「昨日の続きを聞かせてください」
「続きとは?」
「アニメーションにしかできない表現!」
視聴者も週をまたいで気になっていたことでしょう。
坂場のようなタイプって、自分の興味関心、セオリーを聞かれるとガーッと喋るかもしれません。そこは期待するじゃないですか。
しかし……。
「それはやはり、あなたが自分で考えてください。それで教えてください。それがアニメーターへの敬意です。あなたが本当のアニメーターなら、わかるでしょう……」
こ、こやつ!
まぁ、これでも彼なりに頑張ったつもりではあるのでしょう。
本当に坂場が『どうでもいい』と思っていたら、会話すらしないでさっさとどこかへ消えていたでしょう。そういう人だもんなぁ……。
彼なりにすごく努力はしたはずなんです。
あれが相手への敬意ある対応。
あくまで彼基準ですよ。
中川大志さんが美形であることから、彼はなつとロマンス相手感が出ているという評価もあるようですが。
いや……何か違うでしょう。
顔だけではない、中身を見るとめんどくさすぎる。初デートで終わるタイプでは?
がんばって三度目までデートできれば、違うのでしょうけれども。
そういうめんどくさい演技を、中川さんはよくこなしています。
発声も、動きも、独特の雰囲気さというか不穏感が出ているんですよね。
そんな坂場は相手からすればこうなります。
「黙れ小童ぁ!」
※こういう、言うことがコロコロ変わる奴は許せんわ!
雪次郎の幸せは、雪次郎が決める
「やなやつ、やなやつ、やなやつ! 本当のアニメーターなら? むかつく、くっそー!」
なつは、坂場に激怒しています。
そうだ、怒れ、怒っていい!
「今度は何?」
怒りながら席に戻ったなつに、茜が話しかけます。
「気合い入っているだけ」
なつはそうごまかします。
しかし、心理的に乱れたのか、その日は満足に描けないのでした。
「あー!」
思わずそう叫ぶなつ。
帰宅しその際に川村屋をのぞくと、雪次郎は働いています。
父の許可が出るまで、そうしているのでした。
風車では、咲太郎が瓶ビールを飲んでいます。
このプハーッという飲み方が、昭和しぐさです。
なつから、親の許しがなければ退職できないと聞いた咲太郎は、二十歳を超えた大人にそりゃねえだろうと言うわけです。
亜矢美は、役者になるより菓子職人が現実的だと言います。
うーん、元ダンサーでおでん屋の女将が言うと、説得力があるなぁ。
それでも咲太郎はめげない。
役者は不安定だけれども、それで不幸な奴はいないと。
咲太郎は、なつに釘を刺しつつ、こう言うのです。
「雪次郎に反対すんな。雪次郎の幸せは、雪次郎が決める。他人には決められない」
これもきょうだいの違いだ。
なつはかつて、咲太郎は誰かのために生きていて、自分のためではないと怒りました。
それを、マダムから他人のために生きることが幸せな人もいると、たしなめられているのです。
なつの欠点は、ちょっと決めつけてしまうところかもしれない。
これは泰樹にもあったことです。
結婚で幸せを見つけた泰樹は、そのルートをなつにも押し付けようとしてしまいました。
富士子と夕見子の間でも、そんな対立がありましたっけ。
善意からの行動でも、相手の意思を尊重しなければいけない。
咲太郎はそう諭してくるのです。問題行動ばかりではあっても、こういう長所はきちんと備えている。
なつよ、お前だって、雪次郎君が自由に自分を自由に表現できることを、願っているよな、誰よりも――。
父がそう語る中、いよいよ明日へ。
帯広から雪月軍がやってくる予感。
それはつまり……。
【東:雪月軍 10万】
総大将:とよババア(徳川家康)
猛将:雪之助(本多忠勝)
知将:妙子(本多正信)
雪次郎はどうなるのか? そして夕見子は?
雪次郎の進路が、もうハラハラドキドキ。
演じる山田裕貴さんの、目がとてもよいのです。
お調子者のころから愛嬌があったのですが、それだけではないあやしい光もありますよね。
彼の演技もあって、ドロドロ感が増すと言いますか。
雪次郎はそこまで意識していないでしょう。それでも無意識のうちに、田舎娘である夕見子と、妖艶で人生経験豊富な蘭子の間で迷ったようにもちょっと思えるのです。
初恋か?
それとも、大人として踏み出す恋か?
夕見子はハキハキしていて、とても可愛らしいけれども。
妖艶とは何かが違う。
蘭子は情熱的な演技を見せてきて、どこか艶やか。
恋愛ものの古典的王道と言いますか。
ナポレオンの元恋人デジレと、妻のジョゼフィーヌのようだと言いますか。
ナポレオンも小説を書く趣味があった、なかなかの文学青年です。
そういうアートに向かう情熱的な青年が、進路で迷っている。
それだけでもうドラマチック!
咲太郎もそうですが、人生の転機にちらりと恋愛のようでそうでもない、そんな感情がよぎりますとなんだか艶っぽさが出て来るものです。
『風林火山』の勘助も、ミツと由布姫で人生が変わった設定でしたね。
パンチラ、入浴、夫婦浴衣でゴーロゴロ。
そういうわかりやすくてゲスなことをしなくとも、そういう雰囲気は出せるのです。
雪次郎の山田さん、本当に素晴らしい。
目が雄弁です。
若手の適材適所感があって、本作は本当に良いと思います!
