まだ十勝の動乱は終わらない――。
雪次郎は、菓子を差し出しながらこう言いだしました。
「これが新しい菓子、新しい魂!」
どんな魂か、見せていただこうッ!
その菓子の名は? 味は?
菓子は、名物のバターせんべいに何かを挟んだものでした。
「何だと思う?」
「もったいぶらずに早く言えッ!」
軍師よ……夕見子よ、ある意味、期待通りの反応で納得感があります。
策の要点を言わねば苛立つ、そういう奴なのよ。
「バターと餡子。題して何だと思う?」
「そこまでもったいぶんの?」
なつが苦笑しつつそう言うわけですが。
軍師の容赦ない顔と口調と比べましょう。そこが違うんだよなぁ。全体的に軍師はきついのじゃ。
「オバタアンサンド!」
すごくシンプルな名前だ。
【小畑(家)+餡子+サン(ド)】
雪次郎はウキウキワクワクしています。
小畑家独自の餡子を作り出したと喜んでいるのです。
でも、ここでそれが理解できているのは雪之助だけかな?
とよも妙子も、ハラハラドキドキしているようです。
妙子は、鋭く突っ込みます。
「おばさんに聞こえる……」
こういう具体的なダメ出しこそ、知将よのう。
そんな中、皆でその魂を食べ始める。
本当に細かいことなんですが、倉田先生は促されてから、
「よし、わかった!」
と言って、一番最後に食べ始めているんですよね。
ちょっとした仕草にも、教師として、教え子を見届ける――そんな覚悟が感じられる。
この世界の水鏡先生だな〜。
素晴らしいな〜!
そして、夕見子がこう言うわけですよ。
「そったらことで呼ばなくても」
うん、そこは夕見子だからね。
魂の味はうまい!
「うまいっ!」
新菓子を口にした皆はそう感想を言います。
とよはこう促すわけです。
「正直に言っていいからね」
諫言あってこそ。そう理解する、あっぱれ総大将!
ふと思い出したんですが、前作****教団では、社内試食でおいしいと褒めない社員を責めたてて脅していましたよね。それとは真逆なんだ。
ここで雪次郎は工夫を説明します。
ブッセが一番相性がいい。
ビスケットだと、クリームの水分でちょっとやわらかくなるからいいって。
「うん、大したもんだわ。結局あんたは、菓子屋が合ってたんだね」
夕見子が喜んでいます。
こやつは軍師だから、ダメだったらダメだしをするはず。
それがここまで嬉しそうだということは、本当に好感触ですね。
「やったぁ!」
倉田もこう太鼓判を押します。
「奥原、天陽に次ぐ魂だな……」
水鏡先生が太鼓判を押すんであれば、これはもう合格ってことでしょう。倉田先生のセリフは、いつも端的で突き刺さって、すごいなぁ。
そして最後に、雪之助、妙子、とよが食べ始めました。
「おいしいっ、ほんとうにおいしいっ!」
そう皆が感激する中、総大将の風格を漂わせつつ、とよはこう言います。
「餡子でバタくさくない(※とよと同世代は乳製品の臭いが苦手な人が多い)。せんべいも柔らかくなっていて、年寄りもいける!」
とよの、この説明。ものすごく具体性があると思いませんか?
高畑淳子さんの演技で、コミカルになってはいる。けれども、わかりやすくて視聴者も想像できます。
雪次郎の工夫と、とよの形容で、どういう菓子か想像できるんだな。
変顔と踊りで、
「おいしぃぃぃ〜〜〜〜!」
と、食べた瞬間に絶叫していた、そんな****教団の脚本や演出からは、そういう特性がわからなかった。
しかし雪之助だけが、厳しい顔でこう言います。
「こし餡は試したのか?」
試したと答える雪次郎。その上で、つぶ餡とバタークリームが適していること、焼き塩を加えることが最善だと確信したのだと。
適当な思いつきじゃない。
まず、何がいいのかアイデアを浮かべる。
その条件を満たした材料を集める。
試す。
そして皆の試食。
いい起承転結ではありませんか。
ビジネスドラマとして見るなら、いわゆるPDCAってやつですかね。ここから更に、細かい調整などを繰り返していくのでしょう。
焼き塩で思い出したのが『半分、青い。』での塩ラーメンなんですが。
バブリーな業界人だった津曲は、フランスブルターニュ産のゲランド塩ラーメンを売り物にしたわけです。
これもいろいろ、脚本家さんに変なツッコミがありましたが、あれは津曲の背景説明をコンパクトにしている。
調理経験はろくにない。
けれども、広告業界にいた津曲は、ブランドの効果を理解していた。
だからこそ、あの塩を売り物にした。味じゃない、宣伝&イメージ効果を重視です。
そこをふまえると、雪次郎の特性も理解できます。
というか、雪次郎だけの話ではなく、本作の作劇手法と通じていません?
