半分、青い。84話 感想あらすじ視聴率(7/7)翼の折れた鈴愛の心に一枚の詩が入り込む

終わらぬ不況、格差拡大。
1999年(平成11年)に28才となった楡野鈴愛は、人生の秋の入り口を迎えているような、そんなお年頃でした。

漫画家の夢を断念し、100均でアルバイトを始めます。
結婚にも焦る中、出会いを求めて色々頑張りますが、どうにもピンと来ません。

そんな鈴愛の前にバイト仲間として現れたのが、森山涼次でした。

【84話の視聴率は22.4%でした】

 

年上の女の人からは涼ちゃんって呼ばれます

好青年のソケットくん。
顔もいい。物腰も柔らかそうだ。

そんな出会いなのに、グレーのもっさりセーターと赤いエプロンの鈴愛。律との再会用に買ったドレスは台無しにされるし、本作の鈴愛の服装っていつも意地が悪いですね。そこがリアリティかも。

開店前の仕事指導をする鈴愛に、涼次はこう言います。

「涼ちゃんって呼んでください。年上の女の人からはそう呼ばれます」
はぁ?
何こいつ、なんなの、このヒモっぽさ。あざとすぎない?
朝井正人といい、伊藤清といい、なんでこういうあざといやつばっかりなんだ!

ここで鈴愛、ショックを受けます。年上だと思われていたことです。

「私いくつ、じゃなくて、涼ちゃんさん?」
「28っす」

なんだあ、タメじゃん、昭和46年生まれじゃん、干支は亥年だね、と盛り上がる二人。
ちなみに当時流行した動物占いで、鈴愛は狼で涼次はペガサスなんだとか。ちなみに筆者はライオンです。って、どうでもいいですよね。

 

貫禄あってタフそう……ってフォローになってないっす

一通り盛り上がってから、私は年上に見えたのか?と鈴愛が問い詰めます。

涼次は、自分は女性と接触が少ないからわからないと言った後、貫禄あってタフそう、店長だと思っていたと、ダメなフォローをします。

この鈴愛の、年齢に関する戸惑いわかります。
本作の「30前なのに結婚していない」とか「若さという女の価値は減るばかり」とか、ステレオタイプの価値観を押し付けていると批判の対象となりますけど、そのまま単純に受け取るものではない、と思うのです。

子供の心をいつまでも持っていて、それゆえ年齢不詳な外見になって。人生のステップにあわせて外見を変えることができないヒロイン。

それなのに、世間は彼女を年老いて鮮度が落ちた存在だとみなす。
そういう落差が彼女をまだ揺さぶります。

キミカ先生、菱本、オーナー三姉妹はとっくにそんな揺さぶりを乗り越えて達観し、我が道を進んで行くものの、鈴愛は揺れているのです。

ユーコと比較して【夫も子供もいない】と焦ったのも、そのあらわれでしょう。
28才女性のゆらぎを描いています。

 

さすがに朝ドラで死体発見はないっすな

ここで涼次がバックヤードに行くと、田辺が酔いつぶれて寝ておりました。

「ひ! 人が死んでいるっ!」

先週の予告で一体どんな朝ドラだよ、と突っ込んだ箇所はここです。
さすがに、死体発見は大河ドラマのやること。これが店長の田辺と鈴愛は説明します。

涼次は、ささっと梅茶を作って二日酔いの田辺に飲ませます。鈴愛は「お料理がうまいのか」と尋ねますが、涼次はこれは料理と言えるのかと戸惑います。

いやいやいやいや、料理まではいかんけどさ。
この世代の男性で、さっと梅茶を作るって気が利いていて手慣れ過ぎでしょ。カルボナーラもさっと作れちゃうしなあ。と思ったら、親がいなかったからこそ作れるのだそうで。納得。

涼次が田辺に自己紹介をします。

この店は元は帽子屋だと田辺が説明。しかも二代目の老舗だったとか。
麦の帽子からして、かなりクオリティの良いものを作っていたのでしょう。

そういう職人芸のこだわりがあるものが廃れ、後に安っぽい100均ができる。これぞ寒々とした平成リアリティだと思います。

 

キャバクラ?って聞いちゃった

つくし食堂では、草太が明日東京で友人の結婚式に出ると晴に説明しています。

ここで晴は、東京では姉の家に泊まってこいと草太を説得。しかし、そのために携帯をかけても鈴愛には通じません。
ますます疑念は深まります。

メロンパンをかじりながら、弟から何度も携帯のワン切りがあって気持ち悪いとつぶやく鈴愛。
ああ〜、このメロンパン一個という最低最悪の食事っぷり。
栄養素は不足していてカロリーたっぷりで、安い。何も考えない若者あるあるの食事だ! 30過ぎてこういうことしていると健康診断に響くぞ!

