なつと夕見子の野望・大志
ここで、アニメを通してそれぞれの人物の思考回路も見えてきます。
【理解度低・大志低】
→適性が低い
野上:子供の落書き、楽をしたいから絵を描くのだろう
東映動画仕上げ課の女子社員:嫁入り前の腰掛けとして選んだ
【理解度低・大志高】
→大雑把だが、本質をつく
泰樹:なんだかよくわからんが、それを作ることは開拓だろう
夕見子:人生を表現するのに、適しているのではないか
【理解度高・大志低】
→目の前の作業をこなす、周囲を気遣える
モモッチ:なんとなく選んだけど、可能性を見出しつつある
堀内:美大卒でありながら入って、若干の不本意はあるようだが、変わりつつある
下山:絵とアクションが好き
【理解度高・大志高】
→話がでかくなりすぎて、トラブルを起こしがちでもある
マコ:憧れて選んだ道、何かすごいものを作るぞ!
坂場:大きな嘘から、本当のことを描く
なつ:子供達の夢を描く!
この中で、適性があまりないと言い切れるのは【理解度低・大志低】のみ。
大志があるといえばなんだかカッコいいのですが……人生経験豊富な泰樹はともかくとして、この面々は全員人間関係でトラブルを抱えていそうではありませんか。
マコ:黒い軍師、オーラが黒い、毒舌
坂場:表裏比興、言うことがコロコロ変わるし、よくわからないし、空気を読む気すらない
夕見子:心を引っ掻き回すイジワル軍師
なつ:中身が濃い、変人、しかし自覚がない
実際に、そういうシーンはあるわけでして。
一緒に仕事をしたら楽しい♪……とは限らないことは頭の隅にでも入れておいたほうがよさそうです。
酒を飲んで通じ合う心と運命
咲太郎は、泰然と富士子、剛男と酒を飲んでいます。
岡田将生さんの酒を飲み干す動作が完全に昭和で、こりゃすごいなと。
ここの座り方にも性格が出ておりまして。
咲太郎と泰樹はあぐらでリラックスしているのですが、婿養子でああいう性格の剛男は、正座なのです。
剛男はこう反省します。
「こんな運命にしてしまったのは、私のせいかもしれない……」
「そうですよ」
なつぞら7話 感想あらすじ視聴率(4/8)「東京に行ったのかもしれん」ここで咲太郎は、こう付け加えるのです。
「だから俺は、そのことに心から感謝しています」
「ありがとう……」
咲太郎は心の底からそう思っているのでしょう。
変人で失礼な夕見子問答もふまえ、そう思っていると伝わってきました。
何度でも書かないと。
あの年代、あの地方で、女子の北大進学を許す家庭は普通ではありません。夕見子本人の知略も普通ではありませんが、それだけでもないのです。
ここで泰樹はこうしみじみと言います。
「咲太郎。お前はここまで、よくやったな」
そう励まされ、酒を飲みあいます。
酒を通して心が通じ合う、そんな人情がそこにはあるのです。
戻る決意、送り出す家
翌朝、なつは牛を搾乳しています。
戸村親子も、そんななつを懐かしんでいます。
搾乳技術も衰えていないし、ここにいて欲しいのです。
菊介がここで漫画映画を作れ、手伝うと言います。
千遥を受け止め守るとも言っておりましたし、何か寂しいのかも。
何ができるのかと突っ込まれ、肩もみくらいはできると返す菊介ですが。
なつぞら81話 感想あらすじ視聴率(7/3)芸者とは、芸を売っても身は……なつはこう返します。
「ありがとう。それを聞いて、やーっと戻る気になったわ」
「そりゃないべ!」
容赦ないんだなぁ。菊介もそう返すしかありません。
何度も指摘していますが、なつは結構言うことがきついです。
夕見子やマコ相手だと、相対的に穏やかに思えるだけで。
これもギリギリでセクハラをかわしています。
菊介がもっとエロを醸し出していたらアウトですし、なつが
「やだぁぁ〜もぉおお〜、菊介さんてばぁ❤︎」
なんてリアクションしていたら、それでも辛いものがあります。
なつはきっちり、拒否をしているんですね。
そこがセーフなのです。
なつは、明美の髪の毛を編んでいます。
こういう仕草に、姉妹の絆を見せています。そして夕見子はそういうことはしない。
髪型も姉妹の縁があるのかも。
なつ、千遥、明美は三つ編みです。夕見子は違います。
「元気でねー、いってきます!」
そう明美を見送ったあと、千遥の残したワンピースが映ります。
なつは富士子に抱きつき、別れを惜しんでいます。
それから、照男と砂良の赤ん坊誕生を楽しみにしていると告げるのでした。
咲太郎は、照男たちにまた東京に来て欲しいと告げるのでした。
なつぞら61話 感想あらすじ視聴率(6/10)セリフなくとも雄弁なり富士子は千遥のワンピースについて、こう言うのです。
「いつか取りに来てくれるといいね……」
そうです。そのためにも、ここに残さねば。
服が大きなポイントとなりました。
そして夕見子は、目をギラつかせてこれですよ。
「そのうち、東京に連絡するッ!」
まぁ、以前もこれですから。
なつぞら53話 感想あらすじ視聴率(5/31)兄の部屋「電話代がかかるから、手短に。いいか、なつ、負けんな。中に入ったら、負けんな。負けたらつまらんぞ!」
「負けんぞ、特に夕見子には負けんから!」
「はいはい、お金もったいないから切るね」
夕見子に【めんこい女の子らしさ❤︎】を期待すると、裏切られます。
こんな女いてたまるか! と、思われますか?
