なつぞら90話 感想あらすじ視聴率(7/13)起点は夕見子

社会風刺はありなのか?

東映動画の会議室では、下山が仲と井戸原に作品の説明をしていました。

井戸原は戸惑っています。

「これのどこが『ヘンゼルとグレーテル』?」

仲は困惑しつつも、認めようとします。

「破茶滅茶だけど、新しい……」

井戸原は警戒したようなことを言い出します。

「これは社会風刺かな?」

下山、ギクリとしています。

「坂場くんは、象徴や隠喩が好きなので」

井戸原はさらにつっこみます。

「坂場だけ?」

「なっちゃんも……」

「なっちゃんが?」

ここで仲も井戸原もちょっと衝撃を受けています。
何やら不穏です。

若者よ、立ち上がれ、踊れ、楽しめ

さて、風車での決起集会には先客の夕見子や雪次郎、それに煙カスミもおりまして。
夕見子はカスミに歌えと迫ります。

「プロに失礼でしょ!」

「決起だと歌がないと!」

何度でも言います。
空気を読めとか、失礼だからするなとか、夕見子にはわからないのです。

カスミはここで快諾し、歌い始めます。
こういう相手だからよいものですが、夕見子に敵は多いと思いますよ。

「若者よ、立ち上がれ!」

カスミは結構ノリノリです。
こうして、若者たちは立ち上がって踊り始めるのです。

その中には雪次郎も……。

ハッ!
もしやこれは、雪次郎を励ます、そんな夕見子の深慮遠謀とな?

いやいやいや、それはないか。
ここで流れるこの歌。『テトリス』だな〜となる人もいるかもしれませんが。

ロシア民謡『コロベイニキ』、または『コロブチカ』です。

楽しそうに新宿の路地裏で歌い踊る、若者たち。
父もうっとりとこう言います。

ああ、なつよ。歌い踊れ、青春を楽しめ。狂おしいほど青春を楽しめ、平和を楽しめーー
来週に続けよーー

戦死した兵士の言葉が、重いのでした。

軍師・夕見子を侮るな!

土曜日は、次の週に引っ張るフックです。
先週もそうでしたが、明確に恋がテーマになる来週に向けて、二週連続で夕見子が乱入してきました。

夕見子……彼女はものすごく重要な人物です。
作劇上、明らかに特徴があります。

・剛男がなつを柴田家に連れてきたのは「同い年の娘である夕見子がいたから」

→もしも同い年の息子がいたら、咲太郎であったかもしれませんよ。

戦場で、夕見子を思わない日は一日も、いや片時もなかったと剛男は語ります。
それはきっと、戦友であるなつの父も同じであったはず。
自分のことばかりではなく、周囲を思いやる。そんな優しさですね。
そんな死んでしまった戦友と、自分の運命が逆転していた可能性もある。
だから、夕見子となっちゃんが反対でもおかしくなかった――。

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・夕見子はなつの行動を先んじる傾向がある

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・夕見子と坂場は「空気を読めない枠ツートップ」

→マコもかなりのものでしたが、今週の展開で感情制御や「空気を読む」ことを習得したと示されています。

・『ヘンゼルとグレーテル』のアイデア根本にあったのは、夕見子の閃きだ

→阿川弥市郎といった要素もありますが、起点は夕見子なのです

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本当にこの人は、大事なんですよ。

Vシネで父の演技を見ていた福地桃子さんというのも、素敵じゃありませんか。
そういうアニキのような、切込隊長ぽさを受け継いだってことでしょう。
強くていいですね。

まさかアニメがテーマの朝ドラにこういう人が出るとは

そんな夕見子の特異点とは?
近年朝ドラにしては異例の、明確なフェミニストとしての特徴を備えていることです。

朝ドラにフェミニストはいたのか?
これはもう、モデルの時点では大勢いたとしか言いようがありません。

100作ある作品を全部把握するのも流石に無理がありますので、2010年代だけでみていきましょうか。

モデルが思想的背景として、そのあたりがあった作品はこのへんです。

◆2014年上半期:『花子とアン』

村岡花子は津田梅子の影響を受けています。後継者ともいえます。
思想的には、明確にフェミニスト(=男性と女性の平等を主張する)としないほうが無理があるのです。

柳原蓮子も、娼妓解放に関与しています。
『吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日』の著者である森光子は、彼女を頼って逃げ出したのです。

