わろてんか79話あらすじ感想(1/6)狂騒の1920年代がやって来てるのに……

モダンなう大正の商都・大阪。
その大阪を制覇した興行元・北村笑店では、安来節の女踊りを目玉の演目として売り出すことにしました。

活動写真女優・リリコの指導のもと、乙女組は訓練に励むのですが、さて本番へ向けてうまくいくでしょうか。

 

都合の悪いことは脇役に言わせる作戦発動してもた

いよいよ乙女組が高座に立つ直前。4人組はこう言い出します。
「着物の裾をからげます。腰巻きもあげます」

彼女らの申し出にたいして、そんなん恥ずかしくないんか、とびっくりするてん。
しかし4人組は田んぼではこうだから、
「いやらしいなんて思わないし、恥ずかしくない」
と言い張るのでした。

リリコは、ここで面白い、あんたら若い娘にしかできへん、と太鼓判を押します。てんもニッコリ笑顔で、藤吉が止めても押し通すと言うと、主題歌が流れ出すわけですが……。

出ました。
出ちゃいました、本作の責任転嫁。
本来は主人公(吉本せい)の言動でも、賛否両論ありそうなものは脇役がやったことにするのがこれまでの特徴です。

・客席をわざと暑くして、客の回転をあげる(わろてんか43話あらすじ感想
・物販で塩辛いものを売って、飲み物の売り上げを伸ばす(わろてんか47話あらすじ感想

安来節のチラリズムだって、本来はそれそのものが狙い。
このお色気路線に目を付けて、吉本せいがスカウトしてきたのです。

しかし、主人公が若い娘のお色気を売り込もうなんて描きたくないから、自発的に娘たちが言い出したことにしたのでしょう。
ほんまセコいんですわ。

 

見えない……女興行師に全然見えない……

そんなワケで迎えた初高座当日、てんは家族一緒で朝ご飯を取ることにします。

安来に帰って来たようだと喜ぶ4人。
リラックスさせたいんでしょうけど、画面から緊張感を奪ってしまってるような……。

てんの功績というか、アピールって、こういう家族で朝ご飯みたいなのばかりですよね。どじょう鍋を振る舞うとか。
そういうのは本来、寮母なり、お雇いの“おさんどん”(女中)なりの仕事です。

てんは女興行師ですよ。
社長夫人ですよ。
もっとドでかく、責任感のある仕事に励む姿を何故描かない?

こういう裏方で美味しいご飯を作ってみんなニッコリする路線をやりたいなら、吉本せいなんて持ち出さないで、2013年の『ごちそうさん』みたいな作品をずっと作り続ければいいじゃないですか。

これではモデルの吉本せいに対して、あまりに失礼ではないでしょうか?
勝手ながら、見ている私がハラハラしてしまうのです。ほんと余計なお世話で申し訳ありませんけど。

この朝食の席で、元売れない芸人の藤吉も「掌に人と書いて飲み込む」という、とんでもなくベタなアドバイスをします。
んなことやったって、緊張がほぐれるワケないのは、今や誰も知っていますが、当時は通じたという設定ですかね。

 

緊張感をほぐす方法 こんなのが聞きたい

余計なお世話ついでに、本番前に緊張をほぐす方法を一つご紹介。これはサックス教室の先生をしている音大出身の知人に聞いたのですが……。

音楽の発表会などで人が緊張するのは、アドレナリンが出て普通ではいられなくなるからだそうです。
まぁ、当たり前の話で、それがいわゆる緊張感ですね。

人はステージに立つときに、緊張感を無理やり治めようとする方法を探すから、そんなものは結局見つからず、余計にドタバタしてしまう。

んじゃ、どうするか。
一番いいのは、リハーサルでも観客席に他のプレイヤーさんたちを座らせ、とにかく本番さながらのようにその段階で緊張させまくるのだそうです。
緊張感を抑えようと努力するのではなく、事前に一度めちゃめちゃ緊張させる。

すると「一度、緊張してアドレナリンががっつり出て、いざ本番ではそれよりは落ち着いていられる」のだそうです。

要は、慣れろ! というワケですね(と思って検索してみたら、なんだか似たようなことを解説されているホルン演奏者さんのブログがありました!)。

音楽とお笑い、踊りはもちろん違います。

が、ステージに立つという意味では同じ。こういったリアルに使えそうな(実際に使えなくても)生々しい情報が面白いじゃないですか。仮にも脚本家という職業を選ぶんだったら、それぐらいの引き出しは持っておくべき(あるいは探すべき)ではないでしょうか。

少なくとも、このシーンを雑誌や書籍の原稿にする場合、「掌に人を書いて飲み込む」程度のアイデアでは、絶対にボツです。あまりにツマラなくて、何か私にわからないボケでも含まれているのか?と考え込んでしまいました。

藤吉だって、過去に芸人だった経験があり、「掌に人を書いて飲む」方法が使えないことぐらい、重々承知でしょう? もしもいいアイデアが浮かばなかったんなら、あんな意味のない台詞を言わせなければいいのに……。

脱線が長くなってすみません。本編へ戻りましょう。

 

いい大人の高校生的恋愛はもうお腹いっぱいです

キースと活動写真に出かけたトキに対し、素直になれず複雑な心境の風太。
この2人が、放課後の廊下ですれ違う高校生同士のように遭遇します。

何度でも書きますけど、この二人も今や芸人200人&寄席10軒を抱える興行元の大番頭と経理です。
さすがにヒマすぎやしませんか……。

ここで風太、口紅を落とします。そしてわざとらしく、
「誰のかわからんけど、リリコのかもしれんけど。これで化粧でもしてかわいらしくせえ!」
と、トキに渡すのです。
ドギマギするトキ……って、ちょっと待てや!