余裕で、いるでしょう。
見たことがないとしたら、夕見子タイプから遠ざけられているか、本音を見せられていないだけかもしれません。
ここで泰樹はこう宣言します。
「うちのことは任せろ。咲太郎、しっかりしろや!」
その言葉を受け、きょうだいは出発します――。
こうして軽トラックで柴田牧場を去り、なつの短い里帰りは終わります。
夢か、幻か。
千遥がなつの服を着て、手を振る姿が見えます。
なつよ、千遥の目にもこの風景は焼き付いているだろう――。
そう父が告げる中、なつと咲太郎は東京に戻るのでした。
「普通を、疑えッ!」
軍師・夕見子の問題点はいろいろあります。
今日も失礼、無礼、空気を読まないコンボでした。
その根底には、猜疑心の強さがあります。ともかく引っかかると、気になると、そこをウロウロしてしまうのです。
ウザいです……素直に言うことを聞けや。
そう言いたくなる気持ちはわかります。
しかし、こういう猜疑心がバリバリに強い軍師は、使いどころを見極めれば有能ですし、人類の歴史においては必要なのです。
「免罪符で罪が許されるっていう課金システム、おかしいでしょ」
→宗教改革
「なんか、太陽が地球の周りを動くって変だ」
→地動説
「王様は神様から統治権もらっただぁ? そんなの普通じゃねーし」
→革命
「は? 日本の女に教育は不要だと?」
→津田塾大学
猜疑心が強くて、普通はこうだということを疑い、反発する。
そこに発見と人類の進歩はあるんです。
ただ……それがこういう方向性に発揮されると鬱陶しいことは確かです。
「国衆だから大名に従うことこそ普通って、そういうのなんかウザくね?」
話がでかくなりましたが、そういう普通に疑念を抱いたものが、時代を動かしてきたことは確かです。
天正遣欧少年使節を描いたアマゾンプライム『MAGI』でも、この極みのようなところがありました。
日本から来た少年使節団を、教皇権威に利用しようとする宣教師。
それに少年たちは反発するのです。
「いいか、教皇に質問するなよ。カトリックを褒めること以外、余計なことは言うなよ」
「質問がありまーす。地動説を唱えたガリレオ先生迫害はなんなんですか?」
「奴隷容認ってありですか?」
「うぐぐぐぐ……」
『ゲーム・オブ・スローンズ』でも、最後の最後でこうひねってきたものです。
「そもそも王家の血を引くからって、王になるっておかしくねえか」
「普通を、疑えッ!」
といきなり主張する夕見子。
めんどくさいことこの上ありませんが、それも個性であり、強烈な言葉であり、今日のテーマに即したドラマ主人公であるのです。
女性でありながら、このバリバリの猜疑心で引っ掻き回す。
こういう人物がよく出てきたものだと思います。
『あさが来た』のあさは「なんでだす?」が口癖でした。
しかし、それでも後半は、家事育児を期待されることに疑念を呈しませんでした。
当時のあの階級でそれはおかしい設定ですし、モデルもそうではありません。
チャレンジする女性といっても、反抗心は控えめに下方修正される――そんな朝ドラの悪い傾向はあったものです。
夕見子はメインヒロインでありません。
とはいえ、主役のなつもかなり濃く、反抗的で、夕見子の影響を強く受けた人物です。なつにも、そういう要素はあるのでしょう。
反逆精神あふれ、猜疑心があるヒロイン、いいじゃないですか!
昔はそれが当然って? 本当に?
ここで、こういう反論を疑ってみることをお勧めします。
「そうはいっても、昔は十代で結婚出産が当たり前でしょ? それで世の中が回っていたのでしょ?」
歴史サイトらしく、歴史をふまえて反論します。
・十代での結婚と出産が当たり前だったのだ
→国、地域、時代によるとしか言いようがありません。
「江戸期日本」で限ったとしても、東西の差があります。
戦国大名や貴族のような、年齢がわかる事例ばかり着目されがちですが、そうではない層もいたことを忘れてはなりません。
昔、若年結婚および出産で亡くなった例は、忘れられやすいもの。
それが庶民となればなおさらのことでしょう。
前田利家の妻・芳春院を持ち出されたところで、
「それはひとつの成功例ですね」
で終了です。
・昔は当然だったからいいのか?
→その理屈ですと、鉄火起請での紛争解決もあり! ということになりかねませんか。
女性のこと、出産育児に関してだけ昔に戻れというのは、どういうことなのでしょうか。
・十代での結婚と出産こそ、生物学的にも合理性がある
→それはむしろ反対です。
出産に適した骨盤の発達が伴わず、問題化する事例があるのです。
◆「妹はたった11歳で妊娠した」出産によって人生を奪われている女の子たちが伝えたいこと
社会的な孤立、女性の教育阻害……そういう問題もあります。
◆“10代で出産” 母親たちの孤立|けさのクローズアップ|NHK おはよう日本
「昔はそれが当然だった」
という言葉には、苦痛や侵害が、単に問題視されていなかっただけということがあるものです。
ここでもう一度、こう言ってみましょうか。
「普通を、疑えッ!」
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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泰樹から咲太郎への言葉はこちらが泣きそうになりました。
父母を失い、長男として妹2人を抱えて生き延びようとした咲太郎。幾度も力不足を嘆いたと思います。その彼をよくやったなと労えるのは、同じ男性であり、たった1人家族を養おうと奮闘した彼だけではないかなと思います。まるで父親に労われた思いがしたのでは。
それはそうとして、最近、岡山の高校生が、蝉の寿命は7日というのは俗説と証明して、ニュースになりましたね。あれも、すごいなあと思いました。まさか、あんなに常識然とした知識が、俗説だったなんて。ワクワクします。世の中、まだまだ探検しがいがあるんですね。