ドラマではそのあたり、影も形もありませんでした……。
それどころか、森光子がモデルである役にセクシーを売り物にした女優を出して、エロを前面に出すという侮辱ぶりでした。

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◆2015年下半期:『あさが来た』

明治の女子教育を語るうえで「フェミニズムは関係ありません」と言い切るほうがむしろ無理があります。
ドラマでは前半のみでしょう。

後半は、
「家事育児と仕事の両立ができない〜」
とくよくよする、ただのびっくりぽんヒロインでした。思想なんてあるはずもない。

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◆2016年上半期:『とと姉ちゃん』

これはモデルとなった『暮らしの手帖』が絶縁宣言するほど、フェミニズムはじめ思想的なものが引き抜かれた「問題作」でした。

女性が生きていくうえで、悲鳴をあげる作品もありました。

2011年下半期『カーネーション』では、ヒロイン糸子はだんじり祭りに「女だから」参加できないことが、人生の根底にありました。
不倫描写はじめ、様々な描写で女性の不平等を描いていたものです。

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2017年上半期『半分、青い。』では、仕事以外の道として見合いがある描写。
シングルマザーになった鈴愛の困難。
女性の受付嬢は年齢で跳ねられるといった、等身大の女性差別があったものです。

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あとはどうですかね。

このあたりは避けて通っているような、そんな作品も多いものですが。
2012年下半期『純と愛』あたりは、尽くすヒロインを皮肉ったラストだと考えると、あれはあれでおもしろいものがありましたし。

※パロディだと思えばこれは大傑作ですよ!

こうして比較すると、本作は練りに練って最強にして最凶、理論武装して大学で学んだフェミニスト・夕見子を投入してきた感があります。

朝ドラはそういう人は大嫌いだと思っていました。
****で確信させられたものでしたが……。

そこにNHK東京は挑んできた。
アニメがテーマだと思うと、より一層深いものがあります。
挑発的です。

それというのも、こういうことはさんざん言われるわけじゃないですか。

「フェミどもがケチをつけるせいで、アニメの表現の自由がなくなるんだ〜」

そのあたりを、本作はどう切り込むのかな?

そうこう言っているうちに、むしろジェンダー感がお留守のアニメ作品が増えすぎて、世界的に孤立しそうな勢いです。

尻にスカートを挟んで喜んでいる場合じゃ、ないんだってば。

学生運動、社会風刺、ロシア民謡、レッドパージ

そして今日は、赤い流れが明確に見えてきましたね。

深読みしすぎと突っ込まれようと、ここまで揃うとこうであるとしか言いようがありません。

※万歳、人民の意志!

まさか朝ドラレビューで、ソ連国歌を探すとは思わなかった……。

当時、共産主義に共鳴する若者は多かったものです。
2016年上半期『ひよっこ』でも、ロシア民謡が登場しました。

その程度の時代背景描写ならわかります。
しかし、今朝は濃すぎるよ!

日本人はずーっと資本主義で、アメリカ大好きで、ソ連に共感なんてありえませんよ、ハハハ!

そういう流れが、朝ドラにもあったような。
昨日、西部劇が出てきたように、冷戦時代もずっとアメリカLOVEだったと、そういう誤解もあるようですが。

そもそも冷戦は長く、思想もうねっておりまして、そうとも言い切れない。

夕見子が赤い流れに登場人物を蹴り落としたような印象もありますが、蘭子だって「レッドパージ」で芽が出なかったわけですし。

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カスミだって、ロシア民謡をサッと歌えるわけですよ。
赤い。明確に赤いわ。

そして不穏な要素。
井戸原は社会風刺に警戒を見せています。
彼自身というよりは、大杉社長に潰されないか、そこを心配している可能性もあると。

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なつの社長への敵意や不信感も見えていますし、これは今後、おそろしいカタストロフも見えてきましたよ。

万国のアニメーターよ、団結せよ!

