時は2010年、楡野鈴愛と萩尾律は東京におりました。
鈴愛は【おひとりさまメーカー】の経営者になったものの、それだけでは食べていけず、屋台を引くことに。
癌に罹った母の晴にはビッグな商品開発中!と大見得を切るものの、そんなアイデアはありません。
律は、勤務先の菱松電機でロボットエンジニアを続けられず、管理職になっています。
今となっては転職を視野に入れるほど、管理職に適性がないことを痛感し、ものづくりに生きることを夢見ています。
それを友人の正人も、背中を押してくれたのですが……鈴愛に、起業はやめろ、菱松を辞めるな、精神が弱いと指摘されてしまうのです。
【139話の視聴率は22.6%でした】
もくじ
思わず電車に飛び乗った
鈴愛は、実家に帰省しました。
手にしているのは、晴にあげるパジャマ。新宿のデパートで入院のために買って、宅配用住所を書いているとき、手渡ししたいと思ったのだそうです。
そこで、電車に飛び乗った――って会社勤めではできない行動ですね~。
晴は試着して、華やかな気持ちになるとニッコリ。
その様子を見た草太は「(オレたち)お邪魔みたいや」と宇太郎に告げます。
それでも見に行こうとする父を「やめとき」と制止するのでした。母娘水入らず、ですもんね。
晴は、入院先の名北病院は名古屋駅に近いものの、ビルばっかりだとこぼします。
「風も入らん」
贅沢は言えないけれど、そう漏らす晴。
ん? やっぱり風がキーワードかな?
晴は、病院に貼る絵を描いて欲しいと頼みます。
墓参りに行った時の丘、いい風が吹いたあの場所の絵です。絵を描く鈴愛を見て、娘の小さい頃を思い出す晴でした。
鈴愛の夢を律は応援してくれたでしょ
ここで鈴愛は、相談します。
「お母ちゃん、律がおらんようになる。怒らせてまった」
そう鈴愛が気遣う律は、部下が持ってきた予算削減案を、風も入らないオフィスで見ています。
鈴愛は、夢を見るのはいいと周囲はいうけれど、そうじゃないのだ。転ばぬ先の杖やった、と喧嘩の顛末を説明します。
晴は、漫画家を目指す鈴愛を止めたときの自分と同じや、と言いいました。
あのときも、律は止めませんでした。
そして鈴愛は、『一瞬に咲け』という作品を世に出せたのです。
鈴愛の人生は凸凹です。
あのとき漫画家に突っ走らなければよかった、結局辞めたから無意味だった、とは言わないのが本作なんですよね。
そういう失敗、あの壮絶な筆を折るまでの道を、無意味な扱いとしないのです。
鈴愛が漫画家を辞めたとき、意味がないという感想がありました。秋風塾も失敗だ、なんて意見です。
それって、朝ドラの呪縛では?
人生で、世の中で、挫折する人なんかいくらでもおります。
名作とされる『あまちゃん』だって、ヒロインはアイドルとして東京で成功したわけじゃありません。
『純と愛』の「まほうのくに」については言わないことにして、と。
「俺はお前のこと、ずっと怒っていられない」
律は、より子のために一万円くらいするバラの花束を頼んでおります。
再婚祝いです。結婚おめでとう、幸せに。
その気持ちというか、区切りというか。そんなところですかね。
そこへ鈴愛がやって来ました。
電話したけど、話し中だったのだと。花野が40分間テストを受けている間に、やって来たと言います。
鈴愛は、自分が無神経だった、口を慎む、と謝り出しました。
先週は、ハグからの急転直下、今週はきつい言葉からの和解かな。
この「口を慎む」という謝り方も、鈴愛話法なんだよな。
普通のいい子ちゃんじゃないというか。
ヒロインなら、
「素直になれなくて、傷つけちゃってごめんね」
あたりですよね。「口を慎む」って、時代劇話法なんだなぁ。この型にはまった可愛げがないところがたまらん!