このへんですよね、よく貧困のくせに太っていると叩かれるじゃないですか。
アメリカなんか露骨ですけど、貧しいと栄養バランスなんか無視して一番安くて腹が膨れるものに飛びつく、そして太って体を壊すのです。体調管理もできないやつは自業自得とか言いますけど、健康的な食事にだってお金の余裕は必要なんですね。

やっと弟からの電話をとった鈴愛は、ベタ塗りをしていたと言い訳します。アシスタントではなく本人がやるのかとつっこまれ、気分転換と返す鈴愛。

しかし、草太はごまかされません。
今何をしているのか、掲載作は何かとガン詰してきます。そしてバレる嘘。俺から家族にいわないといけないのか!と戸惑う草太です。

「あんだけ大騒ぎして母ちゃん泣かせて漫画家やめた? もしかしてキャバクラ? 出勤前の同伴?」
まーた、このドラマはギリギリの線を踏むなぁ!

色気がないから水商売はやっていないと鈴愛は即座に否定します。しかし、貧困女性のセーフティネットが水商売――という言葉を朝の食卓に届けちゃいました。

確かに『カーネーション』では奈津がパンパンにまで身を落としていましたが、あれは戦後まもない闇市のころです。
時は半世紀以上流れて平成です。
それでも、日本女性が没落すればそうなるんですよ、とサラリと触れてきました。

そりゃあネット上にも、朝から見たくないというアンチが出てくるでしょう。

しかし、何度も申しますように、その逃げないリアリティがいいのです。
私は支持しております。

 

岐阜の女をナメたらあかん

鈴愛は、とりあえず黙っていて、自分の口から母に説明したいと言います。
そして草太に、一番を取ったことがあるかと尋ねます。

鈴愛は、漫画なら一番が取れるかもしれないと思っていた、褒められたから、でも頑張れなくなった、と語ります。
羽の折れた鈴愛だと自嘲するのです。

鈴愛のこの野心!
ゆるふわと見せかけて、実は野心がギラギラ。
かの天下人・織田信長の岐阜城があった金華山で遊んできた女です。なめたらいかん。

岐阜県民にはお馴染みのスポット金華山と岐阜城です

ヒロインのギラつく野心って、朝ドラでは隠されてきましたよね。
例外は前述の『カーネーション』ぐらいで。

『わろてんか』の時なんか、それこそ関西のてっぺんとったるで~!という女今太閤をモデルにしているのに、なんだか恥ずかしそうに事業をするし、ずるい(商売的には上手な)ことはヒロイン以外のアイデアにしていたし、通天閣を買うときすらペコペコ申し訳なさそうにしていました。

あの傑作『あさが来た』ですら、どこかそういうところがありました。

序盤こそヒロインは新選組相手に啖呵をきり、懐にピストルをしのばせて炭鉱まで行ったのに、中盤以降はしぼんでいきます。
重戦車級の押しの強さがあったモデル(広岡浅子)とは違い、いくつになっても「びっくりぽんのかっぱー!」とかなんとか言っちゃう、可愛い年齢不詳の存在に、ちんまりとおさまってしまったのです。
しまいには女には独特のしなやかさが〜とか演説ぶるからズッコケました。

一種の【防衛】ですよね。
野心をギラつかせた女なんて世間に愛されないから、ドラマでは変えましょうと。

でも、鈴愛はそうじゃない。

嫌われてもいい。あんたに嫌われてもこっちは傷一つつかない。私は自分の手で一番星を掴むんだ。
そういう潔さがある。

だから、立ち上がれ、楡野鈴愛!
今は三方ヶ原敗戦後の徳川家康でも、いつかは関ヶ原に向かってくれ! あっ、関が原も岐阜っすね!

