「してません!」
「なんてったって恋❤︎」
「してない! してませんから!」
「大丈夫!」
この場面、抱腹絶倒ものです。
年齢的に咲太郎に恋をするなんて、マダムとしては認められないし、恥ずかしい。本人も無意識でしょう。
大人が子供に恋をするのは恥!
そういう認識があります。未成年に成年がワラワラしていた前作****ときたら……。
しかし、マダムもそこを全否定できない。
亜矢美もわかっている。
幼い頃から、咲太郎には魔性があったのでしょう。
人の心を惹きつけ、思わず世話をしたくなる。恋のようで、恋未満。甘酸っぱくてくすぐったい――そんな魔性があった。
そこにグッと来なかったとは言わせないし、弱点でもある。
そこを亜矢美は突いて来たのでしょう。
見事な策です。本作は皆、知略が『信長の野望』の毛利元就くらいあるなぁ!
だからといって、マダムは見返りを期待していませんし、ましてやエロチックなことなんざ想像するだけで吐くでしょうよ。
そっと見守って、足長おじさんならぬマダムになりたい。
庇護して心温まりたい――そんな心理を感じるんだなぁ。
兄の絵、父の絵
ここで人の心を読み取って生きてきた、タフな亜矢美が本領を発揮します。
なつは、亡くなった父の絵を持っているはず。
そう語りかけてくるのです。
咲太郎も、父による家族の絵を思い出して描いたそうです。
封筒に入れたその絵を、亜矢美は渡してきました。その絵をじっと見るなつ……。
「あいつは自分で描いて、心の支えにして来た。あなたに迷惑をかけたかもしれないけれども、一生懸命生きている。それだけはわかってあげて」
「そっくりです。お父さんの絵に、この絵そっくりです」
なつは感慨深げな顔になっています。
自室で、二枚の絵を見比べているなつ。
その絵を描いた父の声が重なります。
なつよ、咲太郎をどうか許してやってくれ――。
なつの変貌
今日は、結構難易度が高い回であったと思います。
ぱっと見たところ、なつがあまりに身勝手に思えなくもありません。
そうならないよう、面接で咲太郎がやらかしたマイナスを前に持ってきて、バランスを取っているようにも思えます。
レミ子の怒りもわかる。
咲太郎も苛立つ。
その理由は何か?
なつの変貌があるのでしょう。
なつ自身、かつては富士子や剛男から自分のために生きて欲しいと思われていました。
だからこそ、柴田家の皆はなつの演劇部入部にホッとしていたのです。
夕見子と天陽は、なつが誰かのために生きること、自分を出せないことに苛立ちすら見せていました。
そこを乗り越えたからこそ、泰樹は「それでこそわしの孫じゃ!」と太鼓判を押したのです。
なつは、自分のために生きること、やりたいことを目指す。
その素晴らしさこそ生きることだと、北海道での生き方を通して見出したのです。
だからこそ噛み合わない。
兄が、かつての自分のように見えて、イラ立ってしまうのかな?
ただし、それは人による。
マダムが具体的な解決例を出してきました。
咲太郎は、誰かのために尽くすこと。
ついでに言えば、その場を明るくして、笑わせることこそが喜びではないでしょうか。
彼は生まれついてのエンターティナーなんですよ。
誰かのために尽くしてもよい
実は、自分ではなく誰かのために尽くす大切さも、本作では泰樹と演劇部の『白蛇伝説』を通して描いています。
自分のために生きてきた泰樹。
その生き方に頑なになっていたと、なつが示しました。
今度はなつが、そこに陥ってしまいかけたのかもしれません。
生き方は人それぞれ。マダムの言う通りです。
そして本作の面白いところが、ジェンダーを逆転させるあの手法です。
咲太郎が、誰かのために尽くす女性だったらいかがでしょうか?
ストリップバーで踊り、親ほど年上の恩人の借金のために尽くす。
冷静に考えてグロテスクな関係に思えますが、それこそ昭和、演歌の世界かもしれない……。
それを見た弟が「姉ちゃんはおかしいよ!」と言い出したら、ここまで印象的ではないかもしれません。
前作****が典型例ですが、女性が尽くすことはそれが本質だと思われるところすらある。
それを敢えて、逆転させたようにも思えるのです。
一歩間違えればどうしようもないドロドロに突っ込みそうですが、本作は踏みとどまっています。
亜矢美も、マダムも、搾取するだけのゲスではありませんから。
それに、協力し合うことで艶やかな世界も見えて来ています。
自分の生きる道をあくまで選んだ天陽は、むしろ人間界から隔てられたと言いますか、むしろそういうものがない。恋愛感情を切り捨てました。
それに対して、もたれあう咲太郎の世界には、あたたかみのある艶がうっすらとある。
これは好きな人は好きなんだろうなぁ、と納得できるのです。
本作は、個々人の性格や特性の差をふまえ、彼らにあった正解を探しているように思えます。
きょうだいだろうと、性格が違えば答えも違う。
それを受け入れてこそ、豊かな世界が出来上がる。そういう優しさを感じさせるのです。
それが出来ずに、合わない正解を押し付けると、大魔導士・泰樹すら倒れる。
そういうシビアなところもありますしね。
噛み合わなかったきょうだい。
誤解を乗り越え、わかりあえるようになるのでしょうか。
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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マダムが「恋」!
図星なのか? こじつけなのか?
可笑しかったですねえ。
「人のために尽くす」ことが悦びだという生き方。
マダムとのやりとりから、なつに理解の糸口のようなものが芽生えていたら良いのですが。