レイが、育ての父に決意を語る――。
そんな場面を見終えて、富士子は思わず涙しています。
その様子に驚く優。そうそう、大人も泣くことを子供はこうして学んでゆくのです。
「なつとじいちゃんを思い出してね」
イッキュウさんはこうきました。
「泰樹さんに電話してみたら?」
しかし、なつには確信がありました。
「いい、大丈夫。なんか繋がれた気がした」
確かめなくても、繋がりあう――そんな二人です。
死神を追い払う大天使・とよと、困惑する泰樹
あのシーンに目を潤ませていた泰樹は、翌日、久しぶりに遠出をしました。
杖をついて歩く。
すれ違う男女は、いかにも当時の若者らしいファッションです。
向かう先は、雪月でした。雪次郎が出迎えます。
「泰樹さん、お一人ですか?」
ここが本当に優しい場面でして。彼は家族や同行者の保護があるかどうか、まず確認するのです。
それからすぐに支えて迎え入れます。
老人が出歩くなとダメ出しするとか。放置とか。小馬鹿にするとか。
そういうことはなく、保護の姿勢を打ち出しています。
草刈正雄さんだけではなくて、山田裕貴さんの演技も、泰樹の加齢を表現しているのです。
本作の優しさはこういうところにあります。
子供や老人、妊婦、病人、負傷者といった弱い立場の人を一切邪険にしません。
怪我をキャラ扱いするとか。老母虐待を笑いものにするとか。未成年女子に欲情するとか。ブスいじりとか。雇用モデルへのセクハラとか。いじめとか。
そういう虐待や差別こそ、最高にトレンディだと主張していた邪悪なドラマがありましたが、そういう卑劣さとは無縁です。
さて、その雪月ですが。
メニューは増えています。
しかも、当時のレトロで可愛らしいトッピングです。今のコーヒーチェーン店ではまず見かけないデザインですよね。
ドレンチェリー(サクランボの砂糖漬け))のトッピングもありました。
あれは現在ではまずいとされることも多く、時代遅れという印象すらあるもの。
『半分、青い。』では、萩尾家の和子がクッキーで使っておりましたっけ。
時代考証が細かいと感じたものですが、あの製菓考証は本作でも生きております。
半分、青い。4話あらすじ感想(4/5)おった、おったよ!糞ガキ・ブッチャーここで鈴愛が、和子の作るクッキーは「赤や緑の飾りが載っていて宝石みたい!」と言います。
雪之助の伝統に、雪次郎が新要素を付け加え、それを知将・妙子と軍師・夕見子が認めているのでしょう。
こういう場面から、本作に生きる人々が見えてきます。
あの総大将は元気かな。もう歳だべな。スピンオフで暴れることは確定しているけれども。
泰樹は、夕見子から亜矢美がいると聞いたと告げます。
が、その亜矢美は既に退職していて旅立ったとか。
そこはかぶき者だからさ。強い、やっぱり元気だな。でも戻ってきますよね。
雪次郎は亜矢美の不在を残念がりますが、目的はそうではありませんでした。
「あれじゃ、ばあさんいるか?」
それじゃ、それ、とよババアーッ!
雪次郎は承知し、あのばあさんを呼んできます。
「はぁ、とうとう私に会いたくなったのかい〜。私が恋しくなったってことは、お迎え近いのかい」
強い……。
今朝も強いぞ、とよババア!
「あんたは死神か」
そう突っ込まれると、ジェスチャーつき天使スマイルを浮かべ、天国に行けると言い切る。
それがとよだべさ。思えばずっと強かった。
泰樹がそっちにはお迎えが来ないのかと聞くと、これだ。
「何度か来たけど、追い払った」
開拓者一世は強い。しぶとい。くたばらない。
そんな武将めいたことを語り出すのでした。
「なしたのさ、私が好きなら好きって言えばいい❤︎」
しかもコレだよ。
こんなに、めんこいのか、めんこくねえのか、コメントできねえアピールは初めて見た。
「……口が裂けても言えん」
「したらなんなのさ?」
この総大将同士、明治の若い頃からそういう感じだったんでしょうね。
「お二人さん、なまらいい雰囲気だべした〜」
そんなふうにからかった周囲に、血の雨を降らせて……いやなんでもない。
泰樹は、とよになつのテレビ番組を見たか?と聞きます。
「ああ、漫画かい」
とよはこう来た。
野上もそうですが、この世代は漫画とアニメの区別云々、あいまいですからね。
本作は本当に細かくて、世代による知識の差、加齢による言葉遣い、所作の変化をきっちりと入れて来ています。
「あれのおかげで大儲け! なっちゃんには足向けて寝られないわ」
こう来ました。作品評価以前に、アピールを語ります。そこは商売人ですから。
それに特定企業だけでなく、地元がこうして潤うのであれば、いいんでないかい。
旅館や食堂、農協たんぽぽブランド製品、それに柴田牧場で開始予定アイスクリーム販売まで潤うなら、これぞ恩返しだべさ。
「昨日見たか?」
「昨日だったかい? ああ、見た」
とよは、泰樹もレイと父の別れに感極まったのか? と聞きます。
富士子も、イッキュウさんも、そう解釈しておりましたっけ。
けれども、泰樹が思い出したのはもっと大きなことでした。
開拓に励んでいた日――何度もああいう朝日を見た。
励まされた。
この土地を捨てようと思っても、朝日を見ると勇気が湧いて来た。
ここであきらめてなるものか!