 

翼の折れた鈴愛の心に不屈の詩が入り込む

このあと、鈴愛は涼次の職業の話になります。

元住吉のもとで助監督をしている。
彼はナンチャラ映画賞を取った『追憶のかたつむり』の続編を撮影しているのだとか。

うーん、決定的にダメだ……。
一発屋が二発目をうだうだ作ると言っている時点で地雷です。

しかし鈴愛は、夢のある話にときめくだけです。
あ、あかん……自分と同じアーティストタイプの、しかも、だめんずに突っ込む未来しか見えない。

将来の映画化監督さんとかなんとか言い出すし、がんばれ、涼ちゃんさんとか言い出すし。誰かこの場に、萩尾律か秋風羽織先生を呼んできてください! 両側から「鈴愛、しっかりしろ!」って腕を掴んであげてください!

涼次の勤務時間は六時までです。帰った後、彼が何か忘れ物をしていました。
紙片を手にすると、そこには詩が。とてもステキな詩なので、是非本編でご確認を!

「翼が折れても、飛ぼうと思う」
そんな素敵な詩を呼んで、鈴愛の心は乱れます。

正人はパフェで心を惹きつけましたが、彼は不屈の意志をうたう詩で、鈴愛の心を充します。
傷つき、ボロボロになった、翼の折れた鈴愛の心に、もう一度勇気と別の何かを吹き込むのです。

その中に毒が入っていない――とは、今の時点じゃ言い切れませんが。

 

今日のマトメ「ギラつく野心を見せてくれ!」

今日は2018年7月7日。七夕を祝うどころの空ではなく、大雨で大変な目に遭われている方もおられるかと思います。一刻一日も早く復興し、またドラマが楽しむことができるよう、心からお祈りします。

リアルの時間軸なら、47回目の誕生日を迎える楡野鈴愛と萩尾律。
皮肉にも鈴愛が新たな恋の予感をおぼえる展開でした。

不安がないわけではありません。

いい歳こいて家庭も持てないのかと言われる、平成を生きる人々。
違います。持てないんですよ。
予告からして鈴愛と涼次は結婚に突っ走りそうですけど、普通は結婚に対して勇気がなかったり慎重だったり、現実的に金がなさすぎてあきらめたりする。

もしこの先、失敗しようものなら、鈴愛はまともな男を選べなかったバカとして世間から罵倒されるでしょう。

「昔は貧しくとも結婚して家庭を築いた! 今の若者はスマホにでも金を使っているんだろう!」
って言われがちですけどね。『ひよっこ』のころとは時代が違うんです。
そういう平成の暗黒面がてんこもりでしたね、今週は。

でも、今日は嬉しかったなぁ。
というのは、鈴愛の野心が見られたから。私の大好きな鈴愛の野心です。

そのせいで漫画をあきらめることにはなったけど……、私が思い出したのはナイキの広告です。

 

英訳:小檜山青(フリーライター

女の子は何で出来ているの?
花から 指輪から 噂話から ママレードから、出来ているの
それが私たち女の子を作っているの

鉄 自己実現の努力 そして幾多の戦い
それが私たち女の子を作っているの
忍耐 優美 国中に誇りを与えるもの
それが私たち女の子を作っているの
痣 パンチ 勇気の生み出すもの 握りしめた拳
独立 そして技術
情熱の心 尊厳
岩よりも硬い意志
炎のような強さ
誰の意見からも自由であること
成し遂げたこと 手に入れたこと
それが私たち女の子を作っているの
「あなたはあなた自身が成し遂げたことで作られる」

かわいいドレスの女の子が【女の子は何でできているのか?】という歌を歌っています。
花、指輪や噂話でできているのと可愛らしくステージで歌っていると、突如、バーンと扉が開いた扉や、客席から力強い女性が飛び出します。

サンドバッグを殴りつけ、懸垂をし、スケボーで吹っ飛ぶ彼女たち。
ステージの上にいた女の子は、「女の子は鉄、強い意志や力、痣、パンチ、勇気、握りしめた拳でできている」と歌い出し、最後は自身がサッカー場に移動しボールを蹴ろうとします。

朝ドラの典型的ヒロインが、この歌詞前半ならば、本作は後半です。

和子さんや晴さんなどの主婦たちはサンドバッグを殴ってストレスを発散し(そんな彼女らを、一番身近にいる夫たちも母親は優しいとかなんとか喋っている)、菱本はマシンガントークで男相手に立ち向かう――パンチや強い意志がある女の子たちです。