なつにせよ、坂場にせよ。
もはや謀反の気配は濃厚になってくるわけです。

夕見子も忘れてはなりません。
咲太郎も蘭子も、レッドパージで目をつけられた前歴がありますし。

来週は恋にしても、その先は絶対にこれは荒れますよね。

日本のアニメの歴史をたどるとなると、そこを避けては通れないはず。
アニメーターの労働環境の悪さも、問題化しております。

◆アニメ制作会社「マッドハウス」社員は月393時間働き、帰宅途中に倒れた 過去には過労自殺も。知られざる「制作進行」の悲痛な叫び

モデルの経歴をたどってみても、不自然ではないのです。
これは突っ込みますよ。労働問題、やりますよ!

意義のあるチャレンジであり、誠実ではあります。

それでも信じられない、一体どういうことかと私が困惑している理由もあります。
前述の通りフェミニズムはじめ、思想は朝ドラから避けられるものであったからなのです。

朝の15分を明るく楽しく、何も考えずに見ていればいいだけ♪
パンチラや褌尻無双があれば最高❤︎

パーッと楽しめ、突っ込むな、考えるな。

そう言われても、突っ込んだ方が楽しい人もいる!
明確に、真逆を爆走していきそうではないですか。

アニメがテーマというのも奥深い。

前述のようなフェミニストに対して、アニメの敵だの、労働問題だの、うるさい左派はうっとうしいだの、そういった意見はアニメファンの間で根強いものです。

そこを正面からぶった切りそうな本作。
いいのか、大丈夫なのかっ!

でも、それでこそアニメの歴史でもありますよね。

レジェンドだってそういう人なんだし、そこはもう受け止めましょうよ!

 

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!

【参考】なつぞら公式HP

 

3 Comments

まめしば

全然アリでしょう。
元々朝ドラは「頭を空っぽにして見るもの」ではなくて「おしんのような重たいものがスタンダード」だったんですから。

匿名

あれ?
最終的には、マコさんとなつと神地くんが原画を描いて、堀内くんと茜さんがクリーンナップしつつ動画を描く、となったですよね。

それに坂場さんが言い出したことではなく、神地くんが自分からやらせてくれと言ったんですよ。

そして、マコさんは「やれるもんならやってみなさいよ」と挑発しつつニヤリと笑っていました。
別に不満そうな表情ではなく、どちらかといえば面白がっていたと思いますが。

以前、なつの服(オーバーオール)について指摘した者です。
武者さん、ちゃんと見て書いてますか?
マコさんはこうだという思い込みがまた邪魔してませんか?

あしもと

私も制作職ですが、結論としては、いい作品と労働環境の改善は、全く正比例だと感じています。
ときおり、働き方改革はクリエイティブの障害とする意見も目にしますが、それは「運動中に水を飲んではいけない」と同じ錯覚です。結果的に好成績が出ても、それは水を飲まなかったからではないです。

ところで、剛男は咲太郎も引き取ろうとしてましたよ。咲太郎が断りました。
理由は、自分まで北海道に行ったら千遥がかわいそうだから。またその他にも、2人でなく1人ならまだ、受け入れてもらいやすいだろうと、なつの幸せを第一に考えて身を引いたのだと思います。

咲太郎の妹思いが徹底していることを示す描写なので、指摘させていただきます。

できれば剛男には、千遥にその咲太郎の言葉を伝えてほしかったなあ。咲太郎が自分を差し置いても自分の幸せを祈っていたことを、千遥はより深く知ることができたと思います。

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