「映画法」の厳しい目が光る中、妥協しない恋愛映画を作りたい北村てんと伊能栞。
いったんは検閲のチェックを通った『お笑い忠臣蔵』は、急にダメ出しされてしまいます。
どうやら伊能栞が当局から危険人物とみなされているようで。
映画作りは暗礁に乗り上げてしまいそうです……。
もくじ
やっぱりモノクロ映画で赤を表現する気やで
東京で検閲官に訴えるおてんちゃん。
2人で映画の「ここが良かったね♪」トークをするのですが、検閲官の川西さんは大丈夫ですか。
周囲に全部漏れている気がします。
ここでぶっ飛んだのが、例の赤いしごき帯ですね。
セリフにすることなく観客に「女の気持ち」を伝えられるというアレです。
しかし、そもそもモノクロ映画でどうやって伝えるのか?
もしかしてこれはわざとなのか?
何かそこに仕掛けでもあったのか?
と少し期待して、2人の台本読み合わせを見ていると、
「この赤いしごき帯をお持ちください」
とだけ。
しごき帯が赤いことは説明されない様子。
つまりは画面から判断するしかないようです。
まさか…、まさかですけど…、そんなことないと思いたいんですけど…、本当にこの脚本を書いた人は、当時の映画がモノクロだと認識していない???
嘘だーッ、嘘だと言ってくれよ!!
栞のせいで検閲が通らない!?
さらに川西検閲官は
「討ち入りにいった義士が雪で滑ってこけるところが最高で( ^ω^)」
と笑いをこらえているのですが……。
「カッコイイ」ところで四十七士が「ズッコケる」のが面白いかどうかはかなり微妙かなぁと。
それこそコケ方次第ですよね。
台本の時点で笑えるようなものではなさそうで。ドリフや吉本新喜劇的な感じですかね。
てんは、ここで『栞が自由主義思想を持つ危険人物だから、検閲に引っかかったのでは?』と気づきます。
しかし、これも変なのです。
確かに新世紀シネマの工藤は、栞の耳元でそう言いました。
私達はそれを見たばかりですのでよくわかってます。
ただ、それは、あくまで視聴者だけの話。
工藤は、栞の耳元に口を寄せて、小さな声で脅かすように話しておりました。
そのとき離れていた、おてんちゃんに聞こえるワケがありません。
だとすれば、なぜおてんちゃんは気付いたのか?
鬼のような地獄耳の持ち主か、あるいは工藤がうっかり大声だったか。
そもそも栞がそんなに危険人物とは思えません。
特に政治的主張もなにもない、単なる恋愛映画好きの50歳前後のおじさんですからね。
結局どこが駄目なのか、何が駄目なのかわからなくなってきました。
川西は新世紀シネマの指摘がなければ、検閲箇所がわからないほどザルだったという理解でよろしいでしょうか。
それとも、本来は問題ないけど栞の関与があるから駄目?
なんつーか、時代考証以前に、話が破綻していません?
はいはい、わかってますよ、マジメに見ている私が悪いんですよね。
ここは、雰囲気だけ表層をすくって、なんとなく納得しとけ、という場面なのでしょう。
すまん、ぼくのせいだ
「ガキの使い」おてんちゃんは、何の成果もなく内務省から戻って来ました。
脚本が通ったからとバブリーパーティまで開催した北村笑店一同は、あっという間に悄然としてお通夜状態です。
あのはしゃぎぶりを思い出すと、こちらまでいたたまれない気持ちに。
それにしてもおてんちゃんの大阪~東京間の移動スピードも速すぎません?
そもそも日帰りなんてしてませんよね?
なんとなく夜に見えますし、一日以上の時間が経過しているように見えないんですよ。
ここで栞が謝り始めます。
すまん、ぼくのせいだ、新世紀シネマに目を付けられているんだ、と。
この悪役設定されている新世紀シネマですが、何をしたいのかイマイチわからない。
北村から芸人を引き抜こうとして、伊能商会から栞を追い出して吸収したわけですが、イマイチ動機がわかりません。
ただ事業拡大したいだけ?
それとも栞に私怨でも?
