北海道訛りの難しさよ
しかし最大の問題は、島貫ではありませんでした。
チンピラその2役の雪次郎です。
【あんた】のアクセントが訛っていておかしい。
「そんな訛りのある大富豪のお付きがいるか!」
と指摘されておりましたが、もしかしたら視聴者の皆さんの中にも「そんなに訛ってないよね?」と戸惑われた方がいたかもしれません。
これが北海道弁の難しさですね。
全く別の言葉やイントネーションが使われているというより、ちょっとした抑揚の差や動詞の活用形が違ったりしていて、標準語との違いが本人でもなかなか気づけないのです。
イントネーションについて文字では説明できませんが、言葉遣いで言いますと「やめろ!」という命令形が「やめれ!」になったり、「よかったね」が「いかったね」だったり、本当にちょっとしたことなんです。
なつぞら1話 感想あらすじ視聴率(4/1)タンポポ食べるヒロインに期待♪あるいはカーリングで有名になった
「そだねー」
もありますね。
こうした数々の言葉が、指摘された道産子にとっては「標準語ではなかったのか……」と、思ったとしても全くおかしくはありません。
これも歴史と関係がありまして、各地から入植者が集まってきたことが背景にあります。
わかりやすくするように訛りを封印したようでいて、されていない。
独特のミックス言葉になってしまったのです。
一方で。
『半分、青い。』で秋風先生を演じたトヨエツこと豊川悦司さんは、がっつりディープな河内弁を使いこなせます。
※やらしいやろ〜!
こういう濃い方言の方が、いざというときはスイッチをカチリと入れ替え易いかもしれません。
雪次郎のように当人でわかってない場合は、それはきついことでしょう。
実際、蘭子から指摘されても、ガチガチの雪次郎はどうしてもうまくいきません。
この、訛っているようで訛っていない、訛っていないようで訛っているという演技。
山田裕貴さんは大変だったと思いますよ。
そして8回目の録り直しのさい、ついに大先生は禁じ手を使います。
雪次郎の口を抑え、一人二役をこなしてしまうのです。
山寺宏一さんの超絶技巧ありきの、すさまじい展開でした。
※やっぱりすごいぞ
しかし、これでは雪次郎の心が……。
あなたってずるいわ
なつは茜と共に、マコを喫茶店に呼び出しておりました。
話題は咲太郎の声優会社です。
茜は吹き替えテレビドラマをよく見ているそうで、祖母はこう言っているほどだとか。
「この外人さん、日本語うまいねえ」
昭和あるあるネタかもしれません。
彼女の家はテレビを早めに買っていると、説明が入ります。
当時はテレビ導入もまちまちの時代です。こういう細かいセリフで、そこを示す本作は丁寧な仕事をしています。
年代ジャンプしたら、どの家でも主婦がテレビ前でせんべいをバリバリしていた前作****が、いかにそのあたりを雑に扱っていたのかわかるというものでしょう。
マコは、今回のアニメにその会社から使えということか? と、単刀直入に言います。
無駄は嫌いなんですね。
「使えってことではなく、兄に相談できるってことです」
なつはそう言ってから、それだけではないと言います。
そして茜に目配せをするのでした。
「マコさんは、乗り気じゃないんですか? 面白くないと思っているんですか?」
無表情のまま、マコは答えます。
「面白くないと言ったらどうする? やめるの?」
思いつめた表情のなつは、こう返します。
「マコさんが納得しないとダメです。みんな納得しないと! 日本初の女性アニメーターは、マコさんだから。納得いくものにしないと! それを作りたい!」
マコは苦笑します。
「あなたってずるいわ。何でも一途に、情熱を貫こうとする。周りが何も言えなくなる」
茜も小さく頷きます。
「それはわかる……」
なつが困惑していると、しかし、マコはそれこそが大事だと続けます。茜もそうだと頷く。
作品のことだけ考えること。周りを考えられないみたい。
なつには結局、それしかできないのだと。
「若さってそういうもの……私もそうしたいけど」
マコがしみじみとそう言います。茜はフォローします。
「マコさんも若いですよ!」
「若くないとは言っていない」
フォロー失敗というか、概念やニュアンスの違いでしょうか。
実年齢や肉体年齢ではなくて、精神年齢なのでしょう。ある意味なつは、精神が年老いないのかもしれない。
家族の絵を動かしていたころのまま、生きてゆくのかもしれない。
「やるしかない、がんばろう!」
マコはそう言い切ります。
ジュースの氷はすっかり溶けてしまいそうです。これを飲んだら帰ろうと茜に言われて、なつはジュースを一気に飲み始めます。
「そんなに慌てなくても大丈夫」
茜がそう言うと、なつは無邪気にこう言うのです。
「喉乾いてて……緊張したもんね」
あまりに天衣無縫であるなつですが、彼女なりに緊張していたとが、ここでわかるのです。
『拳銃無宿』かな?