「そういう朝日を、なつが見せてくれた……」
あの夜明けの感動を、動く絵で描く。なつが描いてくれた。
とよも同意します。苦労人の彼女も、夜明けに励まされたものです。
「なつはそういうものを作っとるんじゃ」
パフェを食べながらそう語り合い、開拓者一世は微笑みあうのでした。
その背景には、天陽の絵があります。
包装紙の原画の中には、なつをモデルとした少女が描かれているのです。
苦情を現場に伝えない
梅雨を迎え、『大草原の少女ソラ』は大詰めです。
妥協できず、スケジュールは遅れに遅れ、放送前日ギリギリに仕上がることが続いています。
マコプロの電話がなりました。
テレビ局の藤森です。
「マコちゃん、どうなってんだよ、演出呼べ! 納品前日で開き直ってんじゃねえのか!」
そう怒鳴り散らす相手に、マコは「出払っている」と断言します。居留守ですね。
マコはきっぱりと言い切ります。
視聴者の期待に応えるためには、手抜きできない。そのために、ギリギリなのだと。
そんな彼らを支えているのは、よいものを作るプライド。
「穴は開けないから、よろしくお願いします」
ここで石沢が、マコのことを気遣っています。
マコも、チームに気遣いをしています。
イッキュウさんには、伝えない。苦情を現場に伝えないことで、作品の質を守るのです。
「こうなったら、私も腹をくくるわよ」
そう言い切るマコは、とてもカッコいい。これぞ総大将です!
戦国武士の風格かもしれません。
戦国時代までは、自分が率いる将兵を救うかわりに、切腹する総大将がいました。
それが江戸時代になると、総大将を絶対に切腹させないために、家臣領民が犠牲になる道徳観念になってゆく。
ナゼこんな話を?
歴史サイトだから?
それもあるかもしれませんが、テレビ局にせよ、社会にせよ、そういう江戸時代と重なる何かを感じてしまうのです。
目上の人に気遣わせたらいけない。
自分の意見を封じて、隣にいる人が声をあげたら黙らせて、それで世の中の秩序を守る。
それでいいのでしょうか?
イッキュウさんを守るマコさんを見ていると、色々と考えさせられるのです。
本作チームには、そんな体制があると思います。
『半分、青い。』もそういう感じがあったし。
町田を助けてやろう
原画袋を抱え、雨の中、町田が走っています。
そしてドサッ!
「あー!」
水たまりの前で転倒してしまい、原画は水の中に落ち、なんと全滅!
使い物にならなくなってしまいます。
外注も、もう限界……。
マコプロでやり直すしかない。そんな絶望的な状況になっています。
茜は絶望しきって、もう無理だとこぼします。
チェックで手一杯なのに、一からこれを描くなんて、絶対できない。
なつが手伝うと言っても、なつもギリギリじゃないかと茜は反発します。
「二十四時間、寝ないでやっているようなものじゃない!」
「それでも、やるしかない!」
なつはそう言い切ります。
下山は、子供はお義母さんに見てもらってでもいいと理解を示します。
イッキュウさんが、動きを抑えると提案すると。これもなつが一蹴します。
「抑えない。みんなの腕もあがっている、力を合わせればいける! 待っている人たちがいるの。この作品を楽しみに待っている人が。その人たちを絶対に裏切らない!」
マコも腕まくりしつつ、手伝うと言い切ります。
下山も、腕が鈍っていると謙遜しつつ、助けると言います。
なんだかすごい顔で考えていた神っちは、ここでこう来ました。
「みんなで町田を助けてやろうぜ! 町田がいなけりゃ、成り立たないんだ!」
出たよ、神っち。こういうとき、最後にドヤ顔でカッコいい締めをするから、生意気で変人で偉そう……と思われるかもしれないけれど、悪い奴じゃないもんね。
彼は町田をかばっています。
町田のことは、同じ担当の石沢が叱り飛ばしただけで、マコプロでは彼を責め立ててはいません。
彼も疲れていて、雨がひどかった。
責める暇があるのであれば、次の対策を練るべき――そういう思いやりと合理性があります。
ここで神っちは、茜の肩を抱いて慰めています。
茜もパニックになったことを反省しているから、そのフォローですが……夫の下山が、流石にたしなめます。
神っちは、セクハラ体質でもなんでもなく、人との距離感の取り方がおかしくて変わっているのです。
そういう残念さと、才能が同居していますから。そこは認めつつ接しましょう。
モモッチ?
モモッチもそれ見て何も思ってないよね。
「ドライヤー、干すもの!」
結論が決まったら、マコプロは素早く動き出します。
この背景やセットも素晴らしい。
それぞれの机には、設定画だけではなく、ファンレターや家族の描いた絵が飾られています。
そのころ、富士子は『大草原の少女ソラ』の主題歌を歌いつつ、優を寝かしつけています。
「はい、いっちょあがり!」
そんな言葉も響く中、リカバリが続くマコプロ。なつは慌ただしく早朝帰宅しました。
「ただいまー!」
朝の支度のために、一時帰宅し、また会社に戻るのだと。そのことを聞き、富士子は驚いています。
優をそっと起こし、学校は楽しいのかと尋ねるなつ。
「うん! みんなソラ見てる! 大好きだって!」
「じゃあママも頑張らないと」
なつと優の母子のことを、なんだか文句たらたらの人がおりますが。
この優の笑顔を見ましょうよ。
自分の母が手掛けるアニメの話が、学校で盛り上がるなんて最高じゃないですか。
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