「シベリア抑留」の記憶
「そりゃいかったねー、シベリアに連れて行かなくてさ」
とよのセリフも、重要です。
太平洋戦争末期、満州や樺太から多くの人々がソ連兵に捕まり、シベリア抑留されてしまいました。
8月15日といえば、終戦のイメージがあるもの。しかし、樺太の人々にとっては、それ以降がむしろ地獄と化しました。北海道にはソ連参戦はなかったものの、いつそうなるのかという、緊張感に包まれていたのです。
北海道民の戦争を語るのであれば、外せない話です。きっちりとここで回収しましたね。
あのころ「日ソ中立条約」があるため、日本はソ連とは戦わなくて済むだろう。むしろ停戦の間に入るかもしれないと油断をしておりました。
しかし、ソ連はドイツ降伏後、虎視眈々と日本へ宣戦する契機を狙っていました。
英米連合国と比べて戦果がさして日本から取れない、領土は樺太程度しか得られない。
そうなったソ連は決断します。
「よし、日本人を労働力としてシベリアで使おう」
シベリアは、囚人の強制労働により開発が進められていました。
軽微な罪や冤罪でシベリア送りとされた日本人たちは、ここで苦しむこととなるのです。日本政府も、返還交渉どころではありません。
シベリア抑留については、後半の舞台が北海道であった『マッサン』で扱われました。
が、これがなんともお粗末な描写でして。
抑留者は解放後、海路を船で移送されています。帰還者家族には、そのことが事前連絡されることが多いものでした。
それが、あのドラマではシベリアから北海道まで歩いて帰ってきて、突如家族の前に現れたかのような描写でした。泳いで日ソ間を渡ったのかーい!
近年のNHK大阪は、こうした雑な戦時描写について反省する必要があるでしょう。
『カーネーション』の頃はできていたのになぁ。
このあたりの問題は、樺太アイヌや北方領土問題を考える上でも重要です。
これが開拓者一世の世界だべ
ここで、剛男が父親前提で語られることに焦ったなつは、思わずこう言ってしまいます。
「お父さんじゃありません!」
これにはとよ以下、大人が意味を察知してざわつきます。
おいおい。こういう笑いのセンスも、本作は冴えています。シリアスと笑い、大人と子供の混ぜ方がうまい。
そしてこのあと、さらなる衝撃発言が!
「わしの弟子だ」
頑固ジジイの弟子認定がキタぞー!!!
ここでやっと、なつは「奥原なつです」と名乗ることができます。
疎開ではないと否定すると、次は新たな疑惑が浮上します。
【じいさんによる人さらい疑惑】
おいおい、おーい!
もうやめて、腹筋が辛いからやめて!
「口の減らんババアじゃ」
泰樹が呆れます。
さてここで、親しみを込めて呼びたい、とよババア。
それにしても戦闘力が高い! 開拓者一世はこうでないとな!
北海道とは、そういう歴史の土地です。
アイヌにも、ヒグマと渡り合う強い女性がいました。アシリパみたいな人が実在したんですよ。
女性開拓者も、強い。
伊達慶邦正室・保子(やすこ)は、お城の奥で育った大名家の姫でありながら、開拓に挑みました。
人呼んで「伊達開拓の母」。
強い女性あっての、北海道なのです!
しかし、強すぎる大人のマシンガントークは子供には喧嘩に聞こえるのでした。
「あのお願いです! 喧嘩はしないでください」
ここでジジイとババアは、喧嘩ならもっと本気、言葉を選ぶと言います。
そしてこれこそ、開拓者一世なのだと。思ったことをズバズバ言ってこそ、そうなのだと。
北海道民以外が聞いたら、なんという修羅の世界だと思うかもしれませんが。
北海道民はむしろガッツポーズかもしれませんよ!
これぞ北海道だべ!
ここで、牛乳と卵、手に入れた蜂蜜で、雪之助が何かを作ると言い出します。
うん? プリンかな?
そう思って見ていると、アイスクリームでした。搾りたての牛乳と、産みたての玉子を使って、こんなのうまいに決まっているでしょ!