今日はもう、声優が二人も出ていて豪華極まりない、そんな吹き替え場面でした!
さて、この西部劇の元ネタは『拳銃無宿』あたりですかね。
原題は”Wanted Dead or Alive”で、実はカスリもしないのです。
このセンスでいくと、『ゲーム・オブ・スローンズ』はさしずめ『七王国 玉座盗り物語』あたりになりましょうか。
これも、当時らしいセンスなのです。
今もかすらない邦題があるものですが、それよりも中身はあっているから悪くはありません。
※別に未来を花束にしていない『未来を花束にして』とか
この「無宿」がポイントです。
西部劇のガンマンをわかりやすくするとそうなるのだと。
現代だとそもそも「無宿」って何? と、なりかねませんよね。
「無宿」とは、江戸時代に人別帳から名前を取り除かれた人のことです。
一言でいえばアウトローですね。
一例として、幕末の岡田以蔵は最終的に「無宿鉄蔵」という扱いにされています。
藩士としての籍を剥奪されていたということです。
「拳銃を持った無宿者(=アウトロー)だ!」
そういうことですね。
そういう江戸時代の制度が理解されていたというのは、小説やお芝居を人々が見ていたということでもあります。
****では、子供が武士や足軽を理解しておらず、そのことにさんざんケチをつけた記憶があります。
当時の子供は、侍が活躍するエンタメに普段から接していて、知らないガキンチョなんておりませんでした。なつの小学生時代の映画上映会告知でも、「チャンバラー!」連呼しているガキンチョがいましたっけ。
ずるいヒロイン、黒い感情
今日は声優だけでもお腹いっぱいではありますが、喫茶店の場面も興味深いものがありましたね。
目が暗く、追い詰められていたようなマコ。
その彼女をなつがある意味、ずるい手で救ったといえます。
「ずるい」
と呼ばれた人物は、彼女だけでもありません。
山田家では、兄・陽平が弟の天陽をそう評していました。
ここで、陽平は本心を出します。
「俺から見たらずるいのはあいつだ」
いくら東京で学ぼうと、あいつのような絵は描けない。そう本音を漏らすのです。
天衣無縫な才能の持ち主を見ていて、そうはできない周囲の胸に、ふと「ずるい」という感情が湧いてきてしまう……。
そんな関係が、よく描かれていると思います。
本作のすごいところって、『半分、青い。』もそうだったんですけれども、こういう才能の持ち主のいや〜なめんどくささ、掻き立てるマイナス感情が出ているところだと思いまして。
すごいけれども、認める前に心がざわつく。
ひっかきまわされる。
そういうところがあるのです。
夕見子は狙ってかき回すのですが、なつはそうでもない。
だからこそ厄介。
そういうモヤモヤした感情って、どす黒いものでもあります。
『半分、青い。』の五郎さんこと高木渉さんでも思い出したんですけれども、あの木田原の娘であるナオちゃんは、鈴愛に嫉妬してしまっていたんですね。
半分、青い。33話あらすじ感想(5/9)東京最初の「やってまった!」陽平にせよ、マコにせよ、茜にせよ、ナオちゃんにせよ。
相手から引き出されたどす黒い感情に戸惑っている。
モモッチのように、素直に認められるタイプもおりますが、実はそう多くはありません。
「あんたってずるい!」
ということは、ある意味負けを認めた宣言でもありますよね。
私自分でも、このあたりの分析は、皮肉にも『半分、青い。』レビューでがっつりと悟ることができました。
あの作品の異常なまでのアンチ。
あれは何なのか?