考えるだけ無駄でしょう。
私はそもそもすべてが新世紀シネマのせいかどうかすらわからない、本当は栞の妄想なんじゃないかとすら思っています。
おてんちゃんや栞のような、駄サイクル(135話参照)をくるくる回る人というのは、自分のあやまちや至らなさに気づくこともなく、
『アンチのせいだ! 誰かが脚を引っ張っている!』
という、ワケのわからん妄想陰謀論にハマりやすい性質を持つからです。
工藤が、栞の脳内にだけ存在する、イマジナリーフレンドならぬ、イマジナリーエネミーであっても驚きません。
※イマジナリーフレンド:本人の空想の中にだけ存在する友人のこと
実際、おてんちゃんの中には鈴ひとつで現れる「藤吉霊」がおりますしね。
本当の自分を見つめ直した方が良いですよ
彼らは自分のやることなすこと完璧で、失敗なんてなくて、もしそうなるとすれば誰かの陰謀のせい、横やりのせいだ、とすぐ言い出す。
栞は新世紀シネマどうこう言う前に、自分が何度も検閲に引っかかり、そのせいで伊能商会映画部が潰れたことを真摯に考えて、反省するべきじゃないですか。
今回たまたま検閲通過できたのは、川西が無能だっただけで、新世紀シネマに指摘されなくても理解できる検閲官に当たっていたら、その時点で駄目だったと思いますよ。
栞は何度もミスを繰り返してきたのですから。
そのくせ悲哀感たっぷりに、
「ぼくのせいだ……」
とか言い出すんですよ。
だから、そうです。アナタのせいなんですよ。
そして、おてんちゃんは相変わらず、
「検閲官は面白いと言ってくれたのに……」
とズレたことを平気で言います。
検閲って、つまらないものにダメ出しする制度だと思っているのか?とすらツッコミたくなるほどバカげたセリフ。審査員かよ。
さらに、おてんちゃんは通天閣を買ったことが売名行為だと新聞で叩かれます。
史実ではそんなことはなく、戦時中に通天閣は焼け落ち、吉本せいは資材として提供しております。
いつどこで情報がリークされたのだろう
一番わけがわからないのは、おてんちゃんが軽薄な恋愛映画を作っている――としてバッシング材料にされているところです。
おてんちゃんの映画、今まさに一作目が検閲で頓挫している最中です。
いつ、どこでその恋愛映画は公開されたのでしょう?
新世紀シネマがこの辺の情報もリークしたということでしょうか。
「こんなものは言いがかりやわ!」
そう怒る皆さん。
言いがかりっちゅうか、流言飛語っちゅうか、もうわけわからーん!
と、呆然としていたら報国婦人会が北村笑店まで乗り込んで来ました。
なんかもう、突っ込みのもアホらしくなってきた。
脚本家さんは、
「なんだっけ? 戦時中にバッシングしてくるたすきのおばさん? あれにヒロインを叩かせるのは定番よね」
くらいのゆるゆるで通しちゃったんでしょうか。
活動内容を全く理解してませんよね。
この婦人たちは、婦人会でも何でもなく、三角眼鏡でざます言葉の戯画化されたPTAのおばちゃんでもモデルにしているんでしょう。
北村の活動が本当に当局に問題視されていたら、たすきのご婦人ではなくて、憲兵さんがドカドカと乗り込んできて、有無を言わさず閉鎖ですよ。
彼女らは戦時中にふさわしくない贅沢な人なんかを叱りつけたりします。
『カーネーション』のヒロインがおしゃれをしようと工夫した件で怒られるのは理にかなっていますが、これはもう無茶苦茶。
史実での吉本が当時業務縮小したのは、芸人が出征していたからであって。
それを戦争の理不尽さに抵抗したかのように描くのはどういうこっちゃという話です。
台本なんか読んでるワケないやろ
ここでおてんちゃん、キメキメの顔でご婦人の前に出て行きます。
「うちの台本、お読みになって言うてますの?」
おーい、おてんちゃん。
検閲を通過していない台本なんで、関係者以外読めませんて。
「お読みになりましたら、わかってもらえます! うちの映画は、いやらしくも、はしたなくもない!」
そりゃ、脚本を読んでいない以上、中身に文句付けているのではないと思いますよ。
おそらくや彼女らは「この非常事態に恋愛映画なんて作っている場合か!」って話じゃないかと。
恋愛映画を目の敵にする集団ってよくわからんのですが、そういうことでしょう。
それを、
「内容はいいんだもん!」
でオラついて押し切ろうとするのが意味わからない><;
検閲官の時も「おもしろいって褒めてもらえたのに検閲通らない!」と言っていたし、何かが決定的にズレているんですね。納得……って納得できるかーい!