もちろん鈴愛もその一人で、涼次相手に迷走しようと、きっと野心を抱えて戻ってくるでしょう。

先週は打ちのめされた絶望感の中で終わり、今週はますます暗い平成に投げ捨てられました。
それでも鈴愛は拳を握って立ち上がる。そういう強さをみました。

たとえ萩尾律がそばにいようと、いなかろうが。
彼女はもう一度立ちあがります。

可愛げがなくてわがままと批判も浴びるでしょうが、野心でできた女の子なのだからしかたない。

織田信長が山を焼こうが将軍を追放しようが、彼に可愛げがなくてわがままだと言うのは、言う側が愚かで間違っています。
野心に満ちて恐ろしいと呼ぶのならば、適切でしょうが。

金華山で遊んだ岐阜生まれの女の子を侮ってはいけません。彼女は野心の塊なのだから。

◆著者の連載が一冊の電子書籍となりました!
ご覧いただければ幸いです!

この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

8 Comments

ビーチボーイ

今メイントレンドの涼ちゃんからは話題それますが、私はずっと思っていたのは弟クン(ソウタ)にもっと光が当たっていいはずだ、の件です。
そりゃ律はフクロウ町が生んだ世紀の神童。頭脳ルックススポーツの三冠王ですから、みんなが律律と騒ぐのは当然。比べられちゃ誰だってかないません。しかしいまいち影の薄いソウタだって私の目から見れば十分カッコいいし、しかも中学生の頃から既に楡野家で一番大人っぽく頼りになる男だった。姉をいつも陰で支えていた。いわば、ドラえもんとドラミの兄妹をそのまま男女を逆にしたような姉弟です。こんな出来のいい弟クンが「内向的で、取り柄のない少年→青年」とレッテル貼られているのは不当な扱いだと私は思います。ぜひ、近々大活躍してほしいと期待します。

ばかちんのはは

いつもありがとうございます。
英訳を載せていただいて、とても良かったです。

以下、追記です。(単純な誤字や重複と思われますが、お好きなように)

>そんな素敵な詩を呼んで、鈴愛の心は乱れます。

>花、指輪や噂話でできているのと可愛らしくステージで歌っていると、突如、バーンと扉が開いた扉や、客席から力強い女性が飛び出します。

匿名

いつも楽しく拝見しております。
ただ、今回ちょっと引っかかったのは、鈴愛は確かに岐阜県産の岐阜県育ちですが、
梟町は東美濃ということですので、東濃。となれば岩村、女城主の世界ではないかと。
実際ロケも恵那市とかだったと思います。
岐阜市と東濃、普段はあまり接触ないと思われます。なぜならば
中央本線で直接名古屋に出る地域ですから、よほどのことがない限り金華山の
方には行かないかと。おなじ美濃でも、西濃、中濃、東濃ではずいぶん雰囲気が
違います。

たぬき1975

涼ちゃんは人柄はいいと思いますが、秋風塾でもまれた鈴愛にはいずれ物足りなくなると思いますね
やってることが鈴愛の10年と比べると絶望的にぬるい

さつき。

動物占い…鈴愛&律 は猿じゃなくて
狼でしたよ。
自分軸、目標指向型だそう

対する涼ちゃんは
ペガサス
自分軸、状況対応型 ですと。

ここに今後展開も隠れているんでしょうか。

ペガサスな私の友人はちゃくちゃくと
自分の才能を活かし活躍を広げてますが。
難しいですね。

匿名

涼ちゃんさん、個人的には「はぁ?何こいつあざとい」って感じには全く見えなかったですね
結婚相手としてはどうかな~というのはありますが、気が利きそうなんで同僚としてはいいかも、とか考えながら見てました

肥後橋勤務

「あさが来た」は、思ったより、人気が出てしまったので、色々「大人の事情」が入りましたからねえ。地元では、ラッピングバスやら、ラッピング電車が走り、そりゃもう大ブームで。楽器を貸し出したお魅せでも「朝ドラで使用したお琴の演奏会」なんてやっていました。モデルになった会社も色々言うし、見ていて、それがありありと分かる部分がありました。後半は、きっと制作側は、大変だったかも。

モデルがいないと、自由に書けるという点はいいのかも。

ばかちんのはは

いつもこのサイトで勉強させていただいてます。
お手数ですが、以下の箇所を良きように編集くだされば幸いです。

>律と着るためのドレスは台無しになるし、本作の鈴愛の服装っていつも意地が悪いですね。

>いい歳こいて家庭も持てないのかと言われる、平成を生きる人々。
違います。持てないんですよ。

その他は、また気になった方がコメントされるのでは、と思います。
ありがとうございます。

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