本作に出た若手の皆さんは、今後ますます活躍することでしょう。
◆吉沢亮:「なつぞら」天陽“告白”シーン、オーディション秘話も ドラマPは「顔で選んだのではない」
質問を質問で返すなあーっ!!
雪次郎のことだけでも手一杯なのに、なつの心を抉り続ける――坂場のウザさが月曜日から炸裂です。
坂場を教材に【生きているだけで表裏比興】の扱い方を説明できるので、楽しいといえば楽しい。
胸が痛いけれども。
今日のこやつは、ムカつくテクニックを使いおりました。
「アニメーションにしかできない表現!」
「それはやはり、あなたが自分で考えてください。それで教えてください。それがアニメーターへの敬意です。あなたが本当のアニメーターなら、わかるでしょう……」
質問に対し、あなたが考えてください、あなたはどう思うのかと返す。
真田昌幸と同じパターンです。
どうするのかと聞かれて、聞いてきた息子をゆさぶる。
むしろお前の考えを教えてくれと言い出す。
これでもある。
「質問を質問で返すなあーっ!!」
「質問を質問で返すなよ……礼儀に反するってもんだぜ」
「質問文に質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか? マヌケ」
『ジョジョの奇妙な冒険』ですね。
作者の荒木飛呂彦先生はどこまでそれが嫌いなのか、って話ですけど。
まぁ、これも表裏比興の習性&テクニックとも言えます。
礼儀云々でなくて、自然とそうする。
そして嫌われる。ウザがられる。会話したくねえとぶん投げられる。
ナゼそうなるのでしょうか?
ムカつくというだけでもありません。
これをやられると、主導権の移動や話題の転換が起こりやすい。話をそらすなと。脱線するなと。ともかく話がまとまりにくくなる。
だからこそ、礼儀にかこつけて、そういうことをやらせないように牽制するんですね。
常に思考回路が変わる表裏比興タイプは、これを無意識のうちでやらかしがち。
荒木先生はむしろ、これをやられるのが嫌いというよりも。
やってしまった結果、周囲から礼儀に反すると叱られ続けたタイプかもしれません。
荒木先生はともかくとして。坂場は自分の発言が抱えるむかつくウザさに無意識なのでしょう。
むしろ、
・アニメーターであるなつさんの意見を取り入れたいんだ
・なつさんは本物のアニメーター。この熱意からもわかる
・意見を聞くことこそ、敬意だから
・いろいろな意見を取り入れてブラッシュアップしてこそ、最善の結果を出せるんだ
・寛大で、常に進歩し続けることこそよいことだ!
という感じで「良いことを言ったなあ」ぐらいの認識かもしれません。
そして、坂場なりにいろいろと社会に溶け込もうと言う痕跡は、彼の言動から察知できます。
・なつに落としものかと聞いている。あれば手伝うつもりかもしれない
・なつの馬なりきりを笑わない、からかわない。理由ある試行錯誤は尊重したい
・「ご苦労様です」と労っている
・なつの謝罪を気にしていないと言う。根に持たない
・聞かれたことにはちゃんと答えている
・アニメーターへの敬意をさらりと口にする
・アニメーションならではの表現は、自分でも模索して結論が出ていない。なつの考えを取り入れて、ブラッシュアップしたいからこそ、あの答えになる
自分の試行錯誤をバカにされた経験があるからこそ、他人にはそうしないとか。
親や周囲から、もっと気を使えと言われたとか。
自分にはない才能を持つ、そんなアニメーターたちに、敬意を払って尊重するとか。
そういうよいところは、あると思うのです。
誰も見下さないし、ジャッジしようとはしない。
ただ、その結果がなんだかずれているだけなんです。
マコはギャフンと言わせると息巻いておりますが、坂場はこうなるでしょう。
「僕の指摘で改善できた部分もありますよね。それなのに、ギャフンと言うも何もありません。あなた方の才能は尊敬しますし、可能性があります。一緒に頑張って、理想のアニメーションを作りましょう」
「敗北宣言はないのか……?」
決着がつかんのよ。
『SHERLOCK』のシャーロック・ホームズのことを考えていて気づいたんですが。
彼はお礼を言っている場面が多いのです。
「ありがとう」、「助かるよ」とは言う。
ただ、目を合わせないとか。
ぶっきらぼうとか。
言ったらすぐに自分の考え事に戻るとか。だから駄目なんだな。
彼なりに、社会に馴染もうと言う気持ちはある。
それがどこかずれているだけなんです。
それゆえ、ムカつく変人扱いされてしまう。
まぁ、本人もけろっとしているようで、傷ついているかもしれないし。
努力はしているので……見守りましょう。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
いつも楽しくレビュー拝見しております。
雪次郎の乱、目が離せませんね。「雪月」の皆さんの上京が待ち遠しくてなりません。
ちなみに坂場ですが、私はウザいともやな奴とも感じないのですが(笑)。
彼には悪意も他意もなく、他人を侮辱しようとも傷つけようとも思っていませんよね?
にも関わらず、周囲と軋轢が生まれてしまう。それは果たして彼だけのせいなのか。
彼のような変わり者でない「普通の人」の側に、「人というものは皆同じように物を見て、同じように物を考えるはず」という思い込みがあるとは言えないでしょうか。だから「ズレた」人を見ると、そこに本来は存在しない他意や悪意を勝手に読み取ってしまう。
「人間はみんな違う」という前提に立って彼の言動をよく観察すれば、「やな奴」とは思わないはず……ではないかと。
以上、自分も坂場と似たタイプかもしれない人間の言い訳でした。