テーマを決めて、適材適所で役者を選び、若手はオーディションで集めた。
この製菓シナリオだって、きっちり調べないとできないでしょう。
面倒なことを、よくやるなぁ!
そういうドラマだべな。
それを確認して、雪之助は嬉しそうに言うのです。
「初めてお前に先越されたわ。雪月で売っていい」
驚く雪次郎に、売らなければ先を越されると雪之助は告げます。
これも開拓だべな。
「これで一人前だ!」
「それはまだ早い」
浮かれる雪次郎をたしなめる雪之助。
いい父子がここにも!
そして、これはまだキッカケに過ぎなかったのです。
バターと餡子
「オバタアンサンド! これには夕見子ちゃんが作る十勝のバターを使いたい」
「そったらこと言わなくてもわかる」
雪次郎がそう張り切って言っても、夕見子はしれっとそういうばかり。
照れとか期待するなよ……軍師だぞ?
「夕見子ちゃんの十勝バターと、十勝の菓子屋がくっつくということ! 結ばれると言っても過言ではないッ!」
がんばれ、雪次郎がんばれ!
難攻不落の軍師なんだから仕方ない、「三顧の礼」の気合でがんばれ!
「過言すぎて意味わかんない」
「夕見子ちゃん、俺と、結婚してください! 俺と、結婚してくださいッ!」
出たぞ!
でたでた、でたぞっ!
「雪次郎くんっ?」
「お前何を言い出すんだ?」
「血迷ったかい?」
「俺は、ずっとこの日を待っていた。夕見子ちゃんに、ずっとそう言う日を! それで集めた!」
「なんで集める?」
雪次郎の行動に、周囲は混乱を隠せません。
まぁ、確かにそうではあるんだわ。
「みんなの前でガツンと言いたいんだよな!」
十勝の男はそうだ!
と番長だけが理解を示します。
みんなの前でフラれたら、諦められるってさ。
ここでよっちゃんが、
「私のことは諦められなかったくせに❤︎」
と突っ込むのがなまらめんこいべや。
なまら幸せそうだな。
なつぞら42話 感想あらすじ視聴率(5/18)それぞれのキャンバス「良子! 卒業したら言うべと思ってたんだ! 居村良子ーーーー俺の嫁になってくれーーーーー!」
そんな番長フォローのあと、雪次郎はこう語ります。
「夕見子ちゃんは夕見子ちゃんらしく、はっきり答えてくれ!」
うん、まぁ、うん。
こやつは高山に【抹殺パンチ】を食らわせてから、援軍の泰樹に抱きついていた軍師よ……一切の容赦が期待できない。
「知らんわ、そんなこと」
腕組みして、プイッと立ち上がる。そういうところだよぉ!