「俺はお前のこと、ずっと怒っていられない」
律はそう返します。
生まれてからずっと横にいるのに、許せないとか、縁を切るとか、出来ないのだと。
そしてこう言うのです。
「鈴愛には、どうしたらいいかわからん」
夢見る同士、戦う者同士
これがねえ、より子に花束を贈る手配をした後ということもあって、律と相手の関係性を考えてしまうわけです。
より子とは、彼女がいくら挑発しても怒らなかったのに、鈴愛には怒る。
でも、許せないと思い続けることはできない。
一方でより子相手ならば、縁を切って、花束を贈って、再婚を祝福できるのです。
より子に対する離婚後の態度って、サバサバなんですよね。
津曲なんかと比べると際立ちます。
津曲は、和子の岐阜犬に離婚した妻のことを愚痴るとき、「冷たくなってしまった相手が、まだ自分にちょっと気があって欲しい」と思わせるようなニュアンスがありました。
でも、律はそういうことがないのです。
翼相手には名残惜しそうな感じがあるのに。
律とより子の離婚をあっさり描きすぎたという意見があるようですが、そういう描写こそこの二人の関係にあっているのでは?
描くことすらあんまりない、サラーっとした離婚だった、と。
手続きなんかはいろいろあっても、心理的に流れるようにそうなっちゃったのかな。
一方で、鈴愛はまるで体の一部みたいですよ。
頭が痛いからって、こんなもんいらないと投げ捨てることはできません。頭痛をなだめて、生きていく道を探るしかない。
もう、そういう仲なんだな、この二人は。
律はここで、より子に再婚祝いを贈ったと告げます。思わず後ずさる鈴愛。
「お前は襲わん」
律がそう言うと、鈴愛は謝ります。
襲うとかそういうことよりも、ここでハグくらいあっても良さそうなんだけどなぁ。
川べりでハグはできても自宅ではできんのかー!!
って、これですよ、これ。
より子とこうなったなら、恋愛感情再燃、ロマンを期待できそうですし、周囲もそういう目で見ているじゃないですか。
「律を応援したい。漫画家なるとき、応援してくれた」
それが、こうですよ。
ここでハグして、妻として恋人して支えたいとか、そういうベタなことを言わないのだ。
鈴愛は、律の看板にはなれない。
より子のように、律のステータスを引き上げ、家庭を守り、奥様同士の会合で人事情報を掴むような、そんな存在にはなれん。
あくまで隣に立って、法螺貝を吹くような。
そういう夢見る同士、戦う者同士、激励し合う仲なのだ。ブオオオオ~ッ!
リズムの律なら軽やかに跳ねる
しかし律も、鈴愛の言うことは一理あると言い出します。
「律」という名前は、律するということだ。
自分の溢れ出す感情や欲求を律してこその人生……。
あー、やっぱり!
伊藤清の時は、まだ若い律の恋愛関係への好奇心や欲求が伝わってきました。
夏虫駅での鈴愛へのプロポーズでもそうでした。
しかし、より子相手にはそれがない。
愛情よりも、社会が求める家庭を築くため、律しての結婚ではなかったのかな。
そこで鈴愛が言いいます。
「律は英語だとリズム、軽やかに跳ねる感じ」
こういう自分では絶対に思いつかない、それどころか正反対の言葉で励ます。
律本人がマイナス、手枷足枷だとすら思う名前を、鮮やかに反対にしてしまうのが鈴愛です。
これこそ、特別な仲なんじゃないでしょうか。
「会社辞めることを迷ってる。意気地なしや」
律はそう自嘲します。
もうマグマ大使じゃない、ダサくて情けない、元嫁に花束を贈るおっさんなのだと。
「ちがう。私のマグマ大使や。マグマ大使は律だけや。この先何があってもそう」
律の心にそう勇気を踏み込むのに、感極まってハグをしたりはしない。本作の良さがここにも顕れている。
川べりハグの時も、鈴愛は律に許可を取っておりましたね。
いくら感情が高まっても、相手の許可を得ないでは距離を縮めない、この二人。
お互い大事過ぎて、むしろそうしないとできないのでは?