これには泰樹も納得。
とよ曰く、大酒のみと見せかけて甘党なのだとか。
「見せかけてないわい」と泰樹は言い返すのでした。
なんでこの開拓者一世のジジイとババア、戦国末期の真田家みたいに殺伐とした会話をしてんの?
前世の記憶なの?
その説明は、この先にあります。
アイスクリームの味は、労働の味
ここで泰樹は、開拓者一世ジジイVSババアの舌戦に圧倒されていたなつに、こう語ります。
俺たちは何でも我慢せず言う。
そうしなければ、開拓の辛さ、零下20度にも耐えられなかった。
そう言い合うだけでも、恵まれている――。
なつはそう語る泰樹の横で、アイスクリームを味わっています。
「甘い、すごくおいしいです!」
「うちのもんには内緒だぞ」
これも昭和らしい口止めです。
あのころの買い食いは、今よりもずっと厳しく禁止とされたものでした。
それだけ礼儀正しかったから?
これがそういう単純なことでもありません。
戦前は食品衛生の認識が今よりずっと低く、危険であることがよくありました。
屋台で食べた軽食が原因で、命を落とした子供もいたものなのです。大人よりも、致死量が少ない子供のほうが危なかったのです。
そういう中毒死を防ぐために、親は買い食いを禁止していた。そういう背景があります。
「お前が搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ」
泰樹の真意が、ここでわかります。
労働の味を、なつに教えたかったのだと。
ここから先が、泰樹が完全に賢者化するハイパータイム!
前日のレビューで、泰樹は【人生の真理を教える老賢者】だと書いたのですが、翌日、早くも的中してさすがに驚きました。
なつを弟子扱いするし。
もうこれは実質的にルーク・スカイウォーカーとレイでいいでしょ。
ここから先の泰樹の言葉は、プリントアウトして壁に貼りたいくらい、含蓄があります。
ちゃんと働けば必ずいつか報われる日がくる。
報われなければ働き方が悪い。
あるいは働かせ方が悪い。
そんなところからせっせと逃げ出せ。
人をあてにすることじゃない。
自分の力を信じていれば、きっと誰か助けてくれるもんだ。
これも開拓者一世の経験から語っているのでしょう。
劣悪な職場からは逃げてこそだべ
報われない劣悪な職場からは、すぐに逃げろ。この言葉も、奥が深いものです。
それというのも、北海道は明治以降、日本でも屈指、最低最悪の労働環境があったからなのです。
急遽広大な大地を開拓するとなった明治政府は、とんでもない手段を考え出しました。
◆戊辰戦争の敗者である屯田兵を開拓に動員する
◆アイヌの伝統的な生き方を否定し、開拓に動員する
◆網走監獄始め、囚人による危険な工事を行う
◆タコ部屋のような劣悪な労働環境
北海道各地には、こうした劣悪な労働犠牲者の慰霊碑が建っています。
「あのトンネルには、人骨が埋まっているんだわさ」
「あの人造湖を作る時には、大勢亡くなった人がいたってな」
北海道民は、そんな話を聞いて育ってきたものです。
『ゴールデンカムイ』にも登場する石川啄木、そして小林多喜二。
北海道にゆかりのある作家が労働問題に関心を抱き、暴いて来たのは、そうした歴史背景をふまえているのです。
開拓者一世が、思ったことをズバズバと言い、嫌になったら逃げ出す。
その背景には、北海道の厳しい歴史がありました。
黙っていたら、我慢していたら、死んじまうべ!