しかし、なつがそんな夕見子を止めます。
結婚に必要なのは、資格ではなく覚悟
「こうなったら逃げるわけにはいかないしょ!」
「……私でいいの? おじさん、おばさん、とよばあさん。雪次郎と結婚する資格、あるわけないかも……」
ここで、とよが最高の援軍をします。
「そったらことない! 駆け落ちのことなら、むしろ見直した!」
すごいぞ、すごいな、とよババア! あの高山との一件で、むしろあっぱれだと思っていたらしい。これぞ道産子総大将だっぺな。
駆け落ちとなれば、劇中明言はされませんけれども、貞操問題で引っかかることはあるもの。
そこはどうでもいい。ふっとばす。その覚悟がいい。そう評価している。
これはずっと気になっていたんですけど、柴田家の人々もそのあたりは触れていないんですよね。
世間様の目について、何も言っていません。もう、ありのままの夕見子だから。
※続きは次ページへ
久しぶりに訪問します。
連休のお陰でレビューを一気読み。
シーンを思い起こしながら読むのも良いものです。
夕見子の結婚、その経緯も私は納得です。
賢くて世間の常識を重々承知しているからこそ、それを超えて行かんとする夕見子。
祖父譲りの照れ屋でもある。冬の通学シーンなど、雪次郎を昔から意識はしていて愛らしい。
蘭子にも夕見子にも好きな人には面と向かって告げてきた雪次郎。
子供時代は力不足が否めなかった彼も、自分の道を定めて大きくなった。魂の菓子を認められて夕見子と向かい合える存在になった。
「私でいいの?」
北大を出ても、工場設立で活躍しても、世間の評価はどんなものか理解している。自ら選んだはずの高山にも突きつけられた。
その苦い経験があっても自分は曲げない。
だから、夕見子は聞く。
それがいいと雪次郎が言う。
夕見子らしい。雪次郎らしい。
心が動いたら、大切なものを選び取れる。
結婚したとしても互いの道を行ける。
時代や理念を超えて、よい伴侶に恵まれたと嬉しくなりました。
ショックでした。どうして夕見子に「私でいいの?」なんて自己肯定感どん底の台詞を言わせてしまったのか。よりによって夕見子に。
駆け落ち事件で変わってしまったのかもしれませんが、自信満々で口の減らない才女だった夕見子が小さくまとまっちゃったとこが残念でなりません。
それにこういう展開になるなら駆け落ちと蘭子のエピソードは必要だったんでしょうか。互いに別の恋愛を経験・失敗した上で結ばれるというのはいいと思いますが、夕見子も雪次郎も失恋してからの心の動きが全く描かれていないので唐突にしか感じられません。脳内補完の域を超えて二次創作レベルの想像をしないと話が繋がりません。
それにしても返す返す夕見子のキャラ変が残念です。特に必要ないから一生結婚しないか、「結婚するなら雪次郎しかいない」なら自分からプロポーズするか、それくらいのことはして欲しかった。
arataさんのを読んで、、。
私もそう思います。
半分、青い の時のような、奥深い癒されるようなレビューを もう一度読みたいです。
前作をもう思い出したくないし、なつぞら という世界観に どっぷり浸りたいです。
もう、過去は流して、今をみたい。
いい文書だ。
俺のはいつも通り消していいけど、下の文章は消すとあんたの良心が問われるよ。
ここが多分、あんたの分岐点だ。
よく考えて、行動するべきだと思うよ。
丁寧に書いてくれたら多少更新遅くても、誰も怒らないからさ。
毎日楽しみに拝見しています。
ところで、時々他の方からもご指摘はありますが
「発した台詞人の間違い」などが、このところひどいように思います。
人名の間違いなのか?と思っても、さすがにそことそこは入れ替えないだろうと…
レビュアーさんの体調を心配してしまいます…
あと、前作は私も好きではありません(初期で試聴をやめました)が、
此の期に及んでまだ比較対象として引用するのは、さすがにどうかな..と。
逆に言えば、前作知らない人(自分も初期で脱落しました)にとっては、全く意味のない悪口タイムでしかないので。
このサイト、ずっと楽しみにしていましたが、上掲な余計なことを考えることが多くなってきました。
大河ドラマのレビューにいたっては、阿鼻叫喚のコメント群をうけてからの後出し記事にしかもはや見えず。
よくある掲示板の書き込みに成り下がっています。
せっかく、半分青い、のときには、脚本家さんのインタビューまでしていらしゃった方なのに。
どうか、心を強く持って、外野の誹謗中傷にも動じず、ただただ自分の心で思ったことだけを文章にして公開していただければ幸いです。
それが楽しみでしたので、批判(それほどの価値もないものですが)にもめげず
心に思ったことだけを綴っていただければと思います。