しかも鈴愛、この名台詞のあとでこれです。
「あ、悪い、手元に笛ない」
「吹かなくていいから」
そういえば鈴愛が師匠の秋風羽織に激怒したのって、笛を投げたフリをした時でしたね。
自分の気持ちを見つめることが大事だ
晴は、鈴愛の絵を見ながら、再来週入院なのに落ち着かん、気が早いと思っております。
「心配せんでいい、俺がついとる」
精一杯カッコつける宇太郎ですが、晴は自分ではなくて鈴愛が心配だと言います。
もう40手前とはいえ、子供の心配をするのは親の仕事なのです。
本作の親子関係は健全というか、あたたかみがあって、いいなあ。
過剰な美化もなければ、暗黒化もなくて、地に足がついております。
律は鈴愛に、鈴愛と違ってしたいことがないと打ち明けます。
これだけは嫌だ、不遜に聞こえるかもしれないけれど、こんなことをするために生まれてきたんやない、そういう感情だけがあるのだと。
律らしいなー。
より子とのことをまた書いてしまいますけど、あそこまで離婚に対してサバサバしているのも、より子との結婚生活には違和感があったんでしょうねぇ。
鈴愛は、そういうことを大事にした方がいい、と助言します。
秋風羽織から、そう習ったのだと。
そういえば秋風塾の教えですね。自分の気持ちを見つめること。それが漫画のために大事だと習ったけれど、生きていくうえでも大事だと。
「応援する!」
「ありがと」
鈴愛に励まされ、律はまず事業計画書を埋めることだと言い切ります。
律の顔色変わり、そよ風流れ始める
会話は弾みますが、そろそろ鈴愛は花野のもとへ戻らねばなりません。
晴のことを聞かれて、病院から見える景色がないから絵を描いたと答えます。
※この広い野原いっぱい咲く花を♪
和子さんの好きな歌です。
二番は夜空いっぱい咲く花をみんなあげる、なんですって。ロマンチックだなぁと鈴愛も感心します。
だったら、野原の風を集めて送りたいと言い出す鈴愛。
「そよ風の扇風機、魔法の扇風機」
そう言ってから、「あ、ほんじゃね、謝れてよかった!」と出て行こうとします。
そのときでした。
律の顔色が変わります。
「鈴愛、それや!」
なにがどうした、何を思いついた?
「そよ風の扇風機、作るんや!」
ついに二人は、辿り着いたのでしょうか?
今日のマトメ「尊くて得体の知れない何か」
川べりハグから一転。
津曲ラーメン店で決裂してからスタートした今週は、鈴愛が晴と話して謝るところから、スタートを切りました。
今度は和子さんではなくて、晴さんが和解に導いたのですね。
それにしても、川べりではハグできても、屋内の自宅でハグしないのが、この二人らしいと思います。
男と女が同じ屋根の下にいたら云々とか、そういう価値観はこの二人にはないのです。
人の目も川べりよりはないわけだし、より子とも離婚が成立しています。
むしろここでハグさせたほうが、エエ話になりそうなのに。
しかも律は、鈴愛をどうしたらいいかわからんとまで言い切るし。
鈴愛は、ずっとマグマ大使だと言い切るし!
どう考えても愛の告白というか、お互いもう、完全にそういうことでしょ?
むしろ、なんでここでそういう方向に行かないんだよぉおお、と言いたい人も大勢いると思います。
周囲だって、「再婚したら?」ムードですし。
だが、それがいい。
私は二人が、ムードに任せてハグして、恋愛に発展しないところがイイと思いました。
「お前は襲わん」
と律は言うわけですが、鈴愛が襲いたくなるほど魅力的じゃないという意味よりは、そういう騙し討ちをするとは思うなよ、宣言にも聞こえました。
前述の通り、鈴愛だってハグの前に許可を取っていますしね。
そういえば律と清の関係を思い出すと、清はすみれ色ネイルといい、ロマンチックでついつい越えてしまうムードを出していた気がします。
より子はそこまで描かれませんけれども、ユーコとボクテはパン女と推察していました。
そんな調子で、ロマンを高めて一線を越えてしまう感覚が、鈴愛と律にはありません。
恋愛感情がないというよりも、ムードだけで突っ走る恋愛感情以上の、尊くて得体の知れない何かがもうあるんじゃないか、と思えてしまいます。
本作のこの関係について制作側がつぶやくと、ネタバレだとクレームを付ける動きもあるようですが。
ネタバレというよりも、この得体の知れない何かについて、何か言いたくなる。
そういう考察ですよね。
おまけ:本作でなくて申し訳ありませんが
現代ものの朝ドラはバッシングが増える傾向があるなあ、と痛感します。
本作はロボット考証はじめ、むしろ考証面では誤りが少ないんですよ。
ロボット考証は、今後お手本にしてくれと言いたくなるくらい、イイ。
私はぼけーっとしたい時、Boston Dymanicsで動画検索して見ているぐらいロボットの動きが好きなんですけど、本作はまさに眼福です。
※こういうのです
なんで、こんなことを書くのか?
