三津の決意
三津はかわはら工房を見て回ります。
感傷的で、決意を固めた目。そのうえで、川原夫妻に辞めると言い、こう語り出すのでした。
「嫌になったんですよね。穴窯なんて、こんなこと学びに来たわけじゃないのに。火の番なんてやってられません。時代に逆行してますよ。これからは食器は人間じゃなくて、機械が洗うようになるんです。食器洗い機って言って。いずれ一家に一台、当たり前になるだろうって。機械で洗える陶器を作らなきゃ、それなのに穴窯なんて。申し訳ありません。辞めさせていただきます! 荷物まとめてすぐ出て行きます!」
予告編の時点で、あの嫌な生意気女が何か言っている。そんな叩きもありましたけど。
むしろ三津がええ子すぎて……『泣いた赤鬼』やん!
三津は自分の思いに気づき、悪役になることで、相手の罪悪感を柔べて辞めてゆく。こんなええ子おったか!
※こんなん泣いてまうわ……
ここで、喜美子と八郎が憎たらしそうな目をすれば、ある意味計算通りではありますが。
釉薬の配合ノートを差し出すんだから、ある意味どうしようもない。
「喜美子の頭に入ってるから、持っていき」
「いえ、そんな大事なもの、受け取れません!」
そこは三津は悪党を演じきれないから、こう言ってしまう。受け取って破り捨てたら、戦国武将になれるけどな。そういうのは大河でええから。
喜美子は語りかけます。
「続けるやろ? ここは辞めても、陶芸は辞めへんのやろ。大したこと教えてあげられへんかった。それ参考にして作ってや、食器洗い機で洗える作品を」
三津の心はもう、決壊してしまう。
「私、ここ来る前に、何軒も、よその工房を回ってきました。弟子にしてくださいって言っても、断られて。どこも大抵言うんです。女はなあ。陶芸は男やないとつとまらん、って。私そんなふうに言われても、今まで一度も、思ったことないんだけど。初めて、思いました。男だったらよかった……」
つらい……。
恋をしたから。恋心ゆえに、こんな立派な師匠のもとにはいられないのです。
でも、天使のことは騙せない。
縁側で待っていた百合子は、三津に笑顔でマフラーを巻きつけるのです。
ふふっ。そう笑う百合子は天使や! 百合子には、人の心を見抜く、そういう母譲りの優しさがあります。まぁ、信作もこの天使が相手ならええんちゃうか。
涙をグッとこらえ、三津が「かわはら工房」を去ってゆく。
焼きが甘い、熱が足りない
このあと、カメラマンがシャッターを切っています。柴田が新聞記者とカメラマンを連れて、穴窯の取材に来たのです。
自分で調べたとハッキリ言い切る喜美子は、力強さが満ち満ちています。
カメラマンは、夫婦揃っての写真と、一人だけの写真を撮影する。
マスコットガール・ミッコー。
火祭りの喜美子と八郎。
そして結婚の写真。
写真は本作で重要な役割を果たしています。
このあと、いよいよ穴窯から作品を取り出す日が来ました。
柴田と佐久間も、見に来ております。
「気ぃつけや」
そう言われ、喜美子は穴窯に入っていく。
作品は焼きが甘く、望んでいた色は出ていませんでした。初めての窯炊きは失敗――。
試行錯誤は続くのです。
地獄の策士、NHK大阪がまたやらかす
『スカーレット』は地獄や!
そう主張してきました。『麒麟がくる』も地獄みが割と溢れている。今年のNHKは地獄で受信料を燃やす展開をある意味かますとは思う。
けれども、地獄には地獄の意義があるので、このまま燃やしてください。この調子や!
喜美子が薪を細かく割るように、作り手も視聴者の反応をぶったぎりました。
三津やで!
三津は憎まれ役になるとは思っておりました。演じる黒島結菜さんもそう認識している。案の定、疫病神だのなんだのと、叩きは出てきた。
それが、三津は自己犠牲の涙を流し、自ら身をひく、めっちゃええ子でした。
女というだけで門前払いをされる。
彼女だって、つらい目にあってきた。
それなのに、喜美子を守るために去ってゆく。つらすぎる、三津は悪くないんだ!
見ようによっては八郎の魔性があかんのやで。八郎は男だからそうならんけど、性別逆転したら八郎があかん。それが結論になりかねない。
恋心は素晴らしいという。
けれども、それは見方次第。この三角関係は、全員それぞれが悪いとも思える。
喜美子は、結婚当初あった八郎へと歩み寄る気持ちを、焼き尽くしていく流れがハッキリと出てきた。
八郎は、己の弱さを三津に寄りかかることで解消しようとした点はある。それに、自分の不満を小出しにできない。ジョーや鮫島みたいにそれができれば、爆発はしないのに。
三津は、そんなぐらついた師匠夫妻に入り込んでしまった。
しかし、それに気づき身を引いた。
一番善良かもしれない。
三津は師匠と自分の恋心を天秤にかけて、喜美子を選びました。
悪女だの、疫病神だの、さんざん言われてきたけれども。三津は自分の恋心を叩き割る。そんなかわいそうな存在になって消えてゆこうとしてる。
けれども、そうなると視聴者はキッツイ。振り上げた拳をおろせないのです。
むしろ三津が叩けるだけの悪女ならば。『半分、青い。』の鈴愛や『なつぞら』のなつならば!(あ、私は好きですよ)
あんなおかしくて、甘ったれていて、生意気で、ともかくムカつく。そう思える女ならば、ギタギタにして、一日中アンチ投稿してスッキリできるのに、ハッシュタグで盛り上がれるのに!
なんでや!
今のNHK大阪は策士にもほどがあるので、そこでフェイントをぶちかましました。
怖すぎるわ、こんなん!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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