東京は秋でも、十勝はすっかり冬――そんな柴田家では電話が鳴ります。
「はい、はい、はい、はい……」
そう言いながら電話を取る、すっかり昭和のおじいちゃんになっている剛男。
背景にはやかんを置いたストーブ。これぞ北海道の冬だべした。
「おお、なつ! 元気かい?」
そんな通話から始まります。
なつは千遥のことを話し始めました。
柴田家でも、なつと明美経由でその情報は伝わっております。
なつの電話機に受話器カバーがついておりますね。
黒電話すら見たことがない。そんな方が増えた現在、ピンとこないかもしれませんが、かつての家庭電話には布カバーがつけられていたものです。
スマートフォンのカバーとはこれまた違います。落として壊れるものでもないし。
デジタル化、コードレスでなくなってしまいました。
『半分、青い。』の時系列だと、鈴愛上京後には絶滅寸前ですかね。
あれは何だったのかな?
そういうところをきちんと再現する本作です。
柴田家最弱だからといって、そんな!
そのころ、柴田家の女性陣は農場アイスクリームの作戦会議中。
なつぞら140話 感想あらすじ視聴率(9/10)圧巻の北海道開拓史ミルク、いちごミルク、あずきミルク……と、色々ノートに書きつけてあります。
これがなかなか細かい設定だし、おいしそう。そう判別できるだけノートを写すということは、小道具さんが頑張っているということでもある。
富士子と砂良は、実家に戻っている夕見子に聞きます。
「雪月でも、あずきミルクはあるんでしょ?」
「そこは企業秘密でござる」
ドヤァ……これでこそ夕見子。
実家の頼みだろうと、雪月を守ってこそ軍師ですからね。
そこへ剛男がやってきます。
夕見子もいるのかとちょっと意外そう。電話せず突然きたとしても、ありえるところではある。あるいは剛男はアイスクリームに関与できていないのか。
ここで剛男は、千遥の離婚について語り始めます。
これは見逃せないと東京へ向かおうとする剛男。
しかし、富士子は容赦がなかった……。
「ハァ? あんたが行ってどうなるのさ?」
この富士子の顔もなかなか強烈で、松嶋菜々子さんの新たなる魅力がグイグイ出ている気がする。
罵倒する松嶋さんという、新たな可能性を感じる。
しかし、剛男は負けられません。
「俺には責任がある!」
おう、剛男さん、柴田家最弱だなんて言ってすみません。
『あさイチ』でも、そういうネタにしていたし、公式設定ということで。
いい人なんです。愛もあれば、責任感もある。
そう言われたら富士子も「飛行機代がもったいないしょ!」と止めるわけでもない。
飛行機が飛ぶ音が入ります。
罪のない嘘
そしてなつと咲太郎は、千遥話し合いの席へ。
咲太郎のトレンチコートが今日もカッコいい。
場所は「杉の子」です。
千遥の横には、光山なほ子もおります。なほ子は二人に、複雑な心境を秘めつつ接してきます。
千遥を一方的に養女してしまった。
でも、なつも咲太郎もそれを責めません。むしろお礼を言います。
「私を恨んでないんですか?」
なほ子が気になることは、千遥の結婚時に縁切りさせてしまったことです。
それでもなつと咲太郎は、千遥のためを思ってのことだからと理解しています。
「私たちが、一番よくわかります」
戦災孤児の境遇だからこそ、そこは理解しています。
やむを得ない嘘を責めることはありません。
はい、ここがちょっと重要です。
咲太郎:人当たりがいい、実はそこまで怒らない。仲噴水突き落とし事件は、まぁ、不幸な例外だと思ってください
なつ:相手の心情や動機を理解できれば、怒りはしない。けれど、そうではないときっちり怒る! そこは泰樹伝授だべな
それでも、なほ子はしっかり者ですからね。
離婚を聞いて、責任を感じています。
「全ては私の嘘……」
「お義母さんのせいじゃない」
そう、なほ子と千遥は言い合うわけですが。
この【全ては私の嘘】って、どこからどこまででしょう?
千遥の出自を語らなかったこと?
それとも、清二の愛は嘘だと思いつつも、黙認して縁談を進めたこと?
そこは気になります。
嘘をついていたほうが、短期的に見ればよい結果と思えることはあるものです。
千遥の言う通り、なほ子を責めても仕方ないところはあるのでしょう。
私に嘘をついたのか?