これ、イイハナシですかーい!
細かい突っ込みかもしれませんけど、素直に包装したまま渡すべきでは?

「誰のかわからんけど」
って、そんな拾得物をそのまま渡すようなことせんといてや。

いくら意地を張っていたとしても、包装した綺麗な口紅を渡すことはできないもんですかね。
風太だって既にイイ歳で大番頭です。
もう、私のほうがいたたまれずに、その場から逃げ出したくなりましたよ。

ちなみに、トキとキースのデート疑惑は簡単に晴れて終了。もう来週あたりに結婚して2人の恋愛劇は終わりにしていただければなぁ、と。
高橋一生さんの無駄遣いも目立ちますが、濱田岳さんと徳永えりさんの使い方も非常にもったいない!!!

 

ざわつく観客席 若い娘が素足と腰巻きで踊るなんて

高座では安来節が始まります。

「なんや、あのカッコ!」
ざわつく観客席。ここでナレーションが入ります。

「たいしたことないって? いえいえ、当時若い娘が素足と腰巻きで踊るなんて、天地がひっくり返るようなことだったのです」
うーん……。この件はマトメでつっこみさせていただきたく。

乙女組は、
「一緒にどげんかね!」
と言い出して、みなが一斉に踊り出します。
BGMが大仰に流れ出し、なんとなくまとまる風鳥亭。

ここで藤吉が、小屋の外にいたリリコに、
「お前のおかげや。お前はやっぱり、芸人や。いつでも戻って来てもええのに」
そう声を掛けるのでした。

もう完全に、リリコの恋心を利用しているとしか思えないんですよね。

リリコもリリコで、なんだかカッコつけて、
「中途半端なままで逃げ帰れない。女優としてやらしてもらうわ」
って。

同じことを雇用主である伊能栞の前で言ってあげてよ、と(´・ω・`)

 

キースが突然アメリカへ!?

乙女組初高座の打ち上げパーティが始まります。
4人の決意表明です。

都:家族のために牛を買いたかったけれど、もっと踊りをうまくなりたい
なつ:都を蹴飛ばして乙女組代表になる
はな:新しい洋服が欲しい、家族にも何か買って送りたい
とわ:中村屋のカステラを一本食べる。4人でずっと踊り続けたい

風太は、乙女組を「安来節日本一」の踊り手にすると言い出します。
野暮なことを言いますが、この4人は来週以降の出番はなさそうで。夢も叶いそうにありません。

藤吉は、北村笑店を日本一の笑いの殿堂にすると言い出します。

そしてキースが重大発表。
世界一の芸人になることを目指し、渡米すると言い出します。
アサリはコンビ解消となるため焦りますが、キースの決意は固いようです。

これもおかしな話でして。

先に渡米した藤吉の母・啄子とキースが親しくしていれば、もっと自然な流れの気がするんですよね。
ところが本作では、啄子と仲が良くて気の合う設定であったのは、アサリでした。

キースがエンタツをモデルとした人物なら、渡米はわかっていたはずです。
なんで伏線として、キースと啄子をつないでおかなかったんでしょうか。
わろてんか48話あらすじ感想

 

トボけ過ぎてて思わず噴いた

帰り道、てんと藤吉と隼也はのんびりと歩いています。
「キースさんには驚かせられますなァ」
「ほっとくしかない」

なんとも緊張感のない会話。

専属契約している芸人が契約解除なら、いろいろやることあるでしょう。
長いつきあいの友人が渡米するのなら、餞別もはずんでやろうとか言うこともあるでしょう。

この他人行儀感が、どうにも違和感。と思ったら……。

「夢は限りがありませんなあ」
「おっ、きれいな月や」

って、おいおい、どこまで能天気なんや!
今までで一番笑ってしまったやないかwwwwww

 

今日のマトメ1「活動写真が来る――の意味をマジで考えて」

今日もツッコミどころが多いのですが、歴史サイトのレビューらしく考証面を中心にいかせていただきます。

まず安来節の女踊り。
ヒットしたことは確かです。ただし活動期間は甚だ短いものでした。

このころ、娘義太夫や安来節の女踊りのようなものは、時代遅れとなってすぐ消えてしまいました。
本作のナレーションは、若い娘が脚を出すなんて天地がひっくり返る、と言っていました。
しかしリリコは、膝までのスカートで脚を出しています。素足ではないでしょうけれども。