新年度幕開けに、ふさわしい賢者の言葉です。
無理に笑うな、堂々と生きろ
ここからも、ハイパー賢者は語ります。
お前はここ数日、ほんとうによく働いた。そのアイスクリームは、お前の力で得たものだ。
お前なら大丈夫だ。
だからもう、無理に笑うことはない。
謝ることもない。
お前は堂々としてろ。
堂々と、ここで生きろ。
いいな。はよ食べれ。
そんな泰樹を見上げるなつ。涙をこらえて、アイスクリームを食べます。
これも、すごくいい言葉です。
正々堂々働いているんだ。ならば無理に笑うことはない。謝ることもない。
なつが、戦災孤児として縮こまって生きてきたこと。そのことを、見抜いていたからこそ。だからこう言えるのでしょう。
もうひとつ。
大事なことは、なつが女だということです。
昨日も指摘しましたが、やっぱりジェンダーによる束縛はあるもの。
無理に笑うことはない、謝ることもない、お前は堂々としてろ――。
これはもう、時代の最先端をえぐる、賢者の言葉です。
◆『キャプテン・マーベル』に寄せられた不満にブリー・ラーソンが粋な返し – フロントロウ
アメリカですら、ヒロインは笑えと言われるのです。
そういう時代に、このセリフが出てくる。
これはもう、すごいことですよ!
ナゼって、無意味にニタニタ笑い、男性の感情をもらい、その言動に合わせてばかりいる、そんな女は堂々と生きてはいない。そうズバリと言い切ったのですから。
そんな賢者とのアイスクリームを食べて、夕日の中、自然の中、荷馬車で帰っていきます。
その日の夕空は、とても綺麗だったそうです。
なつは、上野の闇市で見た夕空を思い出していたのだとか。
明日はきっともっといい日になるぞ――そうなつが心の底から思えたのは、泰樹の弟子として生きていく、そんな自信があればこそでしょう。
ここで提案なのですが
このスタッフさんたちをスライドして、このまま、これをやってくれないかなぁ。
実写版『ゴールデンカムイ』
土方歳三:草刈正雄さん
永倉新八:小林隆さん
これはもう、各方面で失神者続出でしょ。できる、できるぞぉぉ!
※こんな土方を演じる草刈さんに斬られたい……!
あとはアイヌ関連考証だけですな。
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
↓ この投稿者の方、放送から日が経ってから、あちこちの放送回のコメント欄に「反ポリコレ」の投稿を繰り返しています。
見方によっては、まるで、「トイレの差別落書き」のような卑怯な行為にも感じます。
こんな真似をするのでなく、正当に述べられることならきちんとしたところに書くなり、問合せメールを活用するなりし、それでもご自身とは感性・感覚が合わないなら閲覧をやめるべきだと思います。
ポリコレ云々関係なく普通に楽しめるドラマだと思います。
政治的主張は程々に。
花子とアンの赤毛のアンとの関連付けに関しては本当に酷かった。完全に同意。学校もアボンリ小学校にしたんだっけか。吉高の喋る英語も酷かったし。
それに比べ、このドラマのOPではオーチャードスロープとグリーンゲーブルズに至る橋がうまい具合にオマージュされて、感動。
帯広から帰る道も何処と無く「喜びの白い道」っぽかったし。
女の子2人は、おしんと同時期にやってるし、加代とおしんの関係性になってくんだろうか。そういえば聡そうな女の子だなぁ、と思ってました。
真田丸のおしどり夫婦が朝ドラにいてビックリしたわ。もう真田昌幸と薫にしか見えん。
アイスクリームのくだりは、「あぐり」を思い出しました。やはり意識したんだろうか。あの朝ドラ、最高に面白かったもんなぁ。
『男社会の都合の良い思い込みを破壊してきた』
まさにそうだ!と思いました。
動画がアップされていたプリキュアは未だに進化を続けていて、ようやくというか、ついにというか、今期は褐色プリキュアも登場しましたし。
ガンダムなんて初期からグローバリズムに富んでいたばかりか、Vガンダムに至っては今のmetooの時代にこそフィットするアニメ作品ですし。
泰樹となつのような素晴らしい人生の師弟と、ルーク(に似た老人)とレイのような表層すら取り繕えていない関係を対比する所だけは少々首を捻らざるをえません……
>元道民さん
ご指摘ありがとうございます!
確かに30でしたね><;
修正させていただきますー^^
細かい所でスミマセン。
草刈さん、零下30度と言ってます。
半年の苦行を経て、とうとう良いドラマに出逢えた!