嫌でも分析した結果、つかめてきました。
天衣無縫、天真爛漫、無邪気でずるい。
そういう稀有な才能の持ち主を見ると、なんだか無性に叩きたくなる。物語を作り出した脚本家先生まで対象にして。
認めたくありませんし、無意識下でもあるでしょう。
そこを分析することは、不愉快極まりないこととは思います。
しかし、挑戦してみて損はありません。その苦しみに向き合えば、そこから抜け出すこともまた可能になるからです。
難あり人物盛りだくさん、だがそれがいい
そしてこれまた、別の朝ドラレビューでハッと気づいたのですが。
『半分、青い。』と『なつぞら』には、制作側が意識的にある特徴のある人物を出していると感じます。
・エキセントリック、いきなり怒り出す傾向がみられる
→秋風、鈴愛、なつ、天陽(倉田にガチギレていましたっけ)
・空気が読めない
→秋風(トークショーの塩対応!)、坂場
・言うことがなかなかきつい
→律、菱本、夕見子、マコ
・こだわりが強い
→秋風(食べ物の銘柄指定、西日本では和服)、なつ(同じ服を着ない!)
・感覚を通した創造性
→秋風(メトロノームにあわせて漫画を描く)、鈴愛(自然風を扇風機にするマザー)、なつ(馬の絵とともに蹄の音が響く)
露骨に変人で空気が読めない人物は、最近の作品ではある意味トレンド。
例えば『SHERLOCK』のシャーロックは、酔わないようにフラスコで測りながらビールを飲んでおりました。
「そんなもんで飲むか、普通?」
誰もがそう突っ込みたくなりますが、そもそも彼は「普通」という概念が理解の範囲外なのです。
テレビを通して見ているぶんには楽しい。
けれど、実際にそばにいたらイジメたくなるかもしれない。飲み会で隣にいたら、ムカついてくるかもしれない。
そういう言動を明確に出していると思わせます。
だからこそ『半分、青い。』には強烈なアンチがいたのではないでしょうか。
少数の例外を除き、朝ドラのヒロインや登場人物の多くは、角を折られ、爪と牙を抜かれてきたのでしょう。
それは社会の大半、大多数、マジョリティの安寧を狙った配慮です。
少数派、感覚が鋭すぎて社会で除け者にされがちな、そんなマイノリティにとって、自分たちがいてもいいと思える。
本作は、そういう作品を目指しているんじゃないかと感じます。
これは、いわゆるオタクが好きな、漫画やアニメがテーマだからとかいう、そんな単純なことではありません。
漫画のファンだろうが、アニメ好きだろうが、少数派は肩身が狭くなることはあります。
作品のおかしな箇所に疑念を持ったり、ハッシュタグ祭りに参加できない。
なんでもかんでも萌えにする傾向に首をひねる。
オタク界隈も、実は少数派に優しいわけじゃありません。
空気が読めない少数派は、どこにいても苦しいもの。
そういう人にも、本作は届くように作られていると思えるのです。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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>その上で、マコとなつが動画を描くのだということで、適材適所だとは思います。
マコとなつは原画では?
こういう間違いは、読んでてわからなくはないけど、ちよっとズッコケます。
下四行をお書きにならねば
よろしいのよ。
>蘭子はその大先生と『白蛇伝説』で共演しましたし
『白蛇姫』の間違いではないでしょうか?
あっ!こんなコメントをすると、またナルビク部隊さんとか或る点不意寄るどさんとかガブレンツ奮戦さんとかから「揚げ足取り男」って凹られるのかな?