若い娘の脚線美が見えてウッハー!なんて、短命で終わることは目に見えていたのです。
なぜそんな、一発屋めいたことを、大改革のように扱うんでしょうか。

だから本来、風太が栞に「活動写真が流行しているのに古くさい演目で続けるのか?」と挑発された時点で、時代の二、三歩先を行くものを見つけるべきだったのです。
調子にのって「乙女組を日本一にする!」なんて言っている場合じゃありません。

ここで、1920年代のダンス動画を貼っておきましょう。

 

栞が「活動写真が来るぞ」と警告したのは、こういう映像が海外から来るぞ、という話。
西洋の流行が、日本まで押し寄せる時代です。

こうした「狂騒の1920年代」の映像を見るであろう、流行に敏感な若者たちが、安来節の裾チラを観てどう思うのか、という話ですよ。

国内でなくとも、宝塚歌劇団が既に西洋風演劇に取り組み始めたころです。
劇中から6年後には、初の宝塚レビュー公演が行われます。

 

こういう映像を改めてみますと、なんで安来節なんてわざわざ取り上げたのか、と考えてしまいます。

別に安来節が悪いわけではありません。
ただ、吉本興業の歴史において、ここまで大きく扱うほどのものではない。
あきらかに比率がおかしいのです。

乙女組が夢を叶えた、ずっと続けたいと考えているのも、疑問でして。

戦前の日本において、女性の芸人というのは結婚引退が当たり前でした。
安来節で日本一を目指す前に、国元から早く戻って嫁に来い、と言われるのがオチでしょう。リリコが指摘したように、若い娘でもなければお色気路線は続けられないのですから。

 

今日のマトメ2「口紅は高給品」

もう一つ。口紅です。

スティックタイプの口紅の国内生産は、大正7年(1918)年から。
その前に輸入品はあったものの、かなり高いものでした。

それならギリギリセーフかと思われますが、ちらっと見た限りでは現代と同じ押し出し式のタイプに見えました。
しかし、押し出し式の登場は昭和13年(1938年)のことなのです。

それ以前は棒状の口紅を、筒に入れただけのものです。ここのところは、なかなか判断が厳しいところです。
ギリギリ、あるかないかの登場ということですね。

それでも問題はあります。
現在よりもずっと、スティックタイプの口紅は貴重かつ、高級品ということです。
誰かが落としたら必死で探しているでしょうし、持ち主もすぐ特定できるでしょう。

あんなふうに「誰のか知らんけど」と扱うにしては不自然です。
そんな高級品を雑に落としたり、気を引くためにポンと買ったりするのか、という点でも、首をひねってしまいます。

もう、素直にきっちりと包装して渡しておけばよかったんです。
変にツンデレぶるから破綻するんだ、時代考証でネチネチ突っ込まれるんだ、と言いたいです(参照:POLA)。

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【関連記事】
吉本せい 吉本興業の歴史

【参考】
NHK公式サイト

 

2 Comments

こえり

こんにちは。連日スミマセン。毎日納得いかない流れですが今日の藤吉の「掌に人って書いて…」にはテレビを前に「イヤイヤイヤ!あんたがそれ言っちゃあダメじゃろ!」と独り言を発してしまいました。芸人だった頃「人、人、人〜」と掌に書いては飲み をしつつも舞台袖でパニックになりイノシシの格好で「ぶひ~!」って舞台に飛び出してやらかしたのは誰でしたっけ?「みんなが覚えて無いだろうしまあ良いか!」とか思っておられるのでしょうか?それとも「これは、オマエが言うなや(笑)って爆笑だヨネ(◦ˉ ˘ ˉ◦)」と伏線回収なのでしょうか。もう朝ドラ迷子でございます。

ビーチボーイ

年明けの週もグダグダで終わってしまいました。話を展開させようとすればするほどドツボにはまって行くこの惨状。
だいたい、文鳥師匠、団吾・団真・お夕、藤岡屋の人々のその後、渡米した啄子ごりょんはんのその後… あれほどユニークで興味尽きない人物像が目白押しなのに全く登場させず、とにかく美女イケメン夫妻がのべつにニコニコしてさえいれば茶の間の視聴者は喜ぶ、と思ってるらしい脚本・演出どの。受信料負担者は軽く見られたもんです。
(くどいですが、懸命に熱演している桃李さん・わかなさんには何の瑕疵もありません。全ては日本の朝の顔を担っていることの重みを忘れ去ったイージーな作り手の責任です。)
言うまでもなく席主夫妻は舞台裏で支える陰の存在。芸人達に思う存分活躍させ暴れさせ、彼らが困った時にサッと救いの手を、ってのがカッコいいはずです。なのにいつもいつもその逆。そしてピンチ場面の救世主役はいつも伊能栞。これじゃ北村夫婦はまるっきりピエロですね。ひど過ぎます。私が松坂桃李だったら、とっくに脚本家の前でケツまくって出演ボイコットしてるかも知れませんよ。

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