まだ早いかも知れませんが。(笑
いちいち細かな部分までが検証しっかり。
キャラの心理深層をこちらに考えさせてくれる脚本。
前作からの反動でしょうか、褒め称えすぎかも知れません。
初日ですでにひと泣きしてしまいましたが、本日、更にやられてしまいました。
なんですか、あのアイス食べトークは。
草刈じーちゃん最高じゃないですか。
開拓者の苦悩を味わって来たからこそ、なつが生き抜く為にしてきた苦労がわかる。
わかったからこその、
「堂々と、此処で生きろ」
花粉症か感動ゆえか、涙が。(笑
突然現れたよそ者に対する、子供達の嫉妬や羨望の心理描写も良い。
北海道と言えばのチームナックスの面々。
(音尾さん、ヤスケンさん)
まさに、ヒンナヒンナです!
できれば洋ちゃん、シゲさん、森崎さん、5人全員集合で、、、
ドラマとして今はまだチタタプ中ですが、広瀬すずさん登場後にどんなオハウになって行くのか?
楽しみです!
姉畑先生、チ○ポ先生、ラッコ鍋等下ネタパートはカットでしょうが、ゴールデンカムイドラマは見てみたいですね。
肉はスーパーに陳列されてる状態で自然に存在してるんじゃない。
可愛いこぶたちゃんから成長を経た上で、食卓にあがってくれてる。
カムイ(獲物)は、自ら矢に当たりに来てくれているから、感謝を持って神の国に送り返す。
それがアイヌの考えかた。
残酷の一言では片付かない、“生きる”の根源。
最高の食育ですよね。
すみません、だいぶ脱線してしまいました。
見続ける事が出来なかった前作が終わって、新しいドラマが始まりました。
これからアニメに関わる話になってゆくからでしょうか・・・「赤毛のアン」「火垂るの墓」「アルプスの少女ハイジ」が浮かんでくるシーンが印象的です。
が、期待が大きすぎてはいけないと思いながら観ていましたが、4話目に素敵な心に染みてくる台詞が飛び出してきました~(嬉)
大人として生きて来なければいけなかったなつに泰樹のかけた言葉は
なつの心の緊張を解く優しい言葉でした。
こんな台詞を聞きたかったんです。どの時代でもどんな人にでもかけてあげたい言葉、かけられたい言葉・・・染み入ります。
今後がどんどん楽しみになってきました。
また、こちらを覗かせていただきます。よろしくお願いいたします。
今日はストーリーにも泣かされましたが、
W仙道敦子にびっくり(BS限定 おしん子役→なつぞら)
当然、偶然では無く狙いなんでしょうが、あざといとかではなく、
まんまとしてやられましたと苦笑い。
あざとい!だがそこが良い!それが今作の印象です。
まるで世界名作劇場のようだとの事ですが、まさにですね。
なお実写版ゴールデンカムイですが、草刈さんは鶴見中尉もアリなんじゃないかなと思いました。
あのユーモア、カリスマ性、話術、策士ぶり、政治力、そして恐ろしさ、熱烈な信徒を大勢抱えている事(原作ではまた一人出てきたし)。
主役以上の難しい役であるからこそ、お願いしたい。
「そんなところから逃げ出せ」云々。
壁に張ります。
自分の息子は所謂上場会社に就職したものの、ほぼブラック状態で働かされ、息絶え絶えでした。もう帰ってこい、と言った日を思い出します。今は元気に働いていますよ。命の危険を感じたら逃げることを普通に教えられる環境で生きていたいですね。
3話目にして泣かされるとは思っていませんでした。これでやられました。
もうこの半年は時計がわりにできなくなるのが大変ですが、これからどんどん楽しみです。
雪之助を安田顕さんが演じておられるので、大泉さんもですが、他のTEAM NACSメンバーも出てくれるんじゃないかな、と期待したいですね。
始まりましたねら新しい朝ドラ。今回も、気づかなかった視点を提示してくださるコチラのレビューにお世話になってます。語りたいことがたくさん過ぎて、短いコメント欄ではもう何も言うまい、な気持ちになるくらいです。
とりあえず、今週は毎日泣いてます。
困…