というと、今日再放送の『マッサン』でエライチョンボを見てしまったからです。
ウイスキー系考証は、よくできているんですけどね。
それは、シベリア抑留者が、収容所まんまの分厚い外套を着用して、北海道まで自力で帰還したとしか思えないという場面です……。
何がおかしいかって、もういろいろ。
この外套、一応、収容所での体験をもとにして作成しているとは思いますけれども。
あのですね、シベリア抑留者の帰還は、日本とソ連が交渉して実現したものですよ。
なのにあれでは、まるで極北の大地シベリアから自力で脱走したような描き方ではないですか!
収容所から自力でソ連を横断して、北海道までたどり着く?
いやいやいや。
スティーブン・セガールでも無理だ!!
事前に家族へ連絡があり、引き揚げ船で舞鶴港あたりを経由して、あんな分厚い服装ではなく帰還するのが、まっとうな描き方です。
シベリア抑留をバカにしているんでは?とすら思いました。
そのシベリア帰りが、
「収容所では安酒で我慢した!」
というようなことを言うのも酷い話で……。実際は、酒どころか、黒パン一個しか与えられない収容者もいたのに。
このように、歴史蘊蓄を知らない視聴者を誤魔化すような酷い考証ミスは、朝ドラではよくある話です。
現代もののほうがバッシングを受けやすいのは、古い時代だと視聴者が調べて突っ込まないだけだからだと思います。
私が見る限り、朝ドラは時代もののほうが考証ミスがはるかに多く、かつ悪質です。
北海道なのにイノシシ肉が出てきて物議を醸しましたが、それよりこのシベリア抑留描写のほうがどうかなぁ、と。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
ハグとか、そんなことはどうでもいいくらい、深い絆なんだなと。
「もうそれ、告白と同じだし!」とみているこっちがドキドキです。
でも二人にはそれが普通というか・・・
安っぽい演出がないのがいいですよね。本当に「同士」「双子」な
感じで。ラブラブだけじゃない、こういうカップルの姿があっても
いいなと思いました。
あと、永野さん、わざと太られたのかな?30代後半の役どころから、
ちょっと顔がふっくらしていて。あえて太っておばさん感を
出してるのかなと思ってました。
我が子に「律」と名付けた父母は、自分の受験より死にかけの犬の救命を優先した我が子を、咎めることも、質することもなかったシーンが有りました。
そこに好感持つかどうかが分かれ道だったかな。
物語の作者って登場人物の名前決めるにもこんなに考えてるものなんだ。
サトルさんのモデルの方は、
本放送の途中で天寿をまっとうされ、捻じ曲げた話を見ずにすんだのですよね。
学界関係者は、かなりがっかりだったと聞きます。特に広島の方々は。でも、本作のアンチさん達みたいに、騒いだりせず、慎ましくされていました。
本作の技術考証も、きちんとプロの方に依頼されていて素晴らしいです。3Dプリンタ考証も田中先生に依頼されていました。
いつもありがとうございます。
細かいところですが…
>夜空いっぱい咲く花
→夜空いっぱい咲く星
です。
この歌は学校時代に習いました。
なんと4番まであり、最後に
「…だから私に手紙を書いて」
で〆、です。ロマンチックで壮大、しかも可愛い歌だなと思いました。
律はより子とは結局、自分の思うような
関係が作れなかったんだな、と思いました。それでも、どこか再婚されて未練めいた思いも残っているのではないでしょうか。だから、すごく頑張って花も贈るし、そんな自分のことを「ダサい」というんでしょうね。 未練があるのは息子に対してかもしれないけど。
新しい夫のいる家じゃそうそう会いにもいけない。
ただ、じゃ30前のあの頃に鈴愛と結婚してたらうまくいったのか、というと
それも違うかも。
律も「組織」を捨てて、ようやくいい関係になれそうな。
でも、お隣同士で笛で呼び会う関係だからいい。
一つ屋根のしたに暮らす二人…
それも想像、できませんし??
どうなるのかなあ