そこへ、ガラリと戸を開けて雅子と清二がやって来ました。
雅子の背中に隠れるような、どこか無責任そうな――清二は出てきた瞬間からゲスっぽさを漂わせております。
「千遥さん、これは一体どういうことなんです!」
千遥の義母・杉山雅子役は、連続テレビ小説 第17作
『雲のじゅうたん』でヒロインを演じた浅茅陽子さん。千遥は今後、どうなるのでしょうか…?↓『#雲のじゅうたん』作品紹介はこちらhttps://t.co/cDZMJRcbVT#朝ドラ #なつぞら #浅茅陽子 pic.twitter.com/Km53x7xMCX
— 【公式】連続テレビ小説「なつぞら」 (@asadora_nhk) September 17, 2019
そんな情けない二男よりも、手強そうなのが雅子。
千遥はそんな義母に圧倒されつつ、生い立ちをぽつぽつと語ります。
父は戦死。
母は空襲で死亡。
家を焼き出され、三人きょうだいで生きていくしかなかった。
戦後まもなくは、上野の地下道に暮らしていた。そんな境遇です。
なつぞら7話 感想あらすじ視聴率(4/8)「東京に行ったのかもしれん」ここで雅子はこう来ました。
そしてなほ子を咎める目になります。
「浮浪児だったの、あなた!」
迫真の演技で、ほんとうにつらいものがある。
なつも北海道の学校で、野良犬扱いをされていましたっけ。
なつぞら5話 感想あらすじ視聴率(4/5)私も怒っているべさ!意地悪なクラスメートは彼女に同情しません。
それどころか、野良犬じゃないか、ばい菌を持っていて、病気なのではないかと囃し立てます。
人間をそういうふうに扱ってきた。
それがこの社会なのです。
そのあと孤児院に送られて、最年少の5歳だけになんとか連絡できる親戚に引き取られたものの、6歳になって家出してしまった。
なつぞら67話 感想あらすじ視聴率(6/17)ずしりと重い芯からの悲しさとしは、千遥にきつく当たっていました。
千遥にばかりきつい仕事を押し付け、実の子である幸子とその兄よりも、粗末で少ない食事ばかりを与えていたのです。千遥は、そんな差別と虐待に耐えかねて、逃げたのではないか。
幸子は暗い顔でそう告げます。
「家出……」
そう言う雅子が怖いってば……。
そういう根性なしなのか――そんな目線すら感じると言いますか。
その家出で、見ず知らずの復員兵が保護して、置屋に売ったと。
なほ子は、育てているうちに千遥がかわいらしくなってしまい、養女にしたのです。
あの頃は、そういうことはたくさんあったのだと。
「つまりそういうことを隠して、うちの嫁になったということですね」
そう詰め寄る雅子。
ここでやっと清二がこう言います。
「そんなことどうでもいいだろ」
雅子は知っていたと言うわけです。
雅子は知略がかなりのもの。人脈もある。芸者の身元なんてすぐに洗い出せた。
置屋に売られたわけありであるくらい、当然知っていたわけです。そこを、隠してどうすると突っ込むわけです。
雅子……これはおそろしい。
清二がそこを暴露しなければ、なほ子や千遥の心理的な負い目につけこんで、ことの主導権を握るつもりであったのでしょう。
意地悪な言動も、計算しきった上でそうしていると。
こういう弱い立場の女性や子供は、その時点で危険なのです。
シングルマザー。離婚歴がある。家族の後ろ盾がない。
そういうマイナスポイントをつけこまれやすいから、気をつけなくてはなりません。世知辛い世の中です。
そういう弱みにつけこんだのか?
そうではないのか?
雅子はすんなりと認めます。自分は反対した。けれども、清二が惚れている。それに、夫・春雄がそんなことは気にするなと一喝したそうです。
彼は千遥を一番可愛がっていました。清二ではないのです。
そんな義父を亡くして、別れる決意をしたのならば、無理もない。
雅子にたしなめられつつ、そうサバサバと言い切る清二。だからといって、別にいい奴だとは思いません。
「よく決意したな」
そう語る清二。おい! おいおい、なんだこの無責任男は!
こいつは次の女に移行したいけれども、千遥にそう告げて、自分が悪人として非難されるのが嫌なんですよ。むしろ、あっちからいなくなるならばラッキー! そういうゲスオーラが出ています。
お前の妻だろうが!
お前の店だろうが!
こんなに短い出番なのに、ありのままにゲスっぷりを見せる清二がすごい。演じる渡辺大さんも素晴らしい。
こいつ、目線も泳いでいるし、気もそぞろそうだし。
雅子と比較すると、やる気のなさが見え見えなんですよね。
今だって、早く好きな女のところに行きたいな〜と思っていそうで。演技も、その指導も、ハイレベルな本作です。
「そんなのただの無責任じゃない!」
ここで怒りを隠さなかったのがなつです。
いいぞ、なつ、流石、よく言ってくれた!
咲太郎はたしなめます。
彼はなんだかんだで人柄が丸くて、明るくて、営業向きなんでしょうね。異性相手だとそこに惚れられて、心を盗んでしまう危険性があったものの、加齢とともに落ち着きました。
誰しも若い頃の方がイケてるという認識がありますが、どうでしょうね。
人間は男女問わず、加齢してからの方がよろしい方もいるもの。咲太郎もそうではないでしょうか。
雅子は、清二が使い物にならないためか、次の策を出してきます。
浅草料亭の味を継ぐ者
「千遥さんは、この店を潰していいんですか」
次は、春雄への罪悪感を使うらしい。
強いぞ、これは強い!
「すみません。養育費もいりません。千夏といられたらいいんです」
千遥は、そんなささやかな望みだけを言う。
でも、雅子相手にそれは通じるかどうか?
こういう謀将は、このやり取りから千夏が弱点だと分析しますよ……。
雅子って、清二のことは放置気味ではないですか。
これはもう、この夫婦に愛はない。千遥に清二を使って揺さぶりをかけても、何の効果もないのです。
駒としては使えないから、清二は放置されると。
かわりに、春雄と千夏を使うのです。
このやりとりだけでも、千遥と清二の愛が表層的だったとわかるんですよね。
「そうはいきません。千夏はかわいい孫。それにどうやって育てていくつもり?」
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> 千遥はすぐに仕事を探すと引き下がり、なつが援軍を出します。
千遥は引き下がってないですよね。食い下がってました。
千遥はすぐに仕事を探すと引き下がり
は、
千遥はすぐに仕事を探すと食い下がり
の間違いではないですか。
脚本の大森さんのインタビュー記事を読み心からのエールを送りたいと思ったが、それに対する書き込みがあまりにもディスる内容ばかりで目を疑った。悪意あるひと握りが扇動しているにしても酷い。
朝ドラのヒロインは昔は「雲のじゅうたん」のように、女性の先駆者が多かった気がします。ヒロインとしては極めつけのお嬢さまである広岡浅子は、珍しい方だったのに、それが受けたので、貧しい米屋出身のはずのヒロインが、薬問屋の大店の娘にされてしまったのでしょうね。