面倒臭くてキュートな鯉登少尉
このあと、場面は変わりましてウキウキワクワク鯉登少尉。
というか、どういう生き方をすればこんなおかしい人になるのか、と思うくらいウルサイです。
なんだ、このポンコツ薩摩隼人は……。
ちなみに鯉登の髪型は、長髪かつ七三分けですね。
軍人で長髪七三分けにしていると、オシャレアピール感が半端なかったようで。ボンボンですねえ。
てか、もう、鯉登の残念ボンボンぶり、止まらないんですけど。
顔を赤らめて鶴見の写真を見るわ、自分の顔写真を貼り付けてクソコラを作ろうとするわ。鶴見が来ると猿叫するわ、早口薩摩弁で話すわ、鶴見の背景に花を浮かべるわ。
通訳を務める月島の心労が伝わって来ます。
どういう育ち方したんだよ……しかも彼は鈴川を射殺するわ、刺青を剥がしているんですよね。危険なことには手慣れているわけです。
薩摩隼人と明治のボンボンぶりがミックスされて、とんでもないことになっております。
ここで、花沢幸次郎と鯉登の父が同郷の親友であると鶴見から語られます。郷中仲間の可能性もあるかな?
鯉登の父は立派な軍人らしいのに、息子はどうしてこんな残念ボンボンなのでしょうか。
そしてここから先が、尾形の恐るべきルーツに。
内戦で荒れ果てた地と、その血を引く子
はい、ここから先が原作でも屈指の衝撃的な場面である、尾形の過去です。
幕末からの因縁が半端ないので、この記事をどうぞ。
尾形の母方ルーツである水戸藩。
幕末でも屈指の悲惨な境遇にあった地域ではないかと思います。
それというのも、原因が内戦であったから。
甚大な被害を受けたとはいえ、会津藩のような場合は、団結しておりました。あくまで攻めて来る外部の敵と戦ったという点では一致するわけです。
ところが、水戸藩の場合は内戦に陥りました。
敵対派の大量処刑もあったわけです。
私が一番ゾッとした話。
処刑の際に子供を殺そうにもなかなか首を打てないことがありまして。そこで目の前にお菓子を差しだし、食べようとして伸ばして来た首を切り落としたというものです……。
ご興味のある方は、以下の書籍がおすすめです。
『武家の女性 (岩波文庫 青 162-1)』山川菊栄
『覚書 幕末の水戸藩 (岩波文庫)』山川菊栄
『魔群の通過―天狗党叙事詩 (文春文庫)』山田風太郎
水戸藩を苦しめたものが内戦というところも、実に尾形らしい点です。
それというのも、父を殺しながら彼が語る話は、母に殺鼠剤を飲ませて殺したというもの。
以前語っていた「俺はおばあちゃん子」の背後には、こんな血塗られた事情がありました。
前述の通り、「内戦」は尾形のキーワードではないでしょうか。
家族の中で内戦を起こすように、彼は同じ血を分けた人間を殺害してゆくのです。
異母弟である花沢勇作をも、戦争中に射殺していました。味方誤射は戦場で結構多いものです。とはいえ、これは故意の射殺ですから、悪質です。
内戦で滅びた旧水戸藩で生まれ、育った尾形。
彼は仲間同士が殺し合った水戸藩の歴史をなぞるように、血を分けた人々、第七師団の戦友を殺して生きてきたのです。
可哀相な少尉は花沢勇作だけなのでしょうか?
尾形の圧倒的な悲劇的境遇。
そして慕う兄に殺されてしまった花沢勇作少尉の不幸にどんよりとしてしまう今回。
花沢と鯉登。
父親同士は同郷の親友だそうですが、その息子はタイプが違うようですね。
日焼けしていて訛りがきつく、キエエとうるさい鯉登と、色白で上品そうな花沢。
花沢幸次郎は薩摩の訛りが薄いですな。
こんな悲惨な話の回でキャピキャピ、もといキエエエと浮かれ騒ぐ鯉登がなんだかキュートに思えて来て、癒しのように感じるかもしれませんが。
いや、よく考えて見ましょう。
登場直後から彼は【キュートで可哀相な目にあう少尉ルート】に進んでおります。
少尉はカワイイようで実は不幸な散り様を見せることがありがちであると、彼の初登場時に指摘いたしました。
実は、尾形の話の中で鯉登も、カワイイ振る舞いをしながらも危険な道に進んでいるとバラされております。
彼と彼の父は、鶴見が偽装自殺をさせた花沢幸次郎の死に憤り、鶴見に協力してしまいました。
つまり、鶴見は鯉登父子を偽装自殺で騙しているわけです。
完全に騙されているにも関わらず、あんなふうに頰を染めて浮かれてワクワクと鶴見について行っている……これはもう何かのフラグが盛大に立っていますね。
こういう可哀相な目に遭う若手士官の映画やドラマ、すぐに紹介できるものなかったっけ?
そんなふうに記憶をたどって思い出したのが、コチラです。
本作は陸軍ではなくて海軍ですので、少尉ではなくて士官候補生ではあるのですが、似たようなものです。
※映画『マスター・アンド・コマンダー』。この予告編2:35前後に出てくるカワイイ士官候補生がとんでもないことに……
そんなわけで、鯉登が愉快な行動をして愛嬌を振りまくと、これが悲惨な将来を際立たせるためのものかな、とだんだんと不安になってくるのです。
キエエエエエ!
そういえば、鯉登のちょっとおかしな点。
彼は父親が海軍少将です。
明治時代といえば、陸軍は長州閥、海軍は薩摩閥であったもの。薩摩出身者は絶対に陸軍に進まないわけではありませんが、薩摩隼人で父が海軍少将である鯉登がどうして陸軍に進んだのか、ちょっと気になりますよね。
ついでに言うと、士官学校卒ですからその進路を決めたのは10代前半ということになります。
このあたり、後で明らかになるのでしょうか?
本作で推定長州出身であるのは、モデルの有坂成章がそうである有坂成蔵くらいですね。
薩長が目立つ明治時代であるのに、本作は薩摩重視です。
薩摩隼人というのはなかなか気になるところです。
第七師団の構成者は、戊辰戦争負け組の佐幕藩出身者が多いもの。その中で鯉登はいろいろな意味で浮いています。
あ、あともしも鯉登の自顕流を土方と永倉が見てしまったら危険なのでは?
「ほほう……まさか薩摩隼人がいたとはな」
「奴らの自顕流には手を焼いたものです」
「いっちょ斬ってみるか」
「ええ、久々ですな」
そんなふうに真剣で襲われちゃうぞ、鯉登少尉!!
これは月島も、深刻に嘆きますわ。
「面倒くさい」
※うわぁあああああああ、金カム、見逃してしもたっ><;
って、方はPC・スマホでゴールデンカムイ見放題のFODがありますよ
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
無料キャンペーン中!【FODプレミアム】
個人的には鯉登少尉は第7師団メンバーで唯一、生き残りそうだと思っています。
モデルがご健在だし。
た・だ・し…月島軍曹が目の前で身代わりになって死んでしまい、サバイバーズギルドに陥るとか、反逆の罰としてシベリア戦線に投入され、尼港事件に遭遇とか。生き地獄には陥りそう。