これはもしかしたら、脚本家さんの心のシャウトなんですかね。
私のコイバナにケチつけるなんて、あんたら読解力ない! っていう。
このあと、楽屋でも芸人たちがバッシングへの愚痴を大声でべらべらしゃべっています。
アホではないだろうか。
こんな当局への不満をでかい声で筒抜けになるよう語る。緊張感ゼロ。
そこまで全員をアホにしてまで、本作は自分たちを批判する側に鉄槌を振り下ろしたいのですかね。
もう藤吉は当たり前のように座ってる件
場面が切り替わると、しれっと藤吉が降臨していました……唖然……。
もう「鳥の鈴」鳴らすことすら面倒になった――というか、おてんちゃんの能力がパワーアップしたんですね。
成長したね。よかったね。
いやいやいや。
せっかく婦人会相手に啖呵を切れる程度にまで成長したのに(啖呵の中身は意味不明ですが)、結局、死んだ旦那に相談しなきゃいけないって、どうなのよ。
まるで成長していない……って安西先生じゃないんだから。
しかもおてんちゃん、栞のことをペラペラと藤吉に相談します。
いくら死んでいるからって、旦那に愛人みたいな男のこと相談するってのもなぁ。
しかも、
「今まで栞さんに守ってもらってばかり。今度は私が栞さんを守る!」
とか言い出すおてんちゃん。
はっはっは、藤吉相手にこんなソウルフルなラブメッセージ、一度も送ったことないやろ!
これが脚本家さんがおてんちゃんに託した本音でしょうね。
史実ベースの藤吉より、自分で作り上げたメアリー・スー完成形である栞が大好きなのです。
その栞さんは、暗いオフィスでカバンを持ってウロウロ。
いや、普通に辞職しましょうよ。
ナゼ夜逃げみたいなことをしているんですか。
今日のマトメ「検閲をダシにして言い訳しとる」
先週の時点で『今週はワーストになるかもしれない』と書きましたが、予想は的中しました。
いや、斜め上を行きました。
今週はまるごと、
【戦時検閲に立ち向かう主人公と見せかけて、本作のバッシングに対する反論をおてんちゃんと栞にさせるという言い訳にもなっていない言い訳週】
としか思えませんでした。
これまでも史実を無視していましたが、今週はかすりもしない。
吉本せいと小林一三の経歴、吉本興業の事業にない映画作りをメインに押し込んだ挙げ句、戦時検閲も【コイバナ叩きに血道をあげる】というわけのわからないものになりました。
まったく理解できない。
もしかして脚本家さんの意図はこんな感じでしょうか?
おてんちゃんと栞:本作の制作者
北村の芸人:本作のファン
新世紀シネマ、検閲官、婦人会:本作を理解できなくてバッシングする意地悪な視聴者や批評家
そうだと考えれば、検閲側がコイバナを執拗に叩いている理由もわかろうというものです。
実在の人物をモデルにして物語を作ることを放棄し、自分たちの作品と姿勢を正当化するために、実在の人物をダシにしました。
やってはいけない一線を越えた感があります。
とりあえず、本作の制作者は、モデルとなった人物全員の墓参りでもして欲しいところです……。
最低週のしめくくりにふさわしい、駄サイクルを彷徨う駄目クリエイターあるあるな言い訳もドカーンとかまされました。
【私の作品を非難する人は理解していない、的外れ。理解すれば絶賛するはず】
要するに、視聴者がアホやから理解してくれへん、と責任転嫁しているように見えるんですね。
視聴者が制作側の意図を理解したうえで、そのうえで批判している可能性をまったく考えていない。
そういう世界観の本作では、検閲官が理解した途端にファンであることをご丁寧にペラペラ喋り始めました。
婦人会の人も、台本を目の前に出されて読んだ途端、
「ええわあ……」
「おなごなら理解できるわ、この気持ち」
とでも言い出すんでしょう。
【駄サイクル】を描いたという点ではこれ以上ない大傑作ですが、朝ドラとしてはもちろん黒歴史もの。
『純と愛』や『まれ』と並んで、放映後はなかったこと枠にされてもおかしくはなりません。
むしろそうではないとおかしい。
本作は『純と愛』と同じ、大きな罪を犯しました。
作品を、自分の目的のために使ったということです。
『純と愛』は、朝ドラのお約束を破壊し、意図的に視聴者に不快感を与えることが目的であったとしか思えない極めて邪悪な作品でした。
本作は、15分間×6回を、言い訳するために使いました。
どちらも本来の目的、よいものを作って視聴者を楽しませることから逸脱しています。
本作は放映終了後、NHK大阪の黒歴史をおさめた沼の底に沈んで、二度と浮かび上がってこないでくれ、と祈らずにはいられません。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
事務所とおばちゃん達が騒いでいた寄席の入口の距離ってすぐそこなんですね。
隣で押し問答しとんのに「大変です」って呼びに来るまで事務所の誰も気付かんのかいって、ズッコケましたわ。