでんのかな? パーマネントもそのせいかな?
ヘアメイク担当者さんがええ仕事してはる。
ここで電話が鳴って、喜美子が大丈夫だと言って出ます。
喜美子の婚礼衣装がこの時代のものらしくていいですね。
駆け落ちだったマツは持っていないでしょうから、陽子あたりから借りたのかな。
はい、電話は陽子から。
「きみちゃん。今ちょっと窯業研究所の橘さんいう人が来はってな。ええお話、持ってきてくれたんや」
「えっ?」
なんやそのええ話て……あのコーヒー茶碗で飲んだ人やな。
続きは次回!
【ネタバレ注意】どっちが王座に座るんや!
はい、ここからネタバレ注意で。
嫌な方はここでサヨナラお願いします。では……。
本作の喜美子は「モデル」はおらず、「モチーフ」がおります。
神山清子さんです。
そこまでピッタリと重なるわけでもなく、特に父親はかなり下方修正されていると思える。
とはいえ、インタビューを読んでいるうちに不安になってきました。
先を知りたくなかったのですが、ついうっかり読んでしまいまして。
モデル通りの結婚生活だとちょっとギスギスするので、八郎は天陽退場ルートかと思ったのですが。
この電話といい、これから喜美子がグイグイ伸びていく出世ルートに突入していくんですよね。
2019年といえば『ゲーム・オブ・スローンズ』。
あれはデナーリスとジョンという二人が、王位継承権をめぐりギスギスしてゆきました。
「結局、王座はどっちのものなんや!」
「ええやん、王座にこだわらんでも……」
「そんなわけあるかっ!」
こういうことになって、悲惨な結末に向かうわけです。
きみちゃんは、秀吉系ヒロインで知勇兼備、センス抜群です。
それを夫の顔色を窺うようにぼかしたら、女性を描く作品としては問題でして。物語としては綺麗でも、それはちょっとどうかということになる。『あさが来た』はその典型例です。
デナーリスが王座を求めて炎上させる2019年、ここをぼかしてええんか?
本作スタッフはそこは考えているはずでして。
『なつぞら』は、ジェンダー格差を踏まえつつ、穏当な未来像を示してきた。
それに対して本作は不穏当さ上等で、苦いものがある。
本作には理想の夫が揃っているという記事がありましたが、むしろ全員どこか地雷を持った難あり夫だと思えます。
照子も夫が変わっていくと愚痴っていたっけ……。
「『なつぞら』はええと思います。100作目、流石や、バトン受け取りましたわ。せやけど、ここはNHK大阪の違いと覚悟見せな(アカン)」
ってことかな?
『ゲーム・オブ・スローンズ』レベルの地獄を、朝ドラでやるつもりやろか。
きみちゃんが八郎をアレして、デナーリスの仇討ちか?……期待しとるで!
※デナーリスの攻撃も緋色や!(閲覧注意)
◆朝ドラ『スカーレット』の原点。「境遇なんぞに負けてたまるか!」〈神山清子の半生・前編〉
◆朝ドラ『スカーレット』の原点。「白血病と告げられ震えが止まらなかった」〈神山清子の半生・後編〉
◆新朝ドラヒロイン“モデル”陶芸家・神山清子さんの